2020年のラン事始め|脂肪燃焼にLSDが効く理由
ダイエットを目的にランニングを始めようと思っているなら、LSDに取り組んでみてはいかが? ランの効能として、脂肪燃焼効果は最も期待されるところ。走って痩せるメカニズムを、ガイドします。
取材・文/井上健二 撮影/山城健朗 スタイリスト/高島聖子 ヘア&メイク/村田真弓 監修/鍋倉賢治(筑波大学体育系教授)
(初出『Tarzan』No.735・2018年2月8日発売)
そもそもLSDとは?
LSDはロング・スロー・ディスタンスの頭文字を並べたもの。長い時間ゆっくり走り続けて、長い距離を移動する練習法である。
LSDはもともと70〜80年代にマラソンランナーのトレーニングとして脚光を浴びた。走ることが得意で大好きなアスリートたちは速いスピードでの練習ばかりを好む傾向があるけれど、そこにスローなペースで行うLSDを組み合わせるとパフォーマンスがぐっと上がるのだ。
LSDでもっとも大切なのはペースの設定。ゆっくり走るから疲れないで長い間動き続けられるのだし、その結果かなりの距離が踏める。ならば具体的に、どのくらいの速度がLSDに最適なのだろうか。
筋力次第で10kgのダンベルが重たいと感じる人もいれば、軽いと感じる人がいるように、体力と走力によってその人のLSDペースには差が大きく、速度で定義するのは難しい。手軽な指標になるのは、隣の人と笑顔で話せるかどうか。「ただ話せるだけではなく、1〜2分は話し続けられる余裕があるニコニコペースがLSDの基本です」(筑波大学体育系・鍋倉賢治教授)。一人で走っているなら、独り言が笑顔で1〜2分続くペースを守って走ろう。それがあなたにぴったりのLSDである。
ゆっくりだからこそ脂肪は燃える
マラソンランナーにはLSDはパフォーマンスを上げる手段だが、一般人にはLSDは痩せるための最強メソッドにほかならない。
太っているとは、単に体重が重たいだけではなく、無駄な体脂肪がベタベタ付いている状態。LSDは余分な体脂肪を燃やしてカラダを引き締めてくれる。
ラン初心者には、痩せたいならLSDのようにゆっくり走るよりも、速く走った方が効果的だという誤解をしている人が少なくない。しかし現実にはゆっくり走った方が体脂肪は燃えやすいのである。
おさらいしよう。ランに限らず、運動の主役となる筋肉の基本的なエネルギー源になっているのは糖質と脂質。
この2大エネルギー源は筋肉でつねに同時に使われているが、運動強度(ランならペース)が高いほど糖質の利用率が上がり、強度が低くなるほど脂質の利用率が上がるという特徴がある。脂質を代謝してエネルギーに変えるには酸素が欠かせないけれど、ペースが上がると息が切れるようになり、必要な酸素が筋肉に行き届かなくなるからだ。
息が軽く上がるくらいで決して切れず、ニコニコしながら話し続けられるペースであるLSDだからこそ、体脂肪がメラメラ燃え続けて痩せるのだ。
なぜ「ラン>ウォーキング」なのか?
運動強度が低いほど体脂肪が燃えやすいなら、走らなくてもウォーキングで十分では? そんな疑問も湧いてくるが、そこにはトータルのエネルギー消費量という視点がすっぽり抜け落ちている。
デスクワークでパソコン作業をしたり、じっと坐ってスマホをいじっていたりする安静時では、必要なエネルギー消費の9割以上を脂質でまかなっている。
でも、じっとしているだけでは、いつまで経っても痩せないのは誰もが知っている。エネルギー消費量が少なすぎるので、いくら脂質の“使用率”は高くても、“使用量”が少ないから痩せないのだ。
ウォーキング時の脂質の利用率は全体の7〜8割と下がるが、エネルギー消費量は安静時のおよそ4倍に達するからじっと坐っているよりも痩せやすい。
さらにLSDでは脂質の使用率は5〜6割になるが、エネルギー消費量は安静時のおよそ7倍、ウォーキングの約1.8倍になる。同じ時間内で比べると消費できる体脂肪量は「安静時<ウォーキング<LSD」という順に増えてくるのだ。
LSDの約1.8倍の時間をかけてウォーキングすれば同じくらいの体脂肪が燃やせるが、時間効率が悪すぎて忙しい現代人には続きにくい。やはり減脂肪にはLSDがベスト!
長い目で見た体質改善の働きもある
痩せたい人にウォーキングよりもLSDがオススメな理由がもう一つある。LSDは運動中に体脂肪を燃やすだけではなく、継続していると脂質代謝が向上して痩せやすい体質へ変身できるからだ。
そもそもマラソンランナーがLSDを練習に組み入れるのは、この脂質代謝改善効果を狙ってのこと。
運動の2大エネルギー源である糖質と脂質は、糖質はグリコーゲン、脂質は体脂肪としてそれぞれ貯蔵されている。
グリコーゲンと体脂肪を比べるとグリコーゲンの貯蔵量の方が圧倒的に少なく、糖質が先に涸渇すると脂質だけではエネルギー代謝が回らなくなるため、レース後半でのスタミナ切れの引き金となる。
LSDを行うと、心臓が一度に送り出す血液量が増えたり、筋肉に酸素を供給する毛細血管が増えたり、ミトコンドリアの働きがアップしたりする。
ミトコンドリアとは筋肉の細胞に無数に潜み、酸素を介して糖質と脂質を代謝してエネルギーに変えている発電所のような存在。LSDを続けるとミトコンドリアが増えたり、脂質をエネルギーに変える能力が上がったりするのだ。
ウォーキングでも多少は脂質代謝を良くする働きはあるけれど、LSDの方がその作用は劇的なのである。
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