
教えてくれた人
福田大受(ふくだ・だいじゅ)/大阪公立大学大学院医学研究科循環器内科学教授。研究テーマは血管生物学、血管内皮機能、動脈硬化など。「異所性脂肪と心血管病」を特集した雑誌『医学のあゆみ』(2023年10月21日号)の編集役。医学博士。
痩せている人でも安心できない!?異所性脂肪とは。
体脂肪(中性脂肪)の多くは皮下脂肪と内臓脂肪に溜まるが、近年それ以外に“第3の脂肪”もあるとわかった。これを「溜まらないはずの場所(異所)の脂肪」という意味で「異所性脂肪」と呼ぶ。
いちばんポピュラーな異所性脂肪は肝臓に溜まる脂肪肝。それ以外に心臓、血管、腎臓、筋肉などにも異所性脂肪は点在する。
脂肪細胞は全身の代謝に関わるホルモンに似た物質、アディポサイトカインを分泌する。異所性脂肪もアディポサイトカインを盛んに出し、血糖値を下がりにくくするインスリン抵抗性を進めたり、慢性的な炎症を起こしたりして、生活習慣病の呼び水となる。
「太っている人ほど異所性脂肪は溜まりやすいのですが、日本人をはじめとする東アジア人には、太っていなくても異所性脂肪の蓄積が進む体質を持つ人が一定程度いることがわかっています」(大阪公立大学大学院の福田大受教授)
ここでは太っていなくても気にしたい異所性脂肪として心臓周囲脂肪に焦点を当てよう。
本当は怖い心臓周囲脂肪に注目。
1日約10万回も動いて血液を全身に巡らせる働き者の心臓にも異所性脂肪は溜まる。それは日本人の死因第2位の心臓病の危険度を上げてしまうのだ。
心臓の異所性脂肪を心臓周囲脂肪(EAT)という。なかでも厄介なのは、心臓を養う冠動脈を包むように付くタイプ。動脈硬化を進める恐れがあるためだ。動脈硬化の多くは、心臓から血液を運ぶ動脈の内側にコレステロールなどが溜まってプラークが生じ、動脈を詰まりやすくする。冠動脈で詰まると狭心症や心筋梗塞などの心臓病が起きるのだ。でも冠動脈外側のEATが、なぜ血管内側の問題とリンクするのか。
「血管の内と外には連絡ルートがあり、EATが分泌した悪玉アディポサイトカインが血管内に注ぎ込まれると、プラークが大きくなったり、出血が起こったりして心臓病を発症しやすくなるのです」
心臓病で急増中の心不全にも、EATは関わる。心不全とは、心臓のポンプ機能が落ち、血液の循環が滞るもの。国内の患者数は100万人を超えて“心不全パンデミック”とも呼ばれている。
「EATがあると、心臓の収縮力は十分なのに、周りのEATに邪魔されてうまく拡張できない“ヘフペフ”というタイプの心不全に陥りやすいといわれています」
心臓周囲脂肪は冠動脈疾患患者で増加している。
体格差を補正するため体表面積で割って心臓周囲脂肪の蓄積度を比較。冠動脈疾患(心臓病)を起こした人の方が、心臓周囲脂肪がより多く蓄積していた。
出典/島袋、2013
隠れた心臓周囲脂肪を見つける方法。
心臓周囲脂肪(EAT)が注目され始めたのは、2010年代。でも、それより200年前の1812年に欧州で刊行された医学雑誌に、心臓病の一種の狭心症患者を死後に解剖したところ、心臓の周りに脂肪が溜まっていたという報告がすでに載っていたとか。
「CTや超音波検査(エコー)はおろか、レントゲンすらなかったので、死後の解剖以外でEATを見つける術はなかったでしょう」
CTやエコーならEATを“見える化”できるが、通常の健康診断で行われるエコーで心臓は診ない。その有無を知る手がかりは?
一つは体重の変化。標準体型でも異所性脂肪は溜まるが、太るとEATをはじめとする異所性脂肪は増えると覚悟すべき。2つ目は脂肪肝の存在。血液検査などで脂肪肝が疑われるなら、EATが溜まっていても不思議はない。
「加えて高血圧などの基礎疾患があるなら、循環器内科で“EATを含めてチェックしてください”と相談してみてください」
+10分の運動で心臓周囲脂肪を減らす。
減脂肪には食事のカロリー過多を戒め、運動でカロリーを消費するほかない。異所性脂肪も同様だ。
「なかでも運動は効果的に異所性脂肪を減らすとされています」
運動は続けにくいのが難点だが、そのハードルを下げるのが、いまより1日10分間余計にカラダを動かす意識付け。厚生労働省は「+10(プラステン)」と名付けて啓蒙を図る。歩く時間を1日10分増やす、駅やオフィスで階段を使うなどで+10を1年続けると1.5〜2.0㎏の減量効果があるとか。EATなど異所性脂肪も減ると期待できる。
この他、福田先生自身が実践するのは座位の時間を減らすこと。
「研究室にスタンディングデスクを設置し、立ったままパソコン仕事をしています。足腰の筋肉が鍛えられて多少運動になります」
EATによる心臓病を防ぐには青魚に多いEPAやDHAといったオメガ3脂肪酸の摂取が効く。日本動脈硬化学会推奨の「ザ・ジャパン・ダイエット」(下記参照)も動脈硬化予防に役立つ。
動脈硬化予防のための「ザ・ジャパン・ダイエット」。
和食に定義はなく、伝統的な和食には塩分が多いなどの弱点もある。そこで日本動脈硬化学会が推奨する健康的な食様式がザ・ジャパン・ダイエット。下記の5つを満たせば和風以外の料理や味付けでもOK。
1 |
肉の脂身、動物脂、鶏卵、清涼飲料、菓子などの砂糖や果糖を含む加工食品、アルコール飲料を控える。 |
2 |
魚、大豆・大豆製品、緑黄色野菜を含めた野菜、海藻、きのこ、こんにゃくを積極的に摂る。 |
3 |
精製した穀類を減らし、未精製穀類や雑穀・麦を増やす。 |
4 |
甘みの少ない果物と乳製品を適度に摂る。 |
5 |
減塩して薄味にする。 |
出典/一般社団法人日本動脈硬化学会