文・小澤匡行
ランニングが日常のどのくらいを占めているかと言われれば、そこまででもない。大会に出たりする欲もなく、順位とかスピードとか、走ることに対しての目標はないが、理想としている自分になるために「走る」という行為がある、ぐらいのレベルで向き合っている。学生時代はランナーだったという専門的な自分を35%くらいもちつつ、65%くらいはスニーカーとしてランニングシューズとしてその機能を体感したり、ファッション的に楽しんでいる。だからハイスペックを持て余しても気にならないし、エリウド・キプチョゲのための靴だって履きたい。自己基準のテクノロジー消化率だけで向き不向きを判断してしまうと、視野が狭くなってもったいないと思っている。
最近気になったのが〈NNormal〉というブランド。母体はカンペールで、ファウンダーは、キリアン・ジョルネというスペイン人。トレイルランナーなら知らない人はいないし、山岳スキーの有名な競技者でもある。そしてエベレストを単独、無酸素、固定ロープを使用せずに1週間で2回登頂したことがある、屈強なアルピニストでもある。そういうストイックなアスリートが監修していながら、見た目がかわいい。というバランスに惹かれた。
そのかわいさのディテールには、エシカルなマインドが現れている。〈NNormal〉はB-Corpの認証ブランドである。労働環境に問題がある発展途上国で生産したりせず、素材一つにもオープンなのだ。企業がまっさきに貢献すべきは、アスリートよりも社会や環境であるような姿勢から、最良のプロダクトへの回答を導いている。それでいて自慢は耐久性である。キリアンは「UTMB(ウルトラトレイル・デュ・モンブラン)」の100マイルに出場すると、1レースで3足を履き潰していたらしいが、〈NNormal〉を履くようになってから、これ一足で4レース完走するらしい。
プロダクトにおけるサステナブルとは、環境に配慮された材料を使うことだとばかり思っていたが、そこに耐久性を高めることで無駄使いを減らすというアプローチはとても筋が通っている。ダイエットに例えるなら、低カロリーの食材を使いながら、さらに腹もちのよい料理を作っているようなもの。たしかにいろいろやさしいのである。
僕はこの《Tomir》を履いているけど、不純物が混ざっていない自社開発のアッパーにTPUをコーティングすることでより耐久性を高めている。そしてこれを見てまっさきに覚えた違和感は、サイドマッケイ的なステッチがソールをぐるっと囲んでいたことだ。これを見て思い出すのは、〈adidas〉の《スーパースター》や〈PUMA〉の《クライド》といったクラシックなコートシューズ。つまりアッパーとソールを接着でなく、縫製によって頑丈にするためのクラシックな技術である。これは将来的なリサイクルを見据えて分解を容易にするためだろう。先進的なデザインだと思っていたけど、ちょっとレトロな服やジーンズに合わせても良さそうだと、ディテールだけでファッション的な親近感を覚えてしまうのだ。
生産ロスの無駄を省く意味でも〈NNormal〉のプロダクトはすべてユニセックスである。だからカラーリングにそれほどジェンダーを感じない。つまりゴリゴリのメンズっぽくなければ、ウィメンズらしくもない、ということ。この中間的な色合いはとても自然的だし、柔らかい天然素材やアウトドア的なフリースとじつに統一感がある。ランニングウェアもパキッとした派手色よりも中間色が増えている。ここ数年は、とくにシーンで目立つよりもランドスケープに溶け込むように、自分でも意識している。走っていても、そこに立ち止まっていても。