姿勢を保ち股関節を動かす大事な存在・腸腰筋ってどこにあるの?

耳慣れない“チョウヨウキン”とは、どこでどんな役目を果たしているのか。構造や役割について学ぼう。

取材・文/石飛カノ 撮影/内田紘倫 スタイリスト/高島聖子 ヘア&メイク/坂西透 イラストレーション/野村憲司(トキア企画) 監修/大久保雄(埼玉医科大学保健医療学部理学療法学科准教授)

初出『Tarzan』No.896・2025年2月6日発売

腸腰筋ってどこ?
教えてくれた人

大久保 雄(おおくぼ・ゆう)/理学療法士。埼玉医科大学保健医療学部理学療法学科准教授。リハビリテーション科学やスポーツ科学分野での研究を行う。本特集の監修を務める。

腸腰筋とは大腰筋と腸骨筋の総称である。

「腸腰筋」というフレーズは単一だが、その実態はふたつの筋肉。ひとつは背骨から始まり、太腿の付け根の内側にある骨にねじれるようにくっついている「大腰筋」、もうひとつは左右に張り出した骨盤に沿った形で始まり、やはり太腿内側の骨にねじれて付着する「腸骨筋」。腸腰筋とは大腰筋の「腰」と腸骨筋の「腸」を組み合わせた総称だ。

教えてくれたのは、理学療法から腸腰筋研究にアプローチする埼玉医科大学准教授の大久保雄さん。

始まりの部分も違えば、筋肉の走行も異なるので、個別の筋肉に分類されることもあるが、ふたつの筋肉は協調して働くため、超巨大なインナーマッスルとして捉えられもする。『Tarzan』も後者の解釈で臨む。

腸腰筋

【大腰筋】
背骨から始まって股関節を経由し、太腿の付け根の骨にまで至るのが大腰筋。一般的には外から触ることができないインナーマッスル。

【腸骨】
骨盤のセンターにあるのが仙骨。そこから一対で左右対称に張り出しているのが腸骨。腸骨筋の名前の由来となった骨。

【腸骨筋】
骨盤の前面全体を覆っているのが腸骨筋。骨盤前で大腰筋の下部と合流し、太腿の付け根の骨にねじれるようにして付着する。

【小転子】
太腿の付け根の外側に張り出している骨の部分を大転子と呼ぶが、こちらはその内側にある小転子。腸腰筋がねじれて収まる終着点。

腸腰筋の役割は股関節屈曲と姿勢の保持 。

大腰筋が一枚岩ではなく、脊椎の横から派生している後部線維と脊椎自体から派生している前部線維のふたつに分かれている理由は謎。でも、何となくの役割分担が存在していることは分かっている。

腸腰筋の最も知られている機能は股関節の屈曲。元気よくスキップしたとき股関節をダイナミックに曲げて太腿を引き上げられるのは、腸腰筋のおかげだ。主に働いているのは腸骨筋と大腰筋の前部線維。

一方の後部線維はどちらかというと背骨を支える脊柱起立筋や多裂筋と協調して姿勢保持の働きをしていると考えられている。

腸腰筋

【大腰筋】
左右1対の大腰筋はとにかく巨大なインナーマッスル。胸椎と腰椎、股関節を経由する、人体の中でも特殊な多関節筋だ。

【前部線維】
脊椎自体から起こっているのが大腰筋の前部線維。胸椎の一番下の12番胸椎から5つの腰椎をカバーしつつ、後部線維、腸骨筋と合流。

【後部線維】
大腰筋の後部線維は脊椎横の「横突起」という部分から起こる。前部線維と合流しているが分かりやすいようイラスト右側の筋肉で表した。

関節包の前面をカバーするのは腸腰筋である。

大きく動かすことのできる関節は「関節包」と呼ばれる袋状の組織に包まれている。関節を保護してその動きを滑らかに保つのがその役割だ。もちろん、360度回転可能な自由度を誇る股関節も関節包にしっかり保護されている。

股関節の関節包を支える筋肉はたったの4つ。後部は臀部の深層にある内外閉鎖筋が支え、横からは臀筋の中で最も小さい小臀筋が支えている。そして、前部を一手にカバーするのが腸腰筋。これらの筋肉が稼働しないと、徐々に関節包が硬くなり機能不全になって将来は人工関節という可能性も。

大腰筋は7つ以上の関節を跨ぐ超多関節筋。

背骨を構成する脊椎は首の部分の7つの頸椎、胸の12個の胸椎、腰の5つの腰椎で構成されている。大腰筋の上部はこのうちの胸椎の一番下の12番目からスタートする。さらに、5つの腰椎にも付着して股関節を経由して太腿内側に至る。

複数の関節を跨ぐ筋肉を多関節筋と呼び、カラダのダイナミックな動きを担当すると知られているが、大腰筋は7つ以上の関節を跨ぐいわば超多関節筋。さらにあまり知られていないが、脊椎から直接出ている前部線維と脊柱横の突起から出ている後部線維の2層に分かれている。かなりのレア筋肉。