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“スリップインするだけ™”じゃない!《スケッチャーズ スリップ・インズ》快適学。
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誰もが知っているスポーツブランド〈アディダス〉が、アウトドアのウェアやシューズも手掛けているとは。知られざるその歴史を探るため、創業の地ドイツ・ヘルツォーゲンアウラハへ!
「始まりは2008年南極大陸遠征の時だった」と語るのは、ドイツ出身の登山家アレクサンダー・フーバー氏。まさか〈アディダス〉が南極という過酷な環境下に耐え得るものを作っていたなんて。
時を戻すこと約40年。現在のアウトドアライン〈テレックス〉の前身となる〈アディダス アウトドア〉が70年代にシューズからスタートした。
60年代後半からのカウンターカルチャー全盛期、欧米ではトレイルを歩いたり、クライミングをしたり、アウトドアスポーツが身近になっていた。そこで、山道を歩くのに適した靴として〈アディダス〉はハイキングブーツやトレイルランニングシューズなどを作り始めたのだ。
1976年にはハイキングブーツ《アイガー》が登場。アウトドアブームの波に乗り、続いてブーツながら軽量化で人気を博した《スーパートレッキング》が発売。
トレランシューズはといえば60年のローマ・オリンピックのために販売された《ローマ》のトレランモデルがデビュー作。70年代には特徴的な突起状のソールの《TRX》が登場するなど、〈アディダス〉とアウトドアの関わりはシューズを中心に長らく続いていた。
その長い歴史の中で転機が訪れる。2008年、当時の〈アディダス〉CEOハーバート・ハイナーが登山家のアレクサンダー・フーバー、トーマス・フーバー兄弟とタッグを組んだのだ。そして、彼らの南極遠征を〈アディダス〉がサポートすることに。そう、これが〈テレックス〉の始まりとなる。これまでのアウトドアシューズではなく、より極限に耐え得るウェアやギアの共同開発がブランドスタートの発端となったのだ。
しかし、もちろん南極ほど過酷な環境に適した装備を〈アディダス〉は作っていなかったため、遠征出発までのわずか8か月間で製作が行われた。誕生した初期試作品が下のオレンジ色のウェアだった。「一面真っ白な南極で目立つ強い色が欲しい」というフーバー兄弟のリクエストからこの色が採用されたのだ。
フーバー兄弟が着用した〈テレックス〉のプロトタイプミッドレイヤー。胸元には〈アディダス〉ロゴと〈テレックス〉ロゴが2つ並ぶ。
「商品の品質基準のタグがあるだろう。暴風雨にも耐えられると書いてあるような。それらは僕らが実際に試して使った結果の印なんだ。それも南極でね」
そんなフィードバックを元に遠征の翌年から〈テレックス〉が正式に商品化へ。現在はハイキング、トレランシューズを主軸にアスリートとともに共創を続け、今もその技術は裾野を広げている。
〈テレックス〉がアスリートとともに商品開発をするのには訳がある。「ONLY THE BEST FOR THE ATHELTE(全てはアスリートのために)」とは〈アディダス〉創業者アドルフ・ダスラーの言葉でありブランドを象徴する言葉だ。サッカーやランニングだけでなく、アウトドアにおいてもこの精神が生きている。
イノベーション、テクノロジーを通じてアスリートの可能性を最大限に引き出すことを大切にしながら開発された製品は、より多くの人がアウトドアの扉を開ける手助けをしてくれることだろう。
このアスリートをブランドの中心に置く考え方、それこそが〈アディダス〉がイノベーションを起こす源であり、〈テレックス〉の原点なのだ。
ここ数年の〈テレックス〉の躍進についても紹介しておこう。2023年以降、オレンジ色のこの靴がいくつものトレランレースで優勝を飾っている。重力に反するアンチグラビティを冠するその名は《アグラヴィック スピード ウルトラ》。
その秘密を探るべく、通常非公開の〈アディダス〉ドイツ本社地下に存在するアスリートラボへ潜入した。
開発の始まりは2021年。膨大なトレランレースのデータを分析したところ、優勝できるかどうかを決めるのは、膝に大きな負担のかかる“下り坂”だということがわかった。つまり、ダウンヒルでランナーが受ける衝撃を緩和することこそが優勝への鍵だった。
この「優勝できる靴を作る」というミッションはアスリートとともに進んだ。それは「ONLY THE BEST FOR THE ATHELTE(全てはアスリートのために)」という〈アディダス〉創業者アドルフ・ダスラーの言葉を現在も〈テレックス〉が開発の中心に据えているためだ。
開発手順は至ってシンプル。試作品を作りアスリートに試してもらう。フィードバックを元に改良し、また試走。改良し、また試走。
時には本社ラボで、時にはテストシューズを郵送してオンラインで、アスリートたちとともにこうした試行錯誤と継続的なテストを行い、辿り着いた答えがこの靴だ。
今や各国のレースで着用選手が入賞する革新的な一足となった。
2017年の『サハラマラソン』3位入賞を機に注目を集めることになったトム・エバンスは《アグラヴィック スピード ウルトラ》の開発に欠かせない存在だった。
何より開発のきっかけとなったのは、「『ウェスタンステイツ100マイル』で優勝したい」という彼の目標だったのだ。160㎞を超える長距離レースには、“下り坂”との戦いが必須。開発当初のプロトタイプから試走し、完成形を手にいざ2023年ウェスタンステイツ100マイルに挑戦。2021年3位入賞の記録を大幅に更新し、彼は見事優勝を飾った。
2023年トレランの世界的レース『UTMB』で優勝したトニ・マッキャン。もともとフィールドホッケー選手だった。代表選手を目指していたが道なかばで断念。南アフリカ・ケープタウンでトレランに出合う。
長らくチームスポーツに挑んでいた彼女にとって、孤独な冒険とされるトレランにおけるチームメイトは〈アディダス〉で働く人たちだった。同じ志を持って、情熱と献身に溢れた人たちと過ごせることは本当に幸せだと語る。
第10回 FunTrails Round 秩父&奥武蔵100MILE/100K/50K
取材・文/編集部 撮影/原田教正
初出『Tarzan』No.879・2024年5月9日発売