膝が痛い? 記録が頭打ち? 悩めるランナーがプールへ行くべき6つの理由
膝が痛い? 記録が頭打ち? そんなランナーの悩みに、スイマーならきっとこう答えてくれるはず。日本水泳連盟科学委員長の松井健さんに訊いた、ランニング愛好家たちのためのスイミング案内。ランとスイムは、補い合うのです。
取材・文/井上健二 取材協力/松井健(追手門学院大学社会学部教授、日本水泳連盟科学委員長)
目次
1. プールは故障のリハビリに最適
ランナーは走るのが大好きで、ついつい走りすぎに陥りがち。中堅市民ランナーの大多数は膝などに何らかの故障を抱えており、月間走行距離が200kmを超えるあたりから、その割合は高くなるとされる。
故障後は練習量を抑えて痛みや違和感がなくなるまでまずは休息。痛みや違和感がなくなり、整形外科的な異変がなくなってリハビリ期に入ったら、練習を再開する前に試したいのは水泳か水中ウォーキング。
水中なら浮力で体重の重みから解放されるため、痛みなく関節が動かせる。
「空気の43倍の粘性係数を持つ水のじわじわとした負荷を膝などの関節周辺の筋肉にかけて強化すると、リハビリにつながります」(追手門学院大学教授で日本水泳連盟科学委員長の松井健先生)。
ちなみに時速60kmで疾走する競走馬も怪我を負いやすいが、レース復帰の前にプールやウォータートレッドミルで水の力を用いたリハビリを行うのが主流になっている。
2. 水泳をプラスすると逆三体型になれる
ランは全身運動だとされるが、実際もっぱら働いているのは下半身。とくに太腿の大腿四頭筋やハムストリングス、お尻の大臀筋といった筋肉が鍛えられる。軽めの自体重が負荷なので、太腿もお尻も無闇に太くデカくなるのではなく、無駄な脂肪が削げ落ちてカッコよく引き締まる。
一方、上半身の筋肉は腕振り程度であまり使わないので、だんだん削げ落ちて細くなってくる。
ランと対照的なのが水泳だ。水泳の推進パワーの大半を生むのはストロークであり、ストロークで駆使される胸の大胸筋や背中の広背筋、肩の三角筋や腕の上腕三頭筋といった上半身の筋肉が逞しく肥大。習慣にすると逆三体型のスイマーボディに近づく。
ランで下半身を引き締め、水泳で上半身を逆三体型にデザインしてやると、まさに鬼に金棒。ジムで筋トレに励まなくても、全身がバランスよく発達した細マッチョになれる。
3. 泳ぐと呼吸筋が鍛えられて走力が上がるかも
水中ではカラダにつねに水圧が加わっている。泳ぎながら水圧に耐えて呼吸すると、呼吸筋の鍛錬作用がある。
呼吸筋とは呼吸を助ける筋肉。メインは肋骨の間に付く肋間筋で、外側の外肋間筋と内側の内肋間筋がある。外肋間筋が収縮すると肋骨が持ち上がり、肺を収める鳥カゴのようなフレームである胸郭が広がる。
すると肺が広がり、体内の気圧が下がって空気が入る。続けて内肋間筋が収縮すると肋骨が下がり、胸郭が狭くなって肺が縮み、逆に気圧が上がって空気が出ていく。
「水圧のプレッシャーに耐えながら肋間筋を使っていると、水圧が抵抗となり、外肋間筋も内肋間筋も鍛えられます」
結果、息を吸うときは胸郭が広がりやすくなり、吐くときは胸郭が狭くなりやすいので、肺の換気機能がアップ。換気機能が高まると走るときも呼吸がラクになり、ペースを上げやすい。自己ベスト更新を狙うランナーは合間を見てスイミングに挑んでみよう。
4. スイムで体幹が鍛えられると走りも変わる
効率(ランニングエコノミー)の良いフォームを身につける大事なポイントは、体幹。ランの着地時には体重の2〜3倍の着地衝撃が加わる。それを両脚と体幹でしっかりと受け止め、重心を前へ移動させる力にロスなく転換させると、ランエコの高い走りが身につく。
体幹が弱いと着地衝撃がそのまま足腰のダメージとなり、重心を前に移動させるエネルギーも十分に得られない。俗にいう“脚を使った走り”に陥り、疲労が溜まりペースも上げにくい。
ランナーに重要な体幹を強化するのにも、水泳は役立つ。
泳法にかかわらず、水泳の基本は全身を水平に保ち、水の抵抗の少ないストリームラインを保つこと。下半身が落ちず、上体も反らないストリームラインを作ってくれるのは、ほかならぬ体幹の筋肉である。ストリームラインを維持しながら泳いでいるうちに体幹が自然に鍛えられるから、走りもうんと良くなるというワケ。
5. 泳いで鍛えたスタミナはランでも活きる
ランが習慣化してマラソンなどのレースに出るようになると、自己ベストの更新が新たな楽しみになる。始めて数年はレースに出るたびにパーソナルベストが生まれるものだが、いずれ走力の限界に近づいてタイムが伸び悩む。この壁を乗り越えるため、多くのランナーは走行距離を上乗せし、強度の高い練習に挑む。
その意気込みは立派だが、走行距離が延びて高強度の練習を重ねると膝などのトラブルのリスクになる。
そんなランナーを救うのも水泳。水泳はランと同じ有酸素運動で、泳ぎ続けると心肺機能とスタミナが上がる。水泳で培った心肺の強さと強靱なスタミナはランにも応用可能で、走力向上にプラス。週5回走るなら、そのうち2回ほどをスイムに切り替えてみよう。
防水タイプの心拍計をつけて泳ぎ、最大心拍数の85%程度まで心拍数が上がるまで泳ぎ込むとより効果的。ランと違ってハードに追い込んでも脚の故障が少ないのも利点。
6. キックで足首を柔軟にするとシンスプリントにいい
膝痛(ランナーズニー)と並んでランナーに多いトラブルが、シンスプリント(脛骨過労性骨炎)。脛の骨である脛骨周辺の筋肉などに炎症が起こり、ずきずきとした痛みを発する障害だ。
シンスプリントは走りすぎやペースの上げすぎで生じるオーバートレーニング症候群だから、まず取り組みたいのは練習量のセーブ。休むのも練習のうちと割り切り、痛みが出ないペースで距離も減らし、走った後は患部を冷やすアイシングを行って丁寧にケアする。
加えて有効なのがまたまた水泳だ。ランは足首を屈曲したまま地面を蹴る運動であり、足首の硬さはシンスプリントの一因に。
「バタ足などの水泳のキックは足首を柔らかく使い、足の甲を伸ばして水を蹴る。水泳で足首の屈曲と伸展を繰り返してしなやかに保つと、シンスプリントの予防になります」
むろん痛みが続くなら整形外科を受診することも大切。医師に相談してから水泳にチャレンジして。