
教えてくれた人
中野ジェームズ修一(なかの・じぇーむず・しゅういち)/1971年、長野県生まれ。スポーツモチベーションCLUB100最高技術責任者。PTI認定プロフェッショナルフィジカルトレーナー、アメリカスポーツ医学会認定運動生理学士(ACSM/EP-C)。日本では数少ないフィジカルとメンタルの両面を指導できるトレーナー。多くのオリンピック代表選手、青山学院大学駅伝チームなどを指導。『医師に「運動しなさい」と言われたら最初に読む本』が現在ベストセラーに。
目次
カラダの奥深くにある腸腰筋にコミットしていく。
何しろこれまでアンタッチャブルだった筋肉。硬くなっている場合もあれば、弱くなっている場合もある。どちらにしろ徐々に刺激を入れ、ゆくゆくはしっかり使えるように強化する必要がある。そのためには順序立てて進めていくことが重要。
具体的な進行イメージは、下のような3ステップ。「ゆるめる」を習慣化し、次に「整える」、仕上げに「鍛える」。では、1stステップの「ゆるめる」ことから。
- ゆるめる
毎晩のケアとしてすべて行う。 - 整える
好きな種目を選んでできるだけ毎日行う。 - 鍛える
2のストレッチで股関節周辺の違和感がなくなったらEASYからスタート! 頻度は週2〜3回。
ゆるめる|まずは股関節のポジションをニュートラルに。
ここで言う「ゆるめる」とは、股関節の動きをスムーズにするケア。関節の可動域を広げたり、痛みを軽減するリハビリの施術法だが、これをセルフで行う。
なぜまた入り口が股関節? 理由は以下の通り。とにかく座る時間が世界一長い日本人、腸腰筋は短く縮んで固まっているため本来の股関節のポジショニングがそもそもズレている。そのままストレッチをしたり筋トレをしても腸腰筋は存分に伸びないし、収縮もしない。つまり効果は半減。
そこでまず股関節をニュートラルな状態に戻すことから始めるというわけ。基本の3つの種目を毎晩のケアとして習慣づけてみてほしい。
種目1.仰向け片脚ワイパー
- 床に仰向けになり、片膝を曲げて股関節を開く。曲げた膝は床につけて骨盤を安定させる。
- 反対側の脚を伸ばし、股関節を内側と外側に向けて交互にリズミカルに動かす。逆脚も。
種目2.両脚フロッグ&ワイパー
- 床に仰向けになり、両脚を肩幅に開いて伸ばす。
- まず爪先を外側に開き、膝を開きながら脚を引き寄せた後、膝を伸ばして爪先を内側に向ける。これを滑らかな動きで繰り返す。
VARIATION
可能ならフォームローラーの上に両脚を乗せて同じ動きを行う。滑りにくい床の上で行う場合、より動きが滑らかになる。
種目3.骨盤ローリング
- 床に横向きになり、上になった脚の膝を曲げてフォームローラーの上に乗せる。
- 内腿をマッサージするようなイメージで骨盤を前に押し出す。1→2の動きを繰り返し。逆脚も。
整える|日々の生活で短縮した腸腰筋を徹底的に伸ばす。
「ゆるめる」3種目が習慣化したら、次のステップは「整える」。コンテンツはズバリ、腸腰筋ストレッチだ。
勢いで買ったスタンディングデスクも今では物置きと化し、リモートワークでは座位時間がどうしても多くなりがち。さらに寒い冬は外出する機会も減って、移動手段は専らマイカーということに。
というわけで現代人の腸腰筋は縮みっぱなしで、同時に出力が低下した状態。この状態を改善するために、まずはストレッチで短縮した腸腰筋をしっかりと伸ばす。
好きな種目を2〜3種目選び、できるだけ毎日行う。日替わり週替わりで種目をローテーションすると多角的なアプローチができるので、なおよしだ。
種目1.うつ伏せスコーピオン
- 床にうつ伏せになり、顎の下で両手を重ねて片脚の膝を曲げる。
- 上体をツイストさせて曲げた膝側の足を反対の手で摑んで引き寄せる。30秒キープしたら逆も同様に。
NG
種目2.横向きスコーピオン
- 床に横向きになり、上になった脚の膝を曲げ、上の手で足の甲を摑む。
- 下の脚の膝は軽く曲げる。そのまま手で足を後ろに引っ張り、イタ気持ちいいところで30秒。逆脚も。
NG
股関節の外転が足りない。膝をなるべくカラダの中心軸から遠ざけるようにしないと、腸腰筋が十分に伸びない。
VARIATION
できる人は両手を組み、頭上に上げてストレッチ。体幹を引き上げることにより、脊柱と大腿骨を繫ぐ腸腰筋全体を効率よく伸ばせる。
種目3.フロントラインストレッチ
- 椅子の真横に立ち、お尻半分を座面に乗せる。
- 椅子から遠い方の脚は斜め後ろに伸ばす。同じ側の腕を斜め内側に向かって伸ばし、上体を捻る。30秒キープしたら逆も。
NG
脚を後ろに伸ばすときは真後ろではなく、斜め外側に向かって伸ばすように。脚を外転させないと腸腰筋が十分に伸びない。
VARIATION
種目4.スタンディング・フロントラインストレッチ
- 壁を横に立ち、壁から遠い方の足を椅子の座面に乗せる。
- そのまま上体を壁側に倒しながら両手の掌を壁につける。壁から遠い方の手は頭越しに壁につけるのがコツ。30秒維持したら逆も。
NG
椅子の位置が壁から近すぎて股関節が外転できていない悪い例。椅子を壁からより離し、後ろの脚を斜め外側に伸ばすこと。
VARIATION
種目5.ハードラーストレッチ
- 片膝を椅子の座面に乗せる。膝が痛い場合はタオルなどをかませる。
- 逆の手で足の甲を摑み、斜め内側に捻りながら引き寄せる。足が摑めない人は上体を前傾させること。逆脚も。
NG
種目6.お尻のストレッチ
腸骨筋の拮抗筋となる大臀筋もまんべんなく伸ばしておこう。椅子に片足を乗せ、上体を前傾させながら膝を深く曲げて腰を落とす。30秒キープしたら逆脚でも行う。
NG
鍛える|最後の仕上げで腸腰筋の出力パワーを高める。
「整える」ストレッチで股関節周辺の違和感がなくなってきたら、最終仕上げの「鍛える」に着手しよう。アスリートじゃあるまいし何も鍛える必要はない? いいや、それは大いなる誤解。腸腰筋が衰えたすべての現代人には、むしろこの「鍛える」コンテンツこそ必要不可欠。
腸腰筋が機能しないと脊柱近辺の細かい筋肉に余分な負荷がかかり、腰痛が引き起こされてしまう。腹圧が保てずに悪姿勢になり腹も出る。いいことはひとつもないので、ゆるめて整えた後に鍛えずしてどうする?
まずはイージーバージョンを週2〜3回の頻度で行い、ハードバージョンへステップアップを。
【EASY】まずはお手軽2種目から。
種目1.スキップ
膝を高く引き上げてその場スキップをする。前に進むのではなく、あくまでその場で膝を引き上げ、腸腰筋を収縮させることに集中。回数を数えるのが面倒ならタイマー設定で15〜30秒間を1セットとしてもよし。
種目2.バックストローク
床に仰向けになり両膝を立てたら、片脚を浮かせて膝を手前に引き寄せ、反対側の手を頭上に伸ばす。手と脚を入れ替えて足を床に着地させると同時に反対側の手を頭上に伸ばす。これをリズミカルに繰り返す。
VARIATION
できない人はさらにハードルを下げ、脚だけを左右交互にスイッチ。慣れてきたら手の動きをつけ、腸腰筋の最大伸展と収縮を狙おう。
【HARD】より負荷を高めた2種目に挑戦。
種目1.バックキック
- 床に仰向けになり両手を頭の後ろで組む。
- 両脚を床から浮かせて伸ばしたら、片脚を股関節が直角になるまで引き上げる。
- そのままゆっくり脚のポジションをチェンジさせる。膝はできるだけ伸ばしたまま行う。
NG
腰が硬い、または腹筋が弱いと腰が反ってしまう。この場合は脚を下げすぎず、反らない程度の高さで脚を床から浮かせること。
種目2.トーチリフト
- 2Lのペットボトルを片手で持つ。ペットボトルを持った手とは反対側の足を1歩後ろに引いて腰を落とす。
- 最後にペットボトルを頭上に持ち上げながら後ろ脚の膝を前に引き上げ片脚立ちになる。1セット行ったら逆脚も。
NG
ペットボトルを持ち上げる位置が、頭上ではなく斜め上方向になってしまっている。こうなると軸脚の腸腰筋が十分に伸展しない。