食べた直後に寝ると老ける!? 老化スピードを変えるオートファジー活性化術

老化を引き起こす酸化や糖化の一因になったり改善策となるのは食事が占めるウェイトがとても大きい。つまり、食べ方を変えることで、老化のスピードは変えられるということだ。今回はカラダに備わった、ミクロの世界の壮大なリサイクル機構、オートファジーを深掘り。加齢によって衰えるこの仕組みを活性化させ、健康寿命を延ばす食べ方を、ある先輩後輩の会話から学ぼう。

取材・文/石飛カノ イラストレーション/yamasaki nao、林田秀一 取材協力/根来秀行(ハーバード大学医学部客員教授)、吉森保(大阪大学医学系研究科保健学特任教授)

初出『Tarzan』No.880・2024年5月23日発売

オートファジー
教えてくれた人:吉森 保

よしもり・たもつ/生命科学者。大阪大学医学系研究科保健学特任教授。一般社団法人日本オートファジーコンソーシアム代表理事。オートファジーのパイオニア、大隅良典氏のラボに参加し、以降オートファジー研究に従事。

オートファジーとは?

2016年、東京工業大学の大隅良典博士がノーベル賞を受賞し、注目を浴びた「オートファジー」。それって一体どんな仕組み?という人のための基礎知識。

オートファジーは細胞の中にあるさまざまな物質を回収してリサイクルする仕組み。車の部品を定期的にメンテナンスすると新品同様の状態を長く保てるように、オートファジーで細胞をリフレッシュすることで、その機能を長く保つことができるのだ。

具体的な仕組みは下のイラストの通り。「隔離膜」と呼ばれる膜が袋状に変形して細胞内の物質を包み込み「オートファゴソーム」となり、「リソソーム」という小器官とくっついて「オートリソソーム」となる。この内部ですべての物質が分解され100%再利用される。なんとも無駄のない細胞のメンテナンス機構。

オートファジーの役割にはこの他にも空腹のときにみずからを分解して栄養分を作る、病原体や壊れた細胞など有害物を除去するというものがある。

この仕組みが近年の研究で老化に関わっていることが判明した(詳しくはこちらの記事:40歳が別れ道!? 10分でキャッチアップするアンチエイジングの最新事情)。ここからは、加齢によって衰えるオートファジーを活性化させ、健康寿命を延ばす食べ方を、ある先輩後輩の会話から学ぼう。

細胞内の物質をリサイクルする仕組み

リソソームの内部にはタンパク質や脂質、糖質などを分解する酵素が入っていて、すべてのものが分解され、100%リサイクルされる。

細胞内の物質をリサイクルする仕組み

細胞の中に隔離膜という膜がどこからともなく現れる。最初はフラットな形。

細胞内の物質をリサイクルする仕組み

隔離膜が伸びながら片側方向に凹んでいき、丼のような空間を作る。

細胞内の物質をリサイクルする仕組み

丼からさらに空間が大きくなり、ツボ状になった隔離膜が周囲の物質を覆う。

細胞内の物質をリサイクルする仕組み

隔離膜のフタが閉じてオートファゴソームと呼ばれる状態になる。

細胞内の物質をリサイクルする仕組み

オートファゴソームと栄養素の分解酵素を持つリソソームが合体、オートリソソームになる。

細胞内の物質をリサイクルする仕組み

オートファゴソーム内部の分子や小器官が分解されて新たにリサイクルされる。

① 危険な断食より安全なカロリー制限

オートファジー

「カロリー制限には16時間断食が効果的」は間違ってます

空腹になると細胞内でオートファジーが機能してエネルギーを作り出す。ついでに細胞の代謝回転も促され、細胞が若さを取り戻す。そんなオートファジーのアンチエイジング効果を期待するなら、半日断食や16時間ものを食べない、といった覚悟が必要、と思われがち。

「確かにカロリー制限は食べ方のポイントになりますが、断食をする必要はないと思います」と、吉森保先生は言う。

「そもそもカロリー制限をすると動物の寿命が延びることが知られていて、そのやり方は毎食のカロリーを減らしてもいいし食事を抜いてもいい、どちらも効果があるんです。だったら危険を伴う激しい断食をしなくてもいいだろうと」

絶食ではなく食事は三食規則正しく、なおかつ若干のカロリー制限を心がける。サーチュイン同様(詳しくはこちらの記事:老化スピードが変わる!長寿遺伝子を活性化する食事術)、オートファジーのスイッチオンもまた、「腹八分」で箸を置くことがポイントとなる。

② 毎日の揚げ物をやめ、老化と脂肪肝を防ぐ

オートファジー

脂質の多い食事はオートファジーを低下させます

残念なことに、というかほとんどの生体機能と同じく、オートファジーは加齢とともにその機能が低下していく。アルツハイマー病など加齢性疾患の増加には、オートファジー機能の低下が関わっているのではないかとも考えられている。

「その機能低下の原因は我々が見つけた“ルビコン”というタンパク質が増えることにあります。ルビコンを取り除いた動物ではパーキンソン病などの多くの加齢性疾患が抑制されることが分かっています」

黙っていても歳を経るごとにルビコンは細胞内で増え、オートファジーの働きにブレーキをかける。それに加えて高脂肪食が肝臓でルビコンの増加を促し、脂肪肝を悪化させるという。

「若いネズミを使った実験では3か月間高脂肪食を食べさせたところ、ルビコンが増えて脂肪肝になることが分かりました」

オートファジー機能は落ちるわ脂肪肝にはなるわで、踏んだり蹴ったり。揚げ物の連続摂取はくれぐれも厳禁だ。

③ 主食は茶碗に軽く1杯を目安とする

オートファジー

大事なのはバランス。カラダ全体のことを考えよう

1日三食きちんと食べて、でもカロリーは控えめにする。となるとやはり、人は手っ取り早く主食を抜いてしまいがち。でもいくらオートファジーを高めても、そもそもの健康のバランスを崩してしまっては、一体何のためのアンチエイジング?

主食は最も効率的なエネルギー源になるばかりではなく、食物繊維の補給源でもあるので、オールカットは腸内環境を乱すことにも繫がる。よっておすすめできない。主食の量は1食当たり茶碗に軽く1杯、120〜150gが目安。未精製の穀物ならなおよし。そのうえで高脂肪食を避ければおのずと腹八分になるはず。

④ 間食はできるだけ我慢、空腹の時間を作る

オートファジー

食べるたびにオートファジーは下がる

実はオートファジーの機能は食事を摂るごとに一時的に低下するという。緊急時にエネルギーを作り出すことがオートファジーの役割のひとつだとすれば、それも納得できる話。

「つまり、起きている間しょっちゅうものを食べているとオートファジーの機能がずっと抑えられたままになると考えられます。そういう意味では間食はあまりおすすめできません」

すぐに回復するとはいえ、機能低下の機会はやはり少ない方がアンチエイジング的には有利。間食が単なる癖なら一度断ってみよう。むやみな間食を防ぐために食事の間を空けすぎず、規則正しく食べることもまた大事。

⑤ 1日3回は飲み過ぎ!若返りの邪魔をするアミノ酸はほどほどに

オートファジー

アミノ酸の摂り過ぎはオートファジーを下げる可能性が

カラダ作りに必須のアミノ酸やプロテイン。でも、多量のアミノ酸摂取はオートファジーの機能低下を招く。これも食事の刺激と同様、一過性の反応だが、

「ヒトではまだ調べられていませんが、細胞にアミノ酸をかけると急激にオートファジー機能が下がります。あまり頻繁にアミノ酸やプロテインを摂取すると、ヒトでも同じことが起こる可能性はあると思います」

と吉森先生は言う。さらに、筋肉はオートファジーによって分解方向に進むことが分かっている。プロテインで合成ばかり進めるより、分解されて再びリサイクルされて、といった代謝循環を促す方が健全かも。

⑥ 食べてすぐ寝ると、エイジング怪獣に襲われる

オートファジー

睡眠がオートファジー機能を上げる

16時間断食をする場合、夜の7時に夕食を済ませたら翌日の午前11時まで何も口にできないことになる。とてもひもじい…。そこまでやらずともオートファジー機能を維持できるとしたら、せめて夕食から朝食の間をできるだけ長く引き延ばすことがベターかもしれない。

「夕食から翌日の朝食の時間を延ばすというより、夕食を摂った後にいつ寝るかという方が重要だと思います。なぜかというと、睡眠がオートファジー機能を上げることが分かっているからです。

つまり、夕食を摂ってからすぐに寝るのはあまりおすすめできないということ。食事は一時的にオートファジーを低下させますから、そのタイミングで寝てしまうとせっかく機能が上がろうとしているのが抑制されると考えられます」

食べてすぐ寝ても牛にはならないが、エイジングは進む。では食後何時間後に寝るべきか。エビデンスはないが、よくいわれる食後3時間後の就寝を適用するのが、ひとまず妥当。

オートファジーを活性化する食材を覚えておこう!

オートファジー

食べ方の他にオートファジーを活性化させる食品成分がいくつか分かっている。最も有名なのは納豆や味噌、熟成チーズなどの発酵食品に含まれる「スペルミジン」。

高齢者の免疫細胞を取り出してスペルミジンを振りかけた実験では、オートファジーによって抗体を作る能力が再生したとの報告もある。

その他、ザクロやベリー類に豊富な「ウロリチン」は細胞内の代謝を促す働きをサポートし、赤ワインに含まれるレスベラトロール、鮭やエビのアスタキサンチン、緑茶のカテキンなどもオートファジーの活性化を促すという。

むろん、これらは動物実験のレベルの話で、これさえ摂ればOKというわけではない。選択肢があるなら摂った方がおトクという話。