軸が歪むと人生、損をする。カラダの“軸”についての考察
“筋の通った”大人のマストアイテム、カラダの軸の正体とは。よく聞くわりに理解できていないカラダの“軸”。どういうものでどんな役割なのか、考察してみよう。
取材・文/石飛カノ 撮影/山城健朗 スタイリスト/山口ゆうすけ へア&メイク/村田真弓 イラストレーション/山崎真理子 ポーズ指導・撮影協力/菅原順二(アランチャ代表) 取材協力/伊坂忠夫(立命館大学スポーツ健康科学部教授)、寺田昌史(立命館大学スポーツ健康科学部講師)、泉本洋香(立命館大学スポーツ健康科学部 伊坂研究室)
(初出『Tarzan』No.772・2019年9月12日発売)
カラダの“軸”とは何か?
カラダの軸って何ですか? その問いにズバッと答えを出すのは難しい。ヨギーはチャクラと言うかもしれないし、武道家は丹田と言うかもしれない。
いろんな分野があるので答えはひとつではないが、整形外科的には、横から見て「耳たぶ、首の骨、肩、背骨、股関節のやや後ろ、くるぶしの前を通り足裏に抜ける」ラインが直立姿勢の重心線。今回、『ターザン』はこれを正しい姿勢の指標となる“軸”と見なす。
脊柱のS字カーブのコンビネーション。
そもそも、ヒトは生まれながらに正しい軸を持ち合わせてはいない。
ハイハイから立ち上がって頭をカラダのてっぺんに戴くようになると、背骨=脊柱がまっすぐでは着地の衝撃が直に脳に伝わって具合が悪い。なので、二足歩行の上達とともに脊柱のS字カーブを完成させて衝撃を分散させる仕組みを作る。
姿勢の形成に関わる脊柱のS字カーブとは、前彎している7つの頸椎(首の骨)と後彎している12個の胸椎(胸の骨)、再び前彎している5つの腰椎(腰の骨)の連なりのこと。
頸椎は左右方向に捻ったり前後に曲げたり左右に倒したりする動作の可動域が最も広い。ただし骨自体が小さいうえに重い頭を直接支持しているので、やや安定性に欠ける。
胸椎は頸椎の次に動作の可動域が広く、肋骨というカゴを持ち合わせているので安定性もそこそこ。腰椎は最も安定していて屈曲動作に関しては得意だが、捻る動作は苦手で回旋の可動域は5〜15度程度。
スポーツの動作でよく「腰を回せ」と指導されることがあるが、厳密にいうと捻りの動作に最も貢献しているのは胸椎。胸椎とさらに骨盤の捻りが腰椎に反映されてスムーズな回旋動作が可能になる。
いずれにしろ、脊柱のS字カーブの絶妙なコンビネーションによって軸が作られ、姿勢や動作の効率化が図れるというわけだ。
座っているときに背中が丸まっていると。
下のイラストで示したのは、立って静止しているときに限ったカラダの軸。さまざまな動作時にはまた別の軸が発生する。
たとえば座っている場合。坐骨の下側と椅子の接触面から腰椎の上から数えて3番目を通ってまっすぐ上がり、頭のてっぺんに突き抜けるのが正しいカラダの軸。
つまり、安定した姿勢を維持するポイントは腰椎の3番。ちなみに、腰痛の原因は大抵、腰椎の上から数えて4番5番がズレたり歪んでしまうこと。その上にある腰椎3番は不動の構えで姿勢を保っているというわけ。
さらに姿勢と呼吸は連動していて、呼吸を整えることができれば正しい姿勢を保つことが可能になり、呼吸が乱れれば姿勢も歪む。横隔膜は本来、黙っていても呼吸をリードしてくれるが、その働きが悪くなると肩や首の筋肉などが頑張るため、余計な負担がかかり姿勢が乱れるのだ。
つまり、座っているときに背中が丸まり、C字カーブを描いている人は軸、姿勢、呼吸、すべて乱れているということ。長時間、座り姿勢を続けているほとんどの現代人は、こうした軸の歪みが生じがちなのだ。
軸が歪めば人生、損をする。
では、姿勢が乱れ、軸が歪むと何が起こるか。S字カーブが保てなければ首、肩、腰に負担がかかるので凝りや痛みの症状が出る。胸郭の動きが悪くなれば腕が上がりにくくなって四十肩・五十肩のリスクが増す。
脊柱の歪みは骨盤の前後の傾きにも影響するので、股関節の可動域も小さくなり、筋肉の活動のバランスが崩れる。すると、歩幅が狭くなってしまう可能性も。
見た目にだって悪い影響あり。猫背姿勢の人とシャキッとした姿勢の人では印象が違う。前者は胸の張りがなく自信なさげに見えがちで仕事や人間関係ではとても不利。つまり、軸が歪めば人生、損をする!