MiMz(ブレイクダンサー)「楽しんでくれたら、 それが最高なんです」
日本を代表するダンサーは、4年のブランクを経て復活した。彼女のブレイキンへの思いとは。(雑誌『Tarzan』の人気連載「Here Comes Tarzan」〈2024年10月10日発売〉より全文掲載)
取材・文/鈴木一朗 撮影/赤澤 昂宥
初出『Tarzan』No.889・2024年10月10日発売
Profile
MiMz(ミームス)/1994年、石川県金沢市生まれ。166㎝、55㎏。4歳でヒップホップを始め、9歳からブレイキンへ。2017年のジャパンファイナルに出場する。当時は、女子のB-ガール部門はなかった。19年に『Red Bull BC One World Final』に出場し、準決勝に進出。今年、ジャパンファイナルで優勝してブラジルで行われる『Red Bull BC One World Final』を目指す。
目次
体力面をさらに強化してワールドファイナルの決勝でMalikaと会いたい。
ブレイキンまたはブレイクダンス。実はこれを単純にスポーツと捉えるのは難しい。カルチャー、アートとしての側面も持つからだ。7月に行われた『Red Bull BC One』のジャパンファイナルで優勝し、世界大会へのステップに歩みを進めた日本を代表するダンサーのMiMz(ミームス)は、こう語る。
「今、自分が持っているアートというか、作品を出し切りたいというのが自分の目標で、(大会では)まわりの目は気にしていなかったんです。(本番は)本当に自分と向き合う時間って感じでした。ダンスでは、細部を構築しながらカタチにして、ネタにする作業があるんです。今回の大会では本当に10年ぶりぐらいに、モチベーションが戻って、ネタをクリエイトするのが楽しかったです」
ネタとは漫才のようだが、ダンサーたちには当たり前の言葉。独自の発想で生み出した動き、自分を表現する新しいアレンジを示す。彼、彼女たちはこれを繫いで作品に仕上げ、披露する。ちなみにMiMzはしなやかで美しい動きが特徴で、他に類を見ない独創性を備えている。
「ジャパンファイナルでは緊張より早く踊りたい気持ちが強かった。結構とんとんっていうような感じで勝ち進んで。マインドも鍛えながら、練習を続けることができたことが、こういう結果に繫がっていったんだなと思っています」
10年間はずっとスランプ。もうつまんないという感じ。
4歳でヒップホップを始め、9歳からブレイキン、そして30歳になった。その彼女が、今大会を目指してなんと10年ぶりにモチベーションが戻ったと言う。では、その間踊ることは楽しくなかったのだろうか。
「本当に10年ぐらい前から、女性らしい動きとか自分のスタイルを意識して、それをちゃんと取り入れられるように作業をしていました。ただ、できないとすぐに諦めていた。自分でかけた圧に、自分で負けていたんです。仲間と過ごすのは楽しいけど、反復練習や環境がずっと同じことにも飽きて……、加えて人生に病んでいました(笑)、ストイックがゆえに。それで10年間ずっとスランプというか、つまんないと思っていました」
それでも、ダンスは続けた。そして2019年、インドのムンバイで行われた『Red Bull BC One World Final』で準決勝進出を果たすのだ。これは、今回MiMzが優勝を果たしたジャパンファイナルの延長線上にあり、世界のブレイクダンサーの憧れの舞台でもある。20年以上の歴史を持つ大会なのだ。
「この大会で燃え尽きたっていうか、もういいやみたいな。で、クリエイトすることに飽きてきたタイミングで、新しい興味が湧いてきたんです。音楽のディグやフィルムカメラでシャッターを切るなど。ゼロからスタートオーバーできるモノに没頭していった。そのライフスタイルが今のパフォーマンスに反映されているのですが、その頃は音があればパーティダンスしていたって感じでした」
息子が生まれたことで、私も生まれ変わった。新たな第2章が始まった。
追い打ちをかけるように、新型コロナが襲う。仲間とも会えない。本格的なダンスとは無縁の生活となった。そんな中、22年に長男を出産。そして、昨年の6月から4年ぶりにダンサーとしての活動を再開させた。
「再開したすぐ後に、23年のジャパンファイナルのジャッジを務めることになったんです。そこで、私がソウルシスターだと思っているYasmin(Malika)が優勝したんです。それを見ていて、私も来年は絶対チャレンジしたいという気持ちになった。練習できる時間はとても少なかったんですけど」
1年もなかった。そのうえ4年というブランクもある。ただ、前に踊っていたときとは、ひとつだけ大きく違うことがあった。気持ちが圧倒的に前向きになっていたのである。
「出産後に、心身ともにデトックスしたというか、生まれ変わったような感じになれたんです。原点回帰ができて、高校のとき以来なんですがクリエイトするのが楽しくなった。それに、失敗してもいいと思えるようになった。失敗してすべてをさらけ出して、誰かに助けを求めてもいいということも、子育てをしていくなかで学びました。ただ、フィジカルは十分ではなくて、ヨーガや瞑想といったマインドフルネスから始めて、踊る前にはフッキン、背筋などのトレーニングをやった。カラダの可動域とかも、考えて動くようにした。それが、自分の新しい第2章のスタイルかな、みたいな感じです」
勝った時は本当にありがたいと思った。
ジャパンファイナル、決勝で対戦したのがAYUMIだ。豊かな創造性と“お掃除スタイル”というキャッチコピーまである独特なダンスに定評がある。この大会の後、パリ・オリンピックにも41歳で出場して準々決勝まで進んだベテランだ。
「勝ったとわかったときは、信じられなかった。終わったときは何もかも、すべて出し切ったという満足感で、勝負ということを忘れていたんです。だから、最初はびっくりしましたし、本当にありがたいなとも思いました。あとは諦めないココロってとても大事だなと思って。今まで諦めグセが凄かったですから(笑)」
ジャパンファイナルで勝ったMiMzは12月の上旬にブラジルのリオデジャネイロで行われる大会『Last Chance Cypher』の出場権を獲得した。そして、ここで各国の優勝者たちと『Red Bull BC One World Final』の出場をかけて戦う。といっても彼女にとっては、すべてが自分との戦いであるのだが。
「まず、ジャパンファイナルで勝ちたかったのは息子に世界を見せたい、ブラジルに連れていきたいということがありました。それが叶ったことはとてもうれしいです。あとは、とにかく全力でできることをやって勝ち上がりたい。ワールドファイナルに行けたら5年ぶりですし、それでファイナルの決勝で、さっきも言ったベストフレンドのMalikaと会うというのが自分の一番の目標ですね。ただ、Last Chance Cypherからのチャレンジになるので、ラウンド数も多くなるから、体力面をさらに強化することが必要だと思っています。多くの人に注目されるので、自分自身のスタイルを思い切って表現していきたい。本当のことを言うと、私のダンスを見て、みんなが楽しんでくれれば、勝ち負けなんかよりも最高なんですけれどね」