プロが解説!おさえておくべき8つのマットピラティス。

ジョセフ・ピラティスは、生涯で600種類以上のエクササイズを考案したといわれている。その中から、重要な8つのマットエクササイズをインストラクター・川名昌代さんがセレクト。エクササイズを通じて、彼が提唱したメソッドの神髄に触れよう。

取材・文/川端浩湖 撮影/森山将人 スタイリスト/高島聖子 ヘアメイク/大谷亮治 モデル/呉山賢治 監修/川名昌代

初出『Tarzan』No.890・2024年10月24日発売

教えてくれた人

川名昌代(かわな・まさよ)/ピラティスインストラクター〈Pilates Body Contrology Studio〉主宰。2000年よりNYでロマーナ・クリザノウスカに師事、04年よりアリゾナでロン・フレッチャーに師事する。ジョセフ・ピラティスの著書『Y HEALTH』『Return to Life』を翻訳し『CONTROLOGY』として出版。

川名昌代さんが語るピラティスメソッドの原点。

ピラティス

ピラティスを語るうえで欠かせないのが、ジョセフ・ピラティス(敬意を込めて“ジョー”と呼びます)が提唱した「コントロロジー」という概念です。著書によると「カラダ、頭、精神の完全な調和を目指すもの」であり、人間本来の健康な心とカラダの状態に戻すことを目的とした哲学です。エクササイズはそのための手段のひとつ。彼の直弟子たちは、この考えを深く理解し、エクササイズの形だけでなく、その背後にある概念も伝えてきました。

エクササイズの本質は、単に動作をなぞるのではなく、動きの中に隠された全身を使う意識にあります。ジョーは弟子たちを指導するとき、「ホール・ボディ!(全身を使え!)」とよく声をかけていたそうです。

エクササイズは、特に背骨の動きに焦点が当てられています。ジョーは「本当の年齢は脊柱の自然な柔軟性によって決まる」と述べていました。さらに重要な要素が「呼吸」です。彼は適切な呼吸がカラダに酸素を巡らせ、エクササイズの効果を高めると考えていました。動きの中でお腹は膨らまさないのですが、呼吸のやり方については直弟子の方によってさまざまでした。

今回紹介したエクササイズの多くはアドバンスレベルであり、その一部を切り取ったもの。動きが加わることで、真の目的に近づけます。

持久力と忍耐力が求められる「ハンドレッド」。

ピラティス ハンドレッド

  1. 仰向けで上体を肩甲骨の下まで起こし、息を5回吸い、5回吐く。腕は呼吸のリズムに合わせて上下に動かす。
  2. 吸いながら「1、2、3、4、5」、吐きながら「1、2、3、4、5」、これを10セット行うのでトータル100回、だからハンドレッド。

写真はアドバンスレベルの脚の高さだが、初めは膝90度、股関節90度に曲げたり、床から45〜90度で腰が反らないところに保って行う。回数も徐々に増やして100を目指そう!

Masayo’s Comment

「ピラティスの中ではダントツ長く同じ姿勢に留まるエクササイズ。腕を100回動かす間この姿勢を保つため、持久力と忍耐力が必要。腹筋を含め動かさない部分が辛い!」

斜め一直線の姿勢を保つ「レッグ・プル」。

ピラティス レッグ・プル

  1. 頭と脚が斜め一直線になるように両腕でカラダを支え、両脚はしっかり閉じる。
  2. 片脚を上げ(写真のポーズ)ながら息を吸い、吐きながら気を抜かずにコントロールして元の位置へ戻す。
  3. 次に反対の脚も同様に動かす。左右交互に3セット。

エクササイズ中、両腕は床と垂直、手首も直角に保つ。脚を無理に高く上げるより、初めは上がるところまででしっかり膝を伸ばす。お尻を下げたり腰を反らせたりせず、姿勢を保つことに意識を向けて。

Masayo’s Comment

「斜め一直線にした姿勢を保つことがなかなか大変です(苦笑)。膝を伸ばして片脚を上げるとき、爪先までしっかり使うようにすると意外と助けになります」

バランス感覚を養う「サイド・キック・ニーリング」。 

ピラティス サイド・キック・ニーリング

  1. 片側の手と膝でカラダを支え、上になった側の脚を腰の高さで真横に伸ばす。
  2. その脚を前に向かって振り出し(写真のポーズ)ながら息を吸い、吐きながらその脚を後ろに振る。
  3. 4回繰り返したら反対側を行う。

脚のスイングに気持ちを持っていかれそうになるが、注意すべきポイントは、頭を支える手の肘は後ろへ引き、胸は突き出し、腹は引っ込める……、といった具合に彼の著書には細かな指示がある。一つ一つ意識してカラダの細部まで使おう。

Masayo’s Comment

「ジョーの言う“ウェストラインとお尻を鍛え、バランス感覚を養い、動きを調和させる練習となる”ことを目指すため、動かす脚をできるだけ床と平行に保つことも大事」

水泳の飛び込み競技のような「スワン・ダイブ」。

ピラティス スワン・ダイブ

  1. うつ伏せの姿勢から両手で床を押し、肘を伸ばして上体を反らせる(写真のポーズ)。
  2. 閉じた両脚を床から浮かせ、両腕を肩の延長線上に広げ、息を吸う。
  3. この形を保ったまま息を吐きながら前にロッキング(脚がより上がり、カラダの上の方が下がるので、床につく部位が上の方にずれる)、息を吸いながら後ろにロッキング(上体が上がり、脚が下がる)。

前後に揺れる動きを6回。腰椎を痛めやすいので、お腹を出さないように気をつける。

Masayo’s Comment

「水泳の飛び込み競技の型(スワン・ダイブ)のイメージ。マットは白鳥が羽を広げた形までですが、マシンでは水に飛び込むところまでの動きがあります」

カラダ全体を使う「コントロール・バランス」。

ピラティス コントロール・バランス

  1. 仰向けで両腕は体側、両脚を床と垂直に上げたところから、ゆっくり息を吸いながら、背骨を下(尾骨)から順に巻き上げるように骨盤を持ち上げ、両足の爪先を頭の後ろの床につけ、腕を横から回して片方の足首を摑み、逆側の脚を爪先で天井を突き刺すように上げる(写真のポーズ)。
  2. ゆっくり息を吐きながら足首の手を放し、コントロールしながら上下の脚を入れ替える。6回。バランスを崩さないようにコントロールを続けて。
Masayo’s Comment

「頭の後ろに腕が来るとバランスを取るのが難しくなるので、カラダ全体をしっかり使ってコントロール! 胸椎上部を丸めて首だけに重さが乗らないように注意!」

”コントロロジー”の代表格「オープン・レッグ・ロッカー」。

ピラティス オープン・レッグ・ロッカー

  1. 両膝を曲げて床に座り、両手で足首を摑む。
  2. 骨盤を後ろに傾けて両脚を開き、カラダの前に伸ばす(写真のポーズ)。
  3. この形を保ちつつ、息を吸いながら尾骨から背骨を巻き上げるように骨盤を倒して後ろに転がり、息を吐きながら再び写真のポジションに転がり戻って止まる。
  4. 頭を床にぶつけないように、転がる時はお腹を見て。
  5. 肩甲骨の間がマットについたら戻り始め、このポジションになる瞬間に前を見ると止まりやすい。呼吸は逆でもできる。
Masayo’s Comment

「ジョーが“コントロロジーの全てがここにある”と語った代表的なエクササイズ。この姿勢のまま、コーヒーを飲んだり電話に出たりしていたとか。別名The art of balance!」

地味なのに大変な「サイド・ベンド」。

ピラティス サイド・ベンド

  1. 片方の手を床についてカラダを持ち上げ斜め一直線に。上の腕は体側につける。
  2. まずは下側のサイド・ベンド。息を吸い、下のふくらはぎが床につくまで骨盤を下げ息を吐き、元に戻って息を吸う。
  3. 次に上側のサイド・ベンド。息を吸い、骨盤を上げる。腕は高く上げて頭の横へ伸ばす(写真のポーズ)。
  4. 元に戻って息を吐く。それぞれ3回行う。

腕、肩、手首の筋肉を鍛え、ヒップとウェストラインのストレッチ効果も。体幹部を働かせることも忘れずに!

Masayo’s Comment

「実はこの形よりも、上の腕を体側につけているスタートのポジションとその次の下側のサイド・ベンドの方が、地味なのに圧倒的に大変という理不尽なエクササイズ」

エビになりきる「ジャックナイフ」。

ピラティス ジャックナイフ

  1. 仰向けで両脚を床と垂直に伸ばし、腕は体側。
  2. 息を吸い、背骨を尾骨から順に巻き上げ、脚が顔の上に来たら、ジャックナイフをピンと開くように両脚を跳ね上げ、天井に向かって伸ばす(写真のポーズ)。2秒保つ。
  3. 息を吐きながら背骨を上から順にひとつずつ床につけ、脚と骨盤を床と垂直を保ちながら初めの姿勢に戻る。3回。

跳ね上げというが勢いはつけず、あくまでもコントロールが大事!腕でマットを押すことでバランスを保とう。

Masayo’s Comment

「水泳の飛び込み競技の“エビ型”に似たフォームです。跳ね上げのとき、脚の動きに負けてしまわないよう、動かさない部位を働かせるのがポイントです」