「これでカラダのリラックスを覚えました」為末大さんが動的ストレッチを推す理由

男子400mハードルの日本記録保持者、為末大さん。まさに、“動けるカラダのプロフェッショナル”為末さんが力説するのが、動的ストレッチのメリット。続けることでカラダは一体、どう変わるのか。Youtubeコンテンツ「為末大学」とのコラボ動画で、為末さんの解説とともに実践してみよう!

取材・文/鈴木一朗 撮影/内田紘倫 編集/堀越和幸

初出『Tarzan』No.882・2024年6月20日発売

跳ぶ為末大さん

為末大さんポートレート

為末大さん

教えてくれた人

ためすえ・だい/1978年、広島県生まれ。Deportare Partners代表。元陸上選手。スプリント種目の世界大会で日本人として初のメダル獲得者。男子400mハードルの日本記録保持者(2024年5月現在)。現在はスポーツ事業を行うほか、アスリートとしての学びをまとめた近著『熟達論:人はいつまでも学び、成長できる』を通じて、人間の熟達について探求する。

動的ストレッチは何のためにするのか?

たとえば垂直跳び。しゃがみ込んだ状態からジャンプするのと、しゃがみ込んだ反動でジャンプするのでは、どちらが高く跳べるか? 答えはしゃがみ込んだ反動でジャンプするほうだ。

垂直跳びをする為末大さん

この運動では、まずしゃがみ込むことが予備動作となる。 この予備動作では尻や大腿の裏側の筋肉が伸張される(ギュッ!とゴムが伸ばされたような状態)。

次に伸ばされた筋肉が主動作、つまりジャンプの瞬間に縮むことで(ポン!とゴムが放たれた状態)、より大きな力を得られるのである。 このような伸張→収縮という一連の流れをストレッチショートニングサイクル(SSC)と呼ぶ。

SSCのギュッ!とポン!

ギュッ!

伸張反射が起き、その力を利用して、自らも放たれたゴムのように筋肉を瞬間的に収縮させてポン!とジャンプ。こうすることで、より高く跳ぶことが可能になるのだ。弛緩→緊張を繰り返して、カラダに覚えさせていきたい。

ポンッ!

予備動作。しゃがみ込むときは筋肉を弛緩し、伸張させることが大事。筋肉はゴムのようにギュッ!と伸ばされると、縮もうとする反応が起きる(伸張反射)。これを利用することで、大きな力を発揮することができる。

SSCのメリット

① カラダの力の抜き方がわかる

一番わかりやすいのは、歩いているときであろう。一歩一歩足を前に出すときに、肩は前後に動いている。それがカラダのバランスを保つために、重要なのである。ところが、改めてまわりを見回してみれば、歩いているときに肩が揺れている人は少ない。つまり、要らぬ力が入ってしまっていて、人間本来の動きが行えなくなってしまっているのだ。

こういう人たちに「力を抜いて」と言ったとしても、その抜き方がそもそもわからない。だからSSCなのだ。弛緩→緊張を繰り返すことで、力を抜くとはどういうことかを体得できる。そうすれば、無駄な力を入れない動作ができるようになる。

② 瞬発力が生まれる

瞬発力は、自分のカラダをゴムのように扱うことで生まれる。ゆっくり筋肉を縮めながら筋肥大を目指すボディビルダーよりも、細くて筋肉があまりないように見える陸上の高跳び選手の方が高く跳べるのはそのためだ。これは伸ばされると縮もうとする、筋肉の伸張反射という特性をうまく利用することで得られる効果である。

瞬発力は筋肉の強さよりもタイミングで決まる。つまり動的ストレッチは、この伸張反射のタイミングを摑むために最適の方法と言える。伸張反射を利用すればエネルギー効率がよく、筋肉も疲れにくい。短距離にも長距離にも向いている。効率よくカラダが使えるのだ。

③ 動けるカラダになる

SSCではまず予備動作から始まる。筋肉を伸張させて、伸張反射という反応を起こしたいからだ。そのため、筋肉は十分にストレッチされ、続けていくうちに関節の可動域は広がっていく。そして、伸張反射と同じタイミングで自らも筋肉を収縮させる。弛緩→緊張だ。すると、より大きな力を発揮できるようになるというワケ。

つまり、柔軟性は高まっていくし、トレーニング効果も期待できるのだ。今以上に動けるカラダになれるというのは当然であろう。ぎこちない動きは改善され、滑らかで自然な動きに変わってくる。そうなれば、日常をより快適に、そして楽に過ごせるようになるのだ。

為末さんの動的ストレッチの哲学

僕はハードラーとしては、背が低かった。それでもハードル間を13歩で走っていました(為末さんの現役時代に13歩で走る人は少なかった。多くは15歩)。170㎝の僕にとって、これはストライドが広すぎたんです。

そのため、全身を使って大きく動かなくてはならなかった。13歩と決めた時点で、ストレッチとは切っても切れない戦術を選んだんです。 歩幅を伸ばすためにはカラダ全体を上手く使わなくてはいけない。

13歩で次のハードルに届かないときは、肩甲骨が硬くなっていることがある。ここが硬くなると腕の振りが後ろに行かず、股関節の動きも出なくて、ストライドが短くなる。だから、カラダを大きく使うことには他の選手よりもセンシティブだったし、そのためのストレッチは重要だった。

それに、ずっと力を入れっぱなしだと400mは持たない。基本的には走って蹴る瞬間、ハードルを跳ぶ瞬間にだけ力を入れる。それ以外は抜きます。これはSSCで弛緩と緊張を会得していきました。ギュッ!ポン!の連続で走っていたんですよ。だから、僕の人生では力を抜く、つまりカラダのリラックスは、動的ストレッチで覚えたと言えます。

実践希望者は「為末大学」へいざ!

為末さんが運営するYoutubeコンテンツ「為末大学」。今回は『Tarzan』とのコラボ講義として、為末さんが特別監修&実演した動的ストレッチ動画を配信中。 

早速受講に進むもよし、各種目をしっかり解説した記事に目を通して、実践のポイントをおさえたうえで受講に進むもよし。為末流動的ストレッチで楽なのに動けるカラダへ!