夏の食欲不振からあなたの身に起こりうる、5つの問題
取材・文/石飛カノ 撮影/小川朋央 スタイリスト/高島聖子 ヘア&メイク/村田真弓 取材協力/篠原菊紀(諏訪東京理科大学教授)
初出『Tarzan』No.770・2019年8月8日発売
目次
1. 猛暑というストレスで食欲が激減する恐れあり!
ストレスがかかると、腎臓の上にある副腎皮質という臓器からコルチゾールと呼ばれるホルモンが分泌され、ストレス対抗措置をとる。肝臓で糖を作り出したり、脂肪を分解したり、筋肉でタンパク質を代謝し、いざってときにしっかり動けるよう備えるのだ。
最も上流でそのコルチゾールを作るよう指令するのが視床下部から分泌されるCRH(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)。
CRHは自律神経の交感神経が優位になりっぱなしの状態になると、ドバドバ放出される。猛暑でへばる→エアコンでの急速冷却→再び猛暑にさらされる、と繰り返すストレス状況下で交感神経は働き通し。
そもそも交感神経が優位になると食欲は低下する。獲物を追いかけているとき空腹でへばっていてはマズいからだ。で、猛暑というストレスでCRH出まくり、食欲は激減。
2. タンパク質不足の食では満腹感が得られない!
食欲に関わる伝達物質は中枢神経系や末梢組織から、数限りなく分泌されて相互作用を起こしている。
腸管から分泌されるペプチドYYという物質もそのひとつ。食事をすると大体30〜60分の間にペプチドYYが分泌され、迷走神経を介して視床下部の弓状核に伝わり、食欲抑制のPOMCニューロンの働きが促される。さらに、このペプチドYYは、タンパク質を摂ることによって分泌レベルがアップすることが分かっているのだ。
暑さに負けて、がっつり肉は食べる気しない。なので、今日もそうめんを啜って済ませてしまおう。でも気づいたら、あっという間に3把4把を平らげちゃった。それ、あまりにタンパク質貧弱でペプチドYYが機能していないせいかも。
3. 気温上昇で代謝が低下。夏は食欲が落ちて当然?
大汗かいてさも代謝が上がっているような気になるが、実は夏は代謝機能が下がる季節。理由のひとつは、暑い環境では自家発電で体温を維持する必要がないから。
逆に低温の環境下では脂肪細胞のひとつ、褐色脂肪細胞の働きが活性化する。肩甲骨や背骨の周辺にある褐色脂肪細胞は、血液中の脂肪や糖を取り込んで熱エネルギーに変え、体温が下がりすぎないようキープする。
これは寒い冬の時期、屋外で過ごすときにとても重宝するシステムだ。低温の環境下である程度過ごすことで、白色脂肪細胞がベージュ化して褐色脂肪細胞と同様の働きをすることも分かっている。
猛暑の夏では褐色脂肪細胞は休眠中。代謝がボトムダウンするので摂取するエネルギー量も自ずと減る。他の季節よりちょい小食になっても当然と心得ておこう。
4. 喉ごしのよすぎる食事が太る原因になる可能性大!
暑さに負けて、今日もそうめんに手が伸びる。でも気づくと、1袋まるまる食べちゃった。その原因は、「嚙む」という作業を省略しているせいかもしれない。
食べ物を咀嚼をすると、歯を取り巻く膜や頰の筋肉から脳幹にある咀嚼中枢が刺激され、ヒスタミンという物質が分泌される。このヒスタミンも食欲調整物質のひとつ。視床下部の弓状核に伝達されて満腹中枢の働きを促す。さらに、咀嚼することで脂肪細胞から分泌される食欲抑制ホルモン、レプチンの分泌レベルが上がることも分かっている。
実際、アメリカの研究では咀嚼回数を普段の1.5倍に増やしたところ、食事の摂取量が9.5%減り、2倍に増やすと14.8%減ると報告されているのだ。つまり、喉ごしツルツルの食事でかえって食べ過ぎ、夏太りする可能性も。
5. 体内リズムが乱れることで食欲に異変が発生!
猛暑で眠れない。夜中につい食べてしまう。朝の寝起きの体調は最悪。日中は暑さでモーローとして、そして今夜も眠れない。このように、夏は一日の体内リズムが崩れやすい。
体内リズムは全身に存在する体内時計遺伝子によってコントロールされている。決まった時間になると空腹感を覚えるというリズムもまた、食欲に関与する体内時計遺伝子が発動するのだ。
ここで関わってくるのがオレキシン。オレキシンは視床下部で食欲、睡眠、体内リズムの調整に作用する伝達物質。不規則な生活でオレキシンの分泌レベルが下がると、食欲の亢進や減退が起こるといわれている。
どっちに転ぶか詳しいことは分かっていないが、夏の昼夜逆転に近い体内リズムの乱れが、決まった時間におなかが空くというシステムに異変をもたらすことは確か。