イライラすると、甘いものを選びやすい|最新研究から知る「食欲の正体」(3)
つい食べ過ぎてしまうのは、何かがおかしいのか。食欲研究の権威である生理学研究所・箕越靖彦先生にじっくり聞いてみました。箕越先生との対談形式でお届けする「食欲の正体」。第3回目(最終回)のテーマは「過食を抑えるためにできること」です。
取材・文/井上健二 イラストレーション/安ケ平正哉 取材協力/箕越靖彦(生理学研究所 生殖・内分泌系発達機構研究部門教授)
(初出『Tarzan』No.756・2019年1月4日発売)
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栄養バランスに優れた食事が食べ過ぎを防ぐ
——ストレスがあると甘いものをたくさん食べて太ることがあります。そのメカニズムを先生たちのグループが解明したと伺いました。
箕越先生(以下、箕越) マウスを1日絶食させると、肝臓に蓄えるグリコーゲンの予備力が少ないため、飢餓の危機に陥ります。
その状況でマウスに高糖質食と高脂質食のどちらかを自由に選んでもらうと、マウスは糖質食を選んで食べ、結果として速やかに健康状態を取り戻します。マウスは本来高脂質食を好みますが、絶食のようなストレス下ではCRHニューロンが活性化して糖質を選ぶように嗜好が変わります。
ヒトがストレスで甘いものを欲するのも、同じようなメカニズムがあるという想像が成り立ちます。
——食欲の仕組みを踏まえると、減量の成功には、何が有効だと考えていらっしゃいますか?
箕越 痩せるには、少なく食べるか、たくさん動くかしかありません。食欲が乱れて少なく食べるのが難しいとしたら、運動などで活発に動くほかない。
運動だけで痩せるのは難しいのですが、運動はストレスを解消して食欲を正常化しやすくします。筋肉量が増えると血糖値が下がりやすくなり、体脂肪を溜める働きがあるインスリンの分泌が抑えられて減量しやすい体内環境が整ってきます。
——食事で痩せるのは無理ですか?
箕越 カロリーばかりではなく栄養バランスも大切。栄養バランスが偏った食事は太りやすいのです。とくに食べ過ぎを防ぎたいなら、脂身の少ない良質のお肉を食べてください。
——肉食がいい?
箕越 3大栄養素でもっとも厳密にモニタリングされているのはタンパク質。正確に言うならアミノ酸です。
タンパク質を作るアミノ酸のうち9種は体内で合成できない必須アミノ酸。これが一つでも足りないとカラダを作るタンパク質が作れません。必須アミノ酸のバランスが悪い食事ばかりだと、足りない必須アミノ酸を補うため、食べる量が増えます。
必須アミノ酸の含有量を感知する仕組みは不明ですが、恐らく何かのホルモンか神経系のシグナルが情報を伝えて、必須アミノ酸の必要量の確保を図っているのでしょう。
——アミノ酸以外に、体内で合成できない栄養素はビタミン、ミネラル、必須脂肪酸と多くあります。
箕越 ビタミンのような微量元素ですら、食品の含有量を感知して摂食を調整する機構があっても不思議はありません。
そうしたシステムがあると仮定すると、栄養的にアンバランスな食事だと、必要な栄養素が摂れないため、質を量で補おうと過食に走って余分なカロリーを摂り、肥満に陥る恐れがあります。やはり食事は量だけでなく質も重要なのです。