カラダを動かす名コンビ!心臓と肺の関係性とは。
隣り合って日々カラダのために働き続けている心臓と肺。“心肺”と言うようにコンビで密接に関わり合いながら連動している。それぞれが果たす役割や他の臓器との関係を知ろう。
取材・文/井上健二 イラストレーション/川本まる 取材協力・監修/大島一太(大島医院院長、東京医科大学八王子医療センター循環器内科兼任講師)、別府浩毅(べっぷ内科クリニック理事長)
初出『Tarzan』No.886・2024年8月22日発売
教えてくれた人
大島一太(おおしま・かずたか)/心臓専門医・心臓病上級臨床医。大島医院院長、東京医科大学八王子医療センター循環器内科兼任講師。日本心臓病学会特別正会員、日本循環器学会心不全療養指導士実務部委員など併任。地域医療と高度専門医療を兼務する心臓病のスペシャリスト。
別府浩毅(べっぷ・こうき)/心臓専門医。京都大学附属病院、三菱京都病院などで循環器内科、糖尿病を専門とし15年の勤務を経て独立開業。「患者とともに歩む医療」をテーマに掲げ、投薬や高度医療と並び、生活習慣改善も重点的に指導。
肺が弱ると心臓が助け、心臓が弱ると肺も弱る。
胸郭という丈夫なフレームに隣り合わせで収まる心臓と肺は、切っても切れないコンビ関係にある。
まず、心臓と肺で血液と酸素がどうやり取りされるかをおさらいしよう。
肺循環は右心室→肺動脈→肺→肺静脈→左心房というルート。肺で酸素を取り込み、二酸化炭素を放出する。体循環は左心室→大動脈→動脈→腎臓などの臓器→毛細血管→静脈→右心房というルート。細胞に酸素を放出して二酸化炭素を回収する。
カラダ中の細胞を巡り、静脈で心臓に帰ってきた血液(静脈血)は、心臓の右心房に入り、右心室から肺動脈で肺へ送られる。
肺動脈で運ばれた血液は、肺の肺胞で外気とガス交換を行い、酸素(O₂)が多くて二酸化炭素(CO₂)が少ない状態にリフレッシュされる。この血液が肺静脈で心臓の左心房へ流れ、左心室から全身へと送られる。
通常、動脈にはO₂が多くてCO₂は少ない血液が、静脈にはO₂が少なくてCO₂は多い血液が流れているけれど、肺動脈と肺静脈ではそれが完全に逆転している。
心肺コンビの使命は、カラダの津々浦々まで血液を巡らせて、酸素を供給し続けること。互いにサポートし合う関係にあり、どちらかが悪くなると相方にも累が及ぶ。
「肺で酸素が十分取り込めないと、酸素の供給量を確保するために心臓が頑張り、心拍数が増えるなどして心臓の仕事が増える。心臓の調子が悪くなると、肺を巡る血流が減ってガス交換が滞り、肺の負担となる。ゆえに心臓と肺の病気は併発しやすい傾向があります」(大島一太医師)
酸素は元気の源。それを巡らせる心肺こそ健康寿命を左右するのだ。
心臓、肺、腎臓は運命共同体。三位一体でケア。
心臓が悪くなる心不全に陥ると、肺以外にもダイレクトに障害される臓器がある。腎臓だ。
心機能の低下と腎機能の低下は相互に悪影響を与えていることから、心臓と腎臓の病気を一体として捉えようという「心腎連関」といった考え方もあるほど。
腎臓の重さは体重の200分の1なのに、心臓から出る血液の5分の1(毎分約1L)が流れ込む。腎臓は血液を濾過して余分な水分や老廃物を尿として排泄して、体内の水分代謝をコントロールする。
心不全で心臓が押し出す血液量が減ると、腎臓を流れる血液量も減り、尿をきちんと排泄できなくなる。すると心臓は、血管を広げて尿の排泄を促す作用を持つホルモン(BNP)を分泌して対応する。
それでも改善しないと、尿として出る水分が減り、体内に余計な水分が溜まるむくみ(浮腫)が生じて、心臓と腎臓を一層弱らせる。
「浴槽にお湯を多く溜めるほど、かき混ぜるのに負担が増えますよね。同じように、むくんで水分量が増えてくると、血液を巡らせている心臓にも、血液から尿を作る腎臓にも負担がかかります」(大島医師)
行き場のない水分は、心臓や肺にも溜まる。心臓に水分が溜まると、ポンプ機能がさらにダウン。肺の内部に水分が溜まる「肺水腫」、肺の周辺に水分が溜まる「胸水」になると、空気を十分吸えなくなり、ガス交換の効率も悪くなる。心臓、肺、腎臓はいわば運命共同体だから、三位一体でケアする必要があるのだ。
寝ている間の呼吸の良し悪しが心臓の調子を決める。
大いびきをかいて寝ている、夜中に何度も目が覚める、日中に耐え難い眠気がある…。そんな自覚症状があるなら「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」を疑ってみるべき。
SASとは、肥満や生まれつきの骨格の特徴などにより、仰向けで寝たときに空気の通り道である気道が圧迫されて狭くなり、呼吸が頻繁に止まってしまう病気。
SASは居眠り運転の原因。重大な交通事故につながりかねないから、社会的にも注目される。居眠りしなくても、SASの反応速度は飲酒運転より落ちるという報告もある。
そしてSASだと心臓にも大きなダメージが及ぶ。血圧が上がり、心臓病リスクも上昇するのだ。
「高血圧の患者さんのSASの有無をチェックしてみると、本人は無自覚なSASが結構隠れています」(別府浩毅医師)
呼吸が止まると全身が低酸素となり、心臓にも血管にも深刻なストレスがかかる。加えて呼吸を再開するために脳が覚醒するたび、交感神経が優位になり、血管を縮めて血圧を上げてしまう。こうしてSASがあると4年後の高血圧の発症リスクは、最大約3倍にもなる。
アメリカで行われたウィスコンシン睡眠コホート研究(対象者709例)ではSASによるAHI(無呼吸低呼吸指数)が高い人ほど高血圧の発症リスクが高い。数値は年齢、性別、BMI、腹囲と首囲、飲酒、喫煙で補正済み。
出典/Peppard PE et al. n Engl J Med 2000; 342(19): 1378-1384
SASを治さない限り、いくら生活習慣を正しても、高血圧と心臓病の恐怖から逃れられない。
基準を満たせたら、気道に空気を送り続けて広げ、呼吸が止まらないようにするCPAP療法(持続陽圧呼吸療法)が保険適用される。SASが疑われるなら、できるだけ早く呼吸器内科を受診してみよう。