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“スリップインするだけ™”じゃない!《スケッチャーズ スリップ・インズ》快適学。
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つい食べ過ぎてしまうのは、何かがおかしいのか。食欲研究の権威である生理学研究所・箕越靖彦先生にじっくり聞いてみました。箕越先生との対談形式でお届けする「食欲の正体」。第2回目のテーマは「食欲を司る機能があるのに、なぜ人は太ってしまうのか?」です。
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——病気をすると食欲がなくなります。それも視床下部や報酬系が関わっているのでしょうか?
箕越先生(以下、箕越) 視床下部や報酬系に加えて、脳の別の部位の関与も重要です。たとえば、がんになると食欲不振で痩せます。原因の一つは脂肪細胞などが分泌するGDF15というタンパク質。GDF15に反応する受容体は、首の後ろにある脳の最後野にあります。
脳には血管の結束を強くした血液脳関門というバリアがあります。最後野にはこのバリアがないため、GDF15は容易に脳に入り、橋結合腕傍核というところを介して摂食を抑えます。これは視床下部より発生学的に古い脳幹が司る、非常にプリミティブ(原始的)な仕組みです。
——視床下部と報酬系が機能していたら、誰も太ったりしないはず。それなのに肥満は増えています。
箕越 視床下部で慢性的な炎症が生じている恐れがあります。
炎症は防御反応の一種。たとえば皮膚で炎症が起こると、血液中のマクロファージなどが集まり、死んだり異物化したりした細胞を食べて処理します。
脳内で炎症が起こると、マクロファージと同じタイプの細胞であるミクログリアが活性化します。ミクログリアから出る物質が、レプチンなどから出ている食欲を抑えるシグナルを途中で止め、食べ過ぎてしまうのです。
また、報酬系回路も何らかの理由で正しく働かなくなると、美味しいものを食べて報酬を得ても満足できなくなって、よりカロリーが高くて報酬価値が高いものを求め続けるため、太りやすくなるのです。
——怖い話ですね。ではその炎症はなぜ脳で起こるのですか?
箕越 大きく2つあります。一つは肥満、もう一つは高脂肪食です。肥満でインスリン抵抗性を伴う高インスリン血症が生じ、血中にインスリンが溢れると、マクロファージが活性化して慢性炎症が起こります。同じことが脳内で起こると考えられます。
ただしコロコロに太ったマウスでも慢性炎症を起こさないケースもあり、肥満と炎症の関わりはもっと深く追究すべきテーマです。
詳しい機序は不明ですが、高脂肪食でも脳内で慢性炎症が生じます。カロリーの多くを糖質から摂る日本人には、糖質制限は摂取カロリーを抑える良い方法ですが、相対的に脂質の摂取が増えるため、脳内で炎症が起こる恐れがあります。
——糖質制限もほどほどがよさそうですね。炎症以外にもストレスで過食したり、逆に食欲がなくなったりします。ストレスと食欲はどう関わっていますか?
箕越 鍵を握るのはCRHニューロン。ストレスで分泌される副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)を分泌するニューロンです。
弓状核で摂食の促進と抑制の合図を出すNPY/AgRPニューロンとPOMCニューロンは、室傍核という神経核に情報を伝えます。CRHニューロンは室傍核でこれらのニューロンの働きを邪魔するため、視床下部は食欲を抑える方向に働いたり、反対に食欲を促す方向に働いたりします。
たとえば、強いストレス下では食欲は抑制されます。外敵に襲われるといった強いストレス時に、のんびり食べている場合ではないからでしょう。
逆にストレス太りという言葉があるように、弱い持続的なストレスで食欲は亢進することがあります。睡眠不足で太る人は、睡眠不足をストレスに感じるとCRHニューロンによる摂食抑制に異常が起こり、食欲が促されるのでしょう。しかし食欲がなくなる人もいます。
(その3に続きます)
取材・文/井上健二 イラストレーション/安ケ平正哉 取材協力/箕越靖彦(生理学研究所 生殖・内分泌系発達機構研究部門教授)
(初出『Tarzan』No.756・2019年1月4日発売)