コンディショニングのひみつ:16時間断食
連載「コンディショニングのひみつ」。長期的なコンディショニング戦略に不可欠な「食と栄養」を、その基礎知識とともに複数回にわたって解説していく。今回は「16時間断食」について。
取材・文/オカモトノブコ 漫画/コルシカ 監修/齊藤邦秀(ウェルネススポーツ代表)
初出『Tarzan』No.873・2024年2月8日発売
16時間の「食べない時間」が細胞を生まれ変わらせる
日々の食生活は、ベストなコンディションの維持に不可欠なもの。その短期的な戦略のひとつに「食べない」という選択肢がある。今回は「16時間断食」に着目し、その驚くべき効果とメカニズムを解説しよう。
オートファジーの仕組み
細胞内に現れた膜がタンパク質などを包み込んだオートファゴソームに、分解酵素を持つリソソームが接触・融合。タンパク質がアミノ酸へと分解されてオートリソソームとなり、有害物質の除去とともに新しいタンパク質へと再合成される。
ここで重要なキーワードとなるのが、人間のカラダに備わる「オートファジー」という働き。ギリシャ語の「オート(自己)」と「ファジー(食べる)」を組み合わせた造語で、この研究によって東京工業大学の大隅良典栄誉教授が2016年のノーベル生理学・医学賞を受賞している。
オートファジーは簡単にいえば、細胞内のタンパク質などから不要な物質を取り除き、生まれ変わらせるという生物学的な仕組み。そしてオートファジーは細胞内の栄養が枯渇し、一時的な飢餓状態をしのぐときに最も強く働くとされているのだ。
実際のところ、ヒトのカラダは1日当たり約200~300gのタンパク質を必要とするが、食事から摂取できるタンパク質はその4分の1程度。そこで細胞自身が不要なタンパク質を分解・再利用し、この不足分を補っていると考えられている。
さらにオートファジーで重要なのが、細胞内に侵入する細菌の除去や、細胞内を浄化したりする役割を担うこと。体内の炎症を抑えるほか、ウイルスの抗体を作る際に関与したり、初期のがん細胞を排除したり、認知症の原因となるアミロイドβというタンパク質を除去するなど、その多種多様な働きが、新たな免疫システムとしても注目を集めている。
このように、古い細胞を自食作用で新しく生まれ変わらせるオートファジー。この働きを引き出す「16時間断食」は、カラダを細胞レベルで若返らせるアンチエイジング作用のみならず、その高いダイエット効果も話題に。1日のうち8時間、2食は好きなものをガマンせずに食べられるのも嬉しいところだ。
8時間睡眠の場合、前後の4時間ずつを断食に充てるとスムーズ。朝食抜きがツラい場合は、例えば8時~16時を「食べる時間」にしてもいい。自分の生活リズムに合わせてアレンジが可能だ。
実はそもそも1日3食がベストという医学的な根拠はなく、消化し切れない食べ物が胃や腸に残った状態で食事を摂り続けると、内臓が疲れて腸内環境が悪化する要因にもなるという。そして全身の細胞は食後すぐは糖質を代謝するが、これを使い果たすと糖質から変換されて筋肉や肝臓が蓄えたグリコーゲンを、続いて中性脂肪やタンパク質をケトン体に変換してエネルギー源に用いる。
さて、いよいよオートファジーが活発に働き始めるのが、空腹の状態が16時間を過ぎた頃。こう聞くと大変に感じるかもしれないが、「食べない時間」に睡眠時間を充てれば無理がなく、意外なほど簡単にできたという声も多い。自分の生活リズムに合わせてトライするといいだろう。
また、細胞の不要物を排出するためにも水分補給はマスト。1日に2Lを目安に、なるべく常温の飲み物をこまめに飲むようにしたい。
ダイエット効果を狙うなら習慣化するのがベストだが、食生活の乱れやアルコール・添加物の摂りすぎなどを手っ取り早くリセットしたい場合は週1だけでも十分。カラダがスッキリ軽くなるその爽快感を、ぜひ味わってみてほしい。
復習クイズ
答え:脂肪の燃焼