TOKYO2020(2021)の記憶
長年、さまざまな競技で取材を続けるスポーツフォトグラファー、岸本勉さん、中村博之さんが写真を通じて、“アスリートの素顔”に迫る。第十三回は岸本勉さんが捉えた「TOKYO2020(2021)」。
撮影・文/岸本勉
2020年3月24日、新型コロナウィルスのパンデミックにより東京オリンピックの延期が発表された。おそらくほぼ全員の選手や関係者、そして観客が想像もよ
らない出来事に戸惑いを隠せなかったはずだ。かくいう筆者も、先の見えない状況に落胆した。
そのおよそ1年後、本当にやるのか! という思いで迎えた東京オリンピック、無観客という決定は避けられなかったのか、今でも時々考える。コロナウィルス感染を減らすということにおいて、果たして本当に無観客が有効だったのか、筆者は専門家ではないので何とも言えないが、開会式に始まり、会場のがらんとした客席と選手のパフォーマンスとのコントラストは寂しいく切ないオリンピックだった。
3年前の東京オリンピックの写真を見返していて、喜びを爆発させる選手には、それを讃える観客が絶対に必要だと強く感じた。ただ、その観客を入れるとなると、おそらくPCR検査に追跡アプリなど更に厄介なことをしないとスタジアムに来ることができなかったのかもしれない。
涼しいからという理由でマラソンと競歩は札幌で開催されることになったのだが、蒸し暑さは東京と変わらないのでは!? と思うほど暑かった。ただ、この大会を通して一番観客が多いイベントだった。これは嬉しかった。無論、コース脇には観戦自粛を訴える看板やテープが目立ち、ボランティアなども拡声器等で自粛を呼びかけていた。
この東京オリンピックではどの大会よりもいわゆる名場面的シーンの記憶が薄い。おそらくそれは大会期間中も行われたPCR検査や、会場へアクセスするための申請作業、マスクや消毒、そしてあの炎天下…… 。いま思い出しても他のオリンピックとは違い、色々と気をつかう事が多かったからかもしれない。
今夏、パリでコロナが終わってから初めての「普通」のオリンピックが開催される。テロなど、セキュリティの部分では不安もあるが、何よりも有観客での開催は本当に喜ばしいことだ。当たり前のことが当たり前でなかった東京オリンピックだったが、パリでは選手も観客も一体になって盛り上がる会場で撮影できることが楽しみでたまらない。
フォトグラファー・岸本勉
岸本勉(きしもと・つとむ)/1969年生まれ、東京都出身。10年余りスタッフフォトグラファーとして国内外の様々なスポーツイベントを撮影。2003年に独立、「PICSPORT(ピクスポルト)」を設立。オリンピックは夏季冬季合わせて14大会、FIFAワールドカップは8大会、ほか国内外問わず様々なスポーツイベントを取材。2015年FINA世界水泳選手権カザン大会より、オフィシャルFINAフォトグラファーを担当。国際スポーツプレス協会会員(A.I.P.S.)/日本スポーツプレス協会会員(A.J.P.S.)
Instagram:@picsport_japan