まずは水に親しむところから
大人スイマーの目標は速く泳ぐことより、ゆっくり長く泳ぐこと。その方がフィットネス効果は高く体型も変わりやすい。「最終的な狙いは1kmを1時間程度で泳ぐことです」(東海大学水泳部部長兼ヘッドコーチの加藤健志さん)。
特別な技術が不要のランと違い、水泳にはそれなりのテクニックが必要。昨日までプールと縁の薄かった初心者が、突如泳ぎ始めるのは無謀である。
「まずは浮力や抵抗など、陸上と異なる環境に慣れるため、温泉のつもりでプールに通ってください。立つだけで脚やお腹が引き締まり、筋肉がほぐれて猫背が改善したりする。それが嬉しくなったら自然に通いたくなります」。水中でストレッチしたり、カラダをひねったり、跳んだり、走ったりして水に親しもう。
ストリームラインを覚えよう
続いて水面に浮きながら、カラダを水平にして抵抗を減らしストリームラインを覚える。これは4大泳法すべての基礎だ。ポイントは、ビート板などの浮具を使い、うつ伏せではなく仰向けの姿勢から始めること。
「浮具を使えば誰でも浮けるし、仰向けなら顔を水につけなくていいから息継ぎも不要。首が反ると対称性緊張性頸反射という作用で膝が曲がり、ストリームラインが取りにくくなりますが、仰向けならその心配もありません。世界的にも仰向けから教えるやり方が主流です」
浮具なしでもストリームラインを作り、ストロークで進めるようになったら初級クラスは卒業。好きな泳法を学ぶ練習を開始しよう。
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1. 泳ぐ前に水に親しみ、プールに慣れる
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(1)ストレッチ〈お尻〉
壁際に腰幅で立ち、右手でプールサイドを持つ。左膝を曲げて引き上げ、左手で抱える。膝を胸につけてお尻の筋肉をストレッチする。上体はまっすぐ保つ。左右を変えて同様に行う。
(2) ストレッチ〈大腿四頭筋〉
壁際に腰幅で立ち、右手でプールサイドを持つ。左膝を曲げて、その爪先を左手で持ち、踵をお尻につける。左膝を後ろに引いて太腿の前側の筋肉を伸ばす。左右を変えて同様に行う。壁際に腰幅で立ち、右手でプールサイドを持つ。左膝を曲げて、その爪先を左手で持ち、踵をお尻につける。左膝を後ろに引いて太腿の前側の筋肉を伸ばす。左右を変えて同様に行う。
(3) ストレッチ〈腸腰筋〉
壁際に腰幅で立ち、両手でプールサイドを持つ。左脚を伸ばしたまま、後ろに引き上げ、お腹から股関節にかけてストレッチする。上体をまっすぐに保つ。左右を変えて同様に行う。
(4) ツイスト
両腕を水面近くで横に伸ばし、その場で軽くジャンプして両腕を左右交互に前後に動かしながら、カラダをひねる。デスクワークなどで坐っている時間が長く、カラダが固まっている人のコンディショニングとして有効である。
(5) ホッピング
両膝を引き上げて高くジャンプしながら前方へ進む。その際、肘から先を手のひらだと思い、斜め45度に傾けて、水をこねるように内外に動かすスカーリングを行う。水が秘めている浮力のパワーを感じながらホッピング。
(6) ランニング
腕を前後に振りながら水中ラン。地上では体重の2〜3倍の着地衝撃が加わり、着地のたびにアキレス腱の腱反射が起こって緊張する。水中では浮力で体重の大部分が相殺されるため、腱反射も緊張も起こらず筋肉が勝手に緩む。
2. プールに慣れたら、次は仰向けで浮かぶ
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(1)ラッコスタイルで背面浮き
うつ伏せで顔を水につけるのに恐怖感を持つ人も。そこで水に浮く感覚をカラダに刷り込むために仰向けでビート板をお腹に抱える「ラッコスタイル」で浮く。両足の親指をこすり合わせるようにバタ足をするとスイスイ進む。
(2)腰にビート板を入れて背面浮き
ラッコスタイルに続いて、ビート板を腰の下に入れて背面浮き。ラッコスタイルよりもカラダが水面近くまで浮き上がる。顎を上げすぎると頸反射で手足が緊張して自由が失われるから、顎を軽く引いて姿勢を水平にキープ。
(3)背面浮きでペンギンストローク
ビート板を腰の下に入れる背面浮きでは手で押さえる必要がないため、両腕が自由に使える。そこでバタ足に加えて、ペンギンが小さな翼を動かすように水面下すれすれで両手をパタパタと動かし、カラダが進む感覚を味わう。
(4)ビート板なしで浮いてみる
浮く感覚を味わったら、いよいよビート板を外して背面浮きにチャレンジ。余分な力が入るとカラダが縮こまって浮力が失われるから、水への恐怖心を捨ててリラックス。軽くスカーリングをするといつまででも浮けるはず。
(5)ビート板なしでオールストローク
4大泳法ではいずれも腕の動きであるストロークで推進力を得ている。ビート板なしで浮けるようになったら、スカーリングの代わりに両腕をボートのオールのように水面で交互に大きく搔いてみる。それで進む感覚を得よう。
3. クロール習得のためのポイントを頭に入れる
クロールはいうまでもなく4大泳法で最速の種目。フォームがストリームラインに近いため水から受ける抵抗が最小であり、両腕で交互に水を大きく捉えて搔きながら、両足を小さく前後に動かしてダイナミックに進む。速いわりに抵抗が少ないため、疲れずに長い距離を泳げるのがメリットだ。「日本では平泳ぎから教えることが多いのですが、欧米ではクロールから教えるのが主流です」(加藤さん)。
クロールには、大まかに分けると「アメリカンスタイル」と「オーストラリアンスタイル」がある。
アメリカンは、パワフルでスピードに乗りやすいのが利点。オーストラリアンは、効率的で長い距離を泳ぐのに向いている。今回は、カラダのローリングを抑えつつ、比較的浅いところをストレートに搔くオーストラリアンを習得したい。
ここでは、ストロークとキックの理想のフォームとプロセスをイラストで解説する。なぜこれが正解なのかを理解して、良いイメージを頭に刷り込んでおこう。「クロールは下半身のキックはテンポ速めで、上半身のストロークはゆったり大きくを心がけてください」。
ストロークの5つのプロセス
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(1)エントリー
左腕に注目。腕を遠くに伸ばし、手のひらをすぼめて45度ほど外側に傾けながら、親指側から入水。手のひらが抵抗にならないよう滑り込ませるように静かに入水する。肩の延長線上にエントリーするともっとも抵抗が少ない。
(2)グライド&キャッチ
入水した腕を前方へグーッと滑らせるグライドを行う。このひと伸びでストロークが大きくなって楽に泳げる。手の指(とくに親指)を少し開いて、魚の尾ひれのイメージで手首を柔らかく使って肘から先全体で水をキャッチする。
(3)プル
キャッチのフォームを維持して捉えた水をまっすぐ後方へ搔いてカラダを前方へスーッと運ぶ。深いところを搔こうとすると推進力も増すが、その分抵抗も大きくなって疲れてしまう。水面下30〜40㎝の深さを丁寧に搔こう。
(4)プッシュ
肘を曲げたまま後方へ搔く。プッシュは腰のあたりで早めに切り上げて、反対の手のキャッチを意識してカラダを前方へ運ぶ。後方まで強く押すことにこだわりすぎるとストロークが間延びして、カラダが沈みやすくなる。
(5)リカバリー
ローリングしながら肘→手の順番で腕を水面上に引き抜く。肘から先をリラックスさせて肩から腕を回し、腕をまっすぐ伸ばしながら次のエントリーへ。手はできるだけ低い位置でカラダの近くを通して前に戻すようにする。
4. 良いキックを身につけるための3つの秘訣を知る
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(1)足を離さない
クロールのキックでは、推進力を得て泳ぎのリズムを作るために打つと同時に、下半身の沈み込みを避けてストリームラインを保つという狙いもある。両足の親指同士が軽く触れ合うようなイメージでキックをしてやると、水を捉える効果がアップして、下半身の不要な沈み込みが避けられる。さらに蹴り下ろしのときに足の甲を伸ばして、少し内側に傾けてやると水が捉えやすくなる。
(2)足首を曲げない
ストロークで水を捉えるのが手のひらなら、キックで水を捉えるのは足の甲。足首が硬く曲がったままでは足の甲で水がキャッチできない。蹴り始めでは足首がストレッチして足の甲が反り、足首をしならせながら蹴り下ろして水を捉える。蹴り上げでも足首はしならせて。足首をしなやかに使うためには、膝下から力を抜いて、お尻に力を入れて股関節からムチのように脚をしならせる。
(3)膝を曲げない
太腿から動かし、膝から下は力を抜いておく。膝に力が入り、膝の曲げ伸ばしでキックをすると推進力は得られないし、膝が折れると水の抵抗になってしまう。これでは頑張ってキックしても思ったように進めず、辛くなるだけ。バチャバチャと大きな水しぶきを上げるバタ足は、膝の屈伸を使った悪いキックの典型例。膝を伸ばしたままで脚をしならせると、水しぶきはあまり上がらない。
5. 効率的なストロークを覚えるために、2つのことを意識する
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(1)スクロールの正しい軌跡
クロールでは長年、水中で手をS字に動かす「S字プル」が一般的だった。ところが競泳の世界では最近、水をキャッチしたら直線的に後方へ押し出す「ストレートプル」が主流になっている。なぜなら肩関節の真下でストレートに搔くと、水の抵抗を最小限に抑えながら最大限の推進力が得られるからだ。それでもストロークのたびにカラダが左右にローリングするため、ストレートに搔いても結果的に「S字プル」に近い軌跡を描く。
(2)水を捉えるポイント
水泳では、キャッチの局面でいかに水を摑まえられるかが大きなポイント。固く手を閉じると水がたくさんキャッチできないし、力みが腕まで伝わり、ゆったり大きなリズムで泳げない。指を軽く広げて大きくし、手首を柔らかく使って優しく水を捉えるように気をつけると、小さな力で大きな推進力が得られる。
教えてくれた人