肩こり・腰痛はかくして長期化する! 6つの事実から解き明かす

取材・文/石飛カノ イラストレーション/安ヶ平正哉 取材協力/磐田振一郎(リソークリニック院長)

(初出『Tarzan』No.734・2018年1月25日発売)

厚生労働省の調査によると、もうずいぶん長らくカラダのお悩みのツートップは、肩こり・腰痛。もはや「国民病」といってもいいくらいの勢いだ。長年痛みを抱え、それが通常になっている人も少なくない。

自分の意識? 医者の姿勢? それとも社会が悪いのか? その痛みが長期化している理由、整形外科的見地から肩こり・腰痛を巡る現状とともに解き明かしていこう。

厚生労働省「国民生活基礎調査」(平成25年)より日本人の自覚症状ベスト5を示したグラフ
肩こり・腰痛は日本の国民病?
日本人の自覚症状ベスト5。男性は1に腰痛、2に肩こり、女性は1に肩こり、2に腰痛。揃って不動のツートップ。人口1000人に対しての数値。
厚生労働省「国民生活基礎調査」(平成25年)より

1. 「痛みは我慢すべき」、7割近くがそう答える国民性

痛くても他人に弱音を吐かない。痛みを我慢してナンボ?
痛くても他人に弱音を吐かない。痛みを我慢してナンボ?

最初に痛みや凝りを感じたのが、果たしていつのことなのかもう思い出せない。肩こり・腰痛はもはや長年のお友達。という慢性疼痛を抱える人たちに、製薬会社ファイザーがこんな質問を投げかけてみた。

「痛みがあっても、ある程度我慢すべきだと思っていますか?」

すると、「非常にそう思う」と答えた人が10.5%、「ややそう思う」と答えた人が56.1%、合わせて66.6%が痛くっても我慢するべきと考えていることが分かった。

整形外科医の磐田振一郎さんは、臨床の現場から見ても同様の傾向を感じるという。

「外国人は痛がりな人が多いのに比べて、日本人は総じて痛みを我慢する傾向があります。我慢するのを美徳としている国民性なんだろうなと思います。僕たち医者にもっと心を開いて痛みを訴えていただきたいと思いますね」

「痛いということを簡単に他人に言うべきではないと思いますか?」

この質問に関しては54.1%が「そう思う」と回答。

武士は食わねど高楊枝的スピリットがそもそもニッポン人の根底にあるようで。

全国47都道府県の慢性疼痛を抱える20代以上の男女、合計8924人を対象に行ったインターネット調査の結果
我慢することは美徳? 国民性を表す結果に
全国47都道府県の慢性疼痛を抱える20代以上の男女、合計8924人を対象に行ったインターネット調査の結果。痛みを我慢すべきと考えている人は約7割に上った。
ファイザー調べ

2. ほとんどの腰痛の原因は実は分かっていない

原因をズバリ言えない医師。でも「分からない」とは言いにくい。
原因をズバリ言えない医師。でも「分からない」とは言いにくい。

肩こりの原因のほとんどは筋膜に炎症が起こるといった筋膜および筋肉に由来するもの。そんな肩こりに比べて厄介なのが腰痛。

実際、医療機関を訪れる腰痛患者のうち、椎間板や圧迫骨折など原因がはっきり特定できる「特異的腰痛」は全体の約15%。残りの約85%は「非特異的腰痛」という原因が特定しきれない腰痛だ。

「腰痛の原因は骨、椎間板、神経、筋肉、椎間関節などが複雑に絡み合っているので、原因がどこにあるのか見分けるのは至難の業。だから整形外科医はエックス線撮影をして、“ホラ、椎間板がこんなにすり減ってるでしょ?”と患者さんに言質をとるんです。でも、85%の非特異的腰痛に関しては原因が特定できない。結局、“歳だから仕方ない”となって痛み止めと湿布を出しておしまい。あとは筋肉を鍛えなさい、体重を減らしなさいとアドバイスをするくらい。整形外科医の中には、原因が分かりませんと言いにくい医師もいると思います」

原因が分からない。よって治療法も特定できず。かくして痛みは長期化への一途を辿る。

腰痛の原因のほとんどは特定できない?
腰痛の原因のほとんどは特定できない?
医師の診察や画像検査で腰痛の原因が特定できるのは椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、圧迫骨折など。こうした特異的腰痛はわずか15%。
JAMA 268: 760-765, 1992

3. 「どうせ治らないから」と病院にかからない人がいる

しびれを伴うような腰痛の場合は、速やかに整形外科へ。
しびれを伴うような腰痛の場合は、速やかに整形外科へ。

原因が分からないんじゃ整形外科を訪れる意味がない?と一部の人がそう思っているフシがある。

同じく製薬会社ファイザーのアンケート調査では、慢性疼痛を抱えていながら通院していない人が3割以上。その中で「通院しても治らない気がする」という答えが33.8%という結果。

でも、決してそんなことはない。整形外科医が得意とするジャンルもあるからだ。

「座骨神経痛など脚にしびれや痛みがある場合、椎間関節が神経根を圧迫している場合など、ビリビリとした痛みがある腰痛に関しては整形外科が得意とするところ。神経にブロック注射を打つことで痛みに対処します。他にも骨が潰れて体重をかけるたびに痛みが生じる圧迫骨折の場合、最近では小さい傷で背中からセメントを流し込んで固定する手術があります。カラダへのダメージも少なく、痛みを止めるという意味では劇的によくなります」

つまり、原因が特定できる特異的腰痛であれば、整形外科を受診する意味は大いにあり。そのためには、とにかく診断を受けないことには始まらないのだ。

その他、肩こりや腰痛の原因には心臓病やがんの転移、大動脈瘤など内科的な大きな病気が背景に隠れていることも。

「そうした内科的な問題がないことを確認するということは、ひとつ大事なことだと思います」。

慢性疼痛のために通院したことがありますか?というアンケートに対する結果
3人に1人が通院しない、慢性疼痛
通院をしないまま慢性疼痛を抱える人は3人に1人(32.8%)。通院しない主な理由は上記の通り。痛くても医者に行くほどではないと思ってしまうところが慢性疼痛の辛いところ。
複数回答あり、ファイザー調べ

4. 非特異的腰痛患者は結局、迷える子羊状態に

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整形外科と東洋医学的治療の融合への道は、未だ遠いのが現状

内科的な重篤な病気は隠れていない。でも、神経系のビリビリ感はないし画像診断でも原因がはっきりしない。8割以上の非特異的腰痛患者は、かくして果てしのないドクターショッピングの旅に出る。

「整形外科でなぜ検査をするかというと、原因を探りたいからです。これという原因が確定できたら、それを排除しましょうというスタンス。ところが非特異的腰痛は検査に引っかかってこない。だから、あとは医者が持っている手駒をひとつずつ出していくしかないんです」

ブロック注射もやれば後述の筋膜リリースもやり、漢方も処方する。多くの手駒を持っている医師ならば、その分治療の選択肢も多くなる。患者も無駄にドクターショッピングをする必要がなくなる。

とはいえ、整形外科の分野とそれ以外の漢方、鍼灸、整体、アロマテラピーといった分野の溝は深い。それぞれが連携して症状の改善を目指すシステムは、ごくわずかの医療機関でしか取り入れられていない。

「患者さんからすれば、いろんな施術法の音頭をとってまとめる人がいるというのが理想的。地域医療では西洋医学と東洋医学を融合させているところもありますが、大病院になると、それは皆無。僕は“餅は餅屋”というポリシーなので、整形外科的治療がダメなら、すぐに鍼灸のあの先生がいい、漢方のこの先生がいいというふうにリリースします。いってみれば紹介屋のようなものですね」

痛いと感じた時のあなたの対処法は?というアンケートに対する結果
薬、自助努力、東洋医学。光明はいずこ?
慢性疼痛を抱える人たちに、ここ5年以内で行ったことのある対処法を尋ねると、最も多かったのが病院で処方された薬。続いて自己対処、整体や鍼灸、整骨院という結果に。
複数回答あり、ファイザー調べ

5. 整形外科的筋膜リリースは腰痛対策の秘策となるか?

超音波で患部を確認しながら、生理食塩水を注入する
超音波で患部を確認しながら、生理食塩水を注入する。

一部の整形外科病院で最近導入され、にわかに注目されている治療法がある。その名は「筋膜リリース」。筋膜リリースというと、理学療法の世界で行われている手技を思い浮かべる人が多いが、今注目されているのはそれとは別もの。

たとえば、僧帽筋と肩甲挙筋の間にある筋膜が癒着していたとする。この場合、それぞれの筋肉が本来動く方向に動かないため、痛みを引き起こしている可能性がある。ならば、筋肉と筋肉の間に生理食塩水を注射し、癒着を剝がしてみてはどうだろう。そんな経緯で生まれた治療法なのだそう。

最初は麻酔薬やステロイドを注射していたが、薬を薄めてやってみたらあまり効果が変わらない。それならいっそ、体液に近い生理食塩水でいいんじゃないかということで、整形外科による筋膜リリースというジャンルが確立した。

現在の筋膜リリースはエコー(超音波)を使って行われることが多い。以前は注射針が筋膜を破る感覚を医師が手探りしながら施術していたが、それでは心もとない。現在は医師と患者がエコーで確認しながら施術するケースが増えてきた。

「効果には個人差があります。一度注射をして1週間痛みがなくなるという人もいれば、数か月もつ人もいます。まだ広く普及はしていませんが、肩こりにしろ腰痛にしろ、筋肉性の原因がある症状に関してはトライする価値はあると思います。新たな選択肢のひとつですね」

6. カラダだけでなく、ココロの状態も痛みの原因に

東洋医学に限らず、精神科との融合も治療の可能性を広げる
東洋医学に限らず、精神科との融合も治療の可能性を広げる。

非特異的腰痛の要因のひとつと考えられているのが、実は心理的ストレス。現在のところ、考えられるメカニズムは以下の通り。

仕事や人間関係でのトラブル、腰痛に対する恐怖や不安感などによるストレスが強まると脳の機能に不具合が生じる可能性があるとされている。脳の機能が不具合になると、ドーパミンやエンドルフィンなど痛みを抑える作用のある脳内物質の分泌機能が低下する。

さらに神経のバランスを保つセロトニンという脳内物質が減ることで自律神経のバランスが乱れ、腰痛や肩こり、首こりなどの症状が慢性化する。するとますます脳の機能が不具合になる。そんな負のループに陥ることもあるという。

「首、肩、腰などの脊椎疾患はメンタルな症状と深く関わっています。関節の不調の場合は、動かしたり歩いたりしなければ痛みはありませんが、脊椎疾患は四六時中痛みに悩まされることになります。いつもいつも痛いとなると、ストレスが蓄積されてメンタル面の不調を招くケースが少なくありません」

まだごく一部の医療機関に限られているが、こうした心因性の脊椎疾患に対応するべく、整形外科と精神科が連携して運動療法や認知行動療法などに取り組んでいる病院もあるという。

非特異的腰痛へのアプローチは医師次第。患者も選択眼を磨くことで痛みの長期化を防ぎたいもの。

こんな癖のある人はストレス性腰痛かも

心因性腰痛の多くは、患者自身の考え方の癖の改善が重要なポイントとなる。慢性的な痛みに悩まされていて、かつ上のような考え方に陥りがちな人は要注意。

  • 痛むのが怖くて腰を反らすことができない
  • このまま腰痛が治らないのではないかと不安だ
  • 痛み止めを飲まないと、痛みは治まらないに違いない
  • 今は楽だが、たまたま痛みがないだけだ
  • 痛みを感じると無意識に顔をしかめてしまう
  • 腰痛を理由にして仕事を休んだことがある
  • 腰痛で友人との約束をドタキャンしたことがある

教えてくれた人

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磐田振一郎先生/日本整形外科学会認定整形外科専門医。日本再生医療学会認定再生医療認定医。リソークリニック院長を務める傍ら、NPOを立ち上げ他分野の治療法に知見を広げる。