スキーが連れてってくれる町。|vol.1 蓼科高原(長野県)
スキーの楽しみは、ゲレンデの上だけにあらず。雪山を求めて移動する過程でたどり着く風景や人々との出会いもまた、スキートリッ プの醍醐味。インテリア業界屈指のスキー好きである〈LICHT〉の須摩光央さんに旅の記憶を聞く連載がスタート。第一回は、須摩さんがセカンドハウスを構える蓼科エリアについて。シーズン直前の山は、淡い色彩で、儚くも美しい表情を見せています。
撮影/須摩光央(HIKE) 取材・文/村岡俊也
東京・中目黒で〈HIKE〉と〈LICHT gallery〉という二つのインテリアショップを運営しています。そのために自宅は世田谷にあるのですが、かれこれもう40年以上も蓼科に通っています。
母が建てた別荘を引き継いでからは、訪れる頻度も増え、ほとんど日常の中に組み込まれているように思います。駒沢公園まで自転車に乗りに行くのと同じ感覚で、蓼科では山に入っています。特別でもなんでもない。何せ40年分の馴染みがあるから。
小学生の頃に初めてスキーをしたのも、蓼科でした。リフトがひとつだけある小さなファミリースキー場でしたが、僕が中学生になった頃にもうひとつ上の山が切り開かれて新しいスキー場ができたため、麓のスキー場は閉鎖になりました。もうリフトも取り壊されて、あの頃は急斜面だと思っていたのに、今ではただの丘です。
新しい(と言ってももう30年以上前にできた)スキー場もコロナ禍で閉鎖になりました。残念ではあるのですが、僕らにとってはラッキーで、誰もいないゲレンデを登って滑っています。新雪で、鹿の群れしかないから。
日本海からも遠いから、湿気が途中の山で落とされて、残った分だけが降る。だから量は少ないんですが、降った雪はすごく軽いんです。息を吹きかけるとふわっと飛んでいくような、すごくいい雪が降る。抵抗が少なくて、歩いていても気持ちがいいんです。
初冠雪は12月中旬くらい。だから11月は、やってくる冬をワクワクしながら待ちつつ、あっという間に変わっていく景色を楽しむ時期。紅葉して、葉が落ち、本来の樹形が見える。雪が降る前にも、急に気温が下がると湿気が凍って、樹氷がつくんです。周囲にはまったく氷がついてないのに、一本だけ樹氷で真っ白になった木を見つけたときにはびっくりしました。その時、その場所にいなければ、見ることができなかった。自然の遊びはすべて、そんなことばかりですね。
山の中には材木を運搬するための小さな道がたくさんあります。山を管理する人たちの道で、冬場には誰も入ってこないので、雪が本格的に降るまではマウンテンバイクで、滑れるくらい積もったらスキーを履いて、その道を通って山までゆったりと汗をかかない程度のローギアで登って行く。
シーズンが始まる前の体を作るために、特に11月は一生懸命に自転車を漕いでいます。スキーもバイクも、どちらも疾走感は似ていて、重力と自分の体重とのバランスをマネージメントしながら山から降りてくる。ほんの10分程度の楽しみのために3時間かけて山を登る。その潔さのようなものに、ずっと惹かれているのだと思います。
Information
蓼科
八王子インターチェンジから中央自動車道で諏訪南ICまで約2時間半。蓼科、白樺湖方面へ。例年スキーシーズンは、12月下旬頃から3月初旬まで。日本では数少ない、今もスキーヤーオンリーのゲレンデである〈ブランシュたかやま〉がある。清里や軽井沢に比べて落ち着いた別荘地で、須摩さん宅から最寄りの道の駅までは40分。その不便さのおかげで、静けさが保たれている。