汗、菌、肌、そして食事。24Hスメル対策で更正を!
悪臭の原因を突き止めて問題解決へと導くニオイ専門探偵、スメル探偵ホームズ。体臭を発生させる凶悪犯を見つけ出すべく捜査を開始したホームズに続けとばかりに、今回はワトスンが「匂い対策」に迫る!
取材・文/石飛カノ 撮影/山城健朗 イラストレーション/山口正児 監修/出来尾 格、伴 和佳、池田浩二(共にニベア花王)、山縣義文(ライオン)
(初出『Tarzan』No.699・2016年7月7日発売)
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ベタベタ汗はNG。汗腺を鍛えてサラサラ汗に。
ここからは私、ワトスンが解説しよう。こう見えてなにせ医者なんで。エクリン汗の成分の99%は水。その他、ナトリウム、塩素、重炭酸イオン、カリウム、乳酸、尿素、アンモニアなどが含まれている。ぐるぐるとコイル状に丸まった分泌部で汗が作られ、それが汗管を通過して皮膚表面に出ていくとき、汗の中に含まれる塩分をはじめとするさまざまな成分は、カラダに再吸収される。
暑い環境で上昇した体温を下げるには、水さえ蒸発させればいい。カラダに必要なその他の成分は再吸収してリサイクルすればいいのだ。これは、腎臓の糸球体という濾過システムで必要な物質が体内に再吸収されることとよく似ている。
ただし、この再吸収システムが正常に働く条件は、日常的に汗をかく習慣があるということ。汗をかき慣れていない人の場合、システムがうまく働かず、いろいろな成分が汗とともにだだ漏れしてしまう。
すると、どうなるか。濃度の高いベタベタとした汗が皮膚表面に張り付いて、それをエサとする細菌が大繁殖。臭いの元となる物質がじゃんじゃん作られることになる。
よって、いつも涼しい環境下でロッキングチェアに座り、机上で推理ばかりしているホームズのような人間は、体臭が強くなりがち。そう、一日中、エアコンの効いたオフィスでパソコン作業に追われているあなたのような人物だ。
というわけで、体臭を予防する第一歩は、普段から汗をかいて汗腺をせっせと働かせる汗腺トレーニングをすること。浴槽にぬるめの湯を張って長時間浸かる、サウナの中で頑張る、運動をして汗をかく。手段は何でもいいので、とにかく日頃から汗をかく習慣をつけることが有効だ。
3ステップで汗をコントロール。
暑いときにはじゃんじゃん汗をかく。これは、本来カラダが持っている機能をフルに利用するということ。つまり、とってもいいことだ。
だがすでに説明した通り、体臭予防という意味で、かいた汗をそのまま放置することは厳禁。皮膚の常在菌がエサを食らって大繁殖し、ニオイの元の分解物を撒き散らかしてしまうからだ。
というわけで、このシーズンの汗対策は万全を期したい。用意すべきは下のような3点セット。
まず、朝一番で制汗剤を脇の下などに塗り、余分な汗の分泌を防ぐ。よく、汗をかいた後に制汗スプレーをプシューッとやって対処した気になっている男子がいるが、これは間違い。制汗剤を使う適切なタイミングは、汗が出る前、出かける前。
そうはいってもカラダを動かしている間、どうしても汗は出る。そういうときには制汗シートで汗とともに角質や皮脂をしっかり拭き取ってゼロベースに戻し、その後、制汗スプレーをプシュー。まずは塗る→汗をかいたら拭く→制汗スプレーを噴霧する。これでこそ万全の対策。
細菌も大量のエサがなければ必要以上に繁殖することはない。面倒でもこの3ステップを習慣にすることで、悩ましいスメル問題はほぼほぼ解決できるはず。よろしいかな? ホームズ君。
汗か菌か臭いか。用途で制汗剤を選ぶ。
制汗剤の第一の目的は、汗の分泌量を抑えること。主な制汗成分は弱酸性のACH(クロルヒドロキシアルミニウム)やミョウバンなどで、これらが汗腺の働きを抑えて汗を出にくくする。
汗は菌のエサにもなり繁殖に具合のいい温かく湿った環境づくりにひと役買う。なので、まずはその汗をできるだけ抑えてしまいましょうという発想だ。
さらに、最近の制汗剤には、殺菌剤がプラスされているものも多い。主な成分は下の表の通り。
皮膚の上に存在する常在菌は、汗、皮脂、角質などをエサにして繁殖するが、これらの殺菌剤は細菌がそれ以上繁殖しないように仮死状態にさせたり、もっと強力に働いて死滅させたりする。
菌が繁殖できなければ、臭いの元の分解物も発生しないので、キツい体臭が発生するリスクは少なくなるわけだ。
さらに、運悪く発生してしまった体臭を化学反応で中和したり、包み込んでマスクする消臭成分、酸化亜鉛や緑茶エッセンスなどが含まれていることもある。
世の男子は制汗剤ならなんでもいいや、と思っている節がある。ただ汗を抑えたいのか、菌の繁殖を防ぎたいのか、さらには消臭効果も狙いたいのか。目的に応じてきっちり制汗剤を選ぶ。それでこそ、デキる大人の男というもの。
皮脂中の菌に強い殺菌成分
制汗剤には当然、汗を抑える成分が含まれているが、殺菌作用を期待したいなら、上の表の成分が入っているアイテムを選ぼう。
- BGA(β-グリチルレチン酸)…甘草から作られる自然由来の殺菌成分
- IPMP(イソプロピルメチルフェノール)…皮脂成分に強い殺菌成分
- 塩化ベンザルコニウム…手や指を消毒する一般的な消毒剤
- 銀…イオン状態では微量で殺菌・抗菌効果を発揮
脂肪分の少ない食事で肌を弱酸性に保つ。
〈ニベア花王〉が行った実験に、興味深いデータがある。複数人の汗を採取して、体温と同じ37度で培養する。と、ある人は4時間後くらいに臭いが発生し、ある人は24時間後に臭いが発生する。つまり、同じ環境、同じ量の汗をかいたとしても臭い発生には個人差によるタイムラグがあるのだ。
これには、皮脂の量やアポクリン汗の量、はたまた細菌自体の量の違いなど、さまざまな原因が考えられる。が、実験の結果、その差のひとつには肌の酸性度に関わりがあることが分かったという。
肌の状態がpH5〜6程度、弱酸性の状態の人の汗は比較的臭いにくい。これに対して、肌の状態が中性の7を超える人は菌の働きが活性化して臭いやすいというのだ。
細菌は弱酸性の環境下を嫌い、アルカリ性のそれを好むのだ。脂っこい食事をしょっちゅう食べていると皮脂が増え、皮脂を食べて細菌が繁殖し、肌がアルカリ性に傾くという逆転現象の可能性も考えられる。焼き肉やうなぎ、夏場のスタミナ食はほどほどにすべし。
皮膚上だけではなく、腸内環境も整える。
体臭は皮膚の上で展開される出来事だけで発生するわけではない。東京女子医科大学皮膚科講師、出来尾格さんによれば、
「たとえば、長期間の便秘の際、腸内には悪玉菌が増殖します。それらが作るインドールやスカトールといった臭い成分が血液に運ばれ、皮脂腺や汗腺から分泌される、ということも考えられます」
インドールやスカトールはご想像の通り、糞便臭の元。おならを我慢しているといつの間にかどこかへ消えてしまうことがある。その行方は腸の壁から血液に吸収されてたどり着く肝臓。そこで解毒されて無毒化される。だが、量が多ければ血液に乗って簡単に皮膚上に至って体臭になる可能性は高いという。インドールやスカトールが汗腺から出ていることを想像すると、かなりゾッとする。
腸内環境を整えるためには、肉ばかり食べずに腸の善玉菌のエサになる食物繊維を積極的に食べる。善玉菌を後押しするヨーグルトを毎日食べるなどの対策を。