減量の効果が変わる、上手な「脳の騙しかた」。

繰り返しダイエットに失敗してしまうのは、すべて脳の仕組みのせい。喫緊の課題である体脂肪減を実現する手立てのキーワードは「線条体」。これは脳の奥深くにある神経核で、運動の開始、持続、コントロールなどに関わる部位。線条体を働かせることで上手に脳を騙せば、ダイエットはそう難しくない。

取材・文/石飛カノ イラストレーション/moi. 取材協力・監修/篠原菊紀(公立諏訪東京理科大学教授)

初出『Tarzan』No.894・2025年1月4日発売

脳を騙して上手に痩せよう
教えてくれた人

篠原菊紀(しのはら・きくのり)/公立諏訪東京理科大学教授。専門は脳システム論。大学で教鞭を執りながら脳科学者として日常のさまざまな場面での人間の脳活動を調査。テレビやラジオなどのメディアで脳に関する実験や解説も行う。

やる気を生み出す線条体の在り処。

線条体

運動の開始や持続に関わる線条体は大脳基底核にある神経核。ドーパミンを分泌する側坐核はこの線条体の一部に存在する。線条体が行動と快感を繫ぐ役割を果たすのはこのため。

Trick.1|オノマトペを使って自分の行動をイメージ。

運動を始めようというとき試してほしいのが、オノマトペを使ったイメージトレーニング。ササッと玄関に行きキュッと靴紐を縛ってダッと立ち上がってドドッと走り出す自分。

このように擬音語を多用して自らの行動をイメージしてみる。すると無音でイメージするより運動系を司る脳の部分が活性化し、線条体の働きも高まりやすいことが分かっている。具体的なイメージを思い浮かべることで、運動に対するモチベーションが上がる。

Trick.2|「筋肉が喜んでいる!」と言いながら運動する。

正直、運動は始めるまで億劫だし、やったらやったで爽快感は得られるものの、肉体的には疲れる。だからやる気を出せと言われても、ハイ出します、とはならない。

そこで運動という行動と快感を結びつけるためのテクニックのひとつが、楽しいということを脳に刷り込む方法。たとえば「今、筋肉が喜んでいる」「この運動がとても楽しい」「運動することがとても嬉しい」と口に出してみる。すると線条体が働き、報酬系神経が活性化。

Trick.3|SNSで励ましの言葉や褒め言葉をかけてもらう。

やる気を促すような言葉はどんどん口に出す。でもそれ以上に線条体を働かせるのが、運動したという行動を人から褒めてもらうこと。

たとえば、ウォーキングから帰ってきて玄関を開けたら家族が一斉に拍手で出迎えてくれればもう最高、ドーパミンだだ漏れ状態になるはず。とはいえ現実的ではないので、SNSの発信やオンラインフィットネスのインストラクターからの激励の言葉などで、褒め言葉をガンガン浴びるという手を試してみよう。

Trick.4|ダイエット食を美味しいと言いながら食べる。

運動だけでなく食事をするときも線条体を働かせ、報酬系神経を活性化させる言葉を活用。年末年始のごちそうとは打って変わって油控えめ、野菜たっぷり、主食はやや少なめのダイエット食。

「ひもじい」と思ってしまったらそれは我慢になってしまう。とにかくよく嚙んで味わいながら、「美味しい」「次も食べたい」と口に出してみる。全然そう思っていなくても口に出すだけで脳は意外と簡単に騙され、報酬系神経が活性化する。

Trick.5|「◯◯をやめる」という選択をしない。

「ウォーキングに行く」という選択と「ウォーキングに行かない」という選択があった場合、選択次第では線条体の活性度が下がってしまう。

同程度に好ましい異性の写真を2枚並べて被験者に選ばせる実験では、ヒトの脳は選択しなかった方の異性を嫌いになる傾向があるという。同じ選択でも「行かない」を選ぶのはまだいいが、「行くのをやめる」を選ぶと「ウォーキングに行く」という行動そのものを嫌いになる可能性がある。要注意。

Trick.6|「禁止」ではなく、選択肢を増やす。

丼物禁止、揚げ物禁止、スイーツ禁止! ダイエットにおけるこうした禁止系のルールは、情動や感情処理を受け持つ脳の扁桃体に影響を与え、基本的にポジティブな行動には結びつかない。

なので、「◯◯を禁止」するのではなく、スイーツが食べたくなったらスルメを齧るなど別の選択肢を用意する。その選択肢が運動ならなおよし。揚げ物が食べたくなったら腹筋をするというように、選択してその行動を行うように仕向けるのだ。

Trick.7|「スマートな食べ方」で報酬系を刺激する。

敢えてお酒を飲まないという選択をする人々をソバーキュリアスと呼ぶそうな。ノンアルコール、ノンカロリーのお酒を飲んで、シラフを貫きつつ酒席を楽しむ。

実験でノンカロリーのエサで満足するネズミはいないので、この行動は人間ならでは。メカニズムとしては理性の在り処、前頭前野でノンカロリーを楽しむのが「おしゃれ」とか「スマート」と位置づけられると、報酬系神経が作動する。ダイエットでもこの仕組みを大いに利用したい。

Trick.8|人は飽きる。でも再度決意してやればいい。

ダイエットを続けたとしてもカラダのレギュレーションはそうそう変わらない。痩せればたちまちカラダのシステムが変わるというのは、ある意味妄想だ。

だが、絶望する必要はない。「ヒトの脳やカラダはそういうふうにできている」と思って最初の努力に戻ればいい。人のやる気は長続きしないし、同じ報酬に飽きて当たり前。今週三日坊主で挫けたら、また来週から取り組めばいいのだ。そう、何度でも。

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