【杭州2022アジアパラ競技大会】人間が秘める身体的な能力と研ぎ澄まされた五感
長年、さまざまな競技で取材を続けるスポーツフォトグラファー、岸本勉さん、中村博之さんが写真を通じて、“アスリートの素顔”に迫る。第九回は中村博之さんが捉えた【杭州2022アジアパラ競技大会】。
撮影・文/中村博之
終わってみれば、何も難しくなかった。アスリートとして勝負にこだわり、喜怒哀楽する姿を純粋にスポーツ写真として撮影できた
2021年9月5日に国立競技場で東京パラリンピックの閉会式が行われた。
コロナ禍で開催された東京オリンピック・パラリンピック終焉の日。次回開催されるパリ大会の映像が流れ、フランス国歌が無観客のスタジアムに鳴り響き、モノクロ映像には何百人もの人々が手話でフランス国歌を歌っていた。
さすが芸術の都フランスだ。その映像に魅了され、2024年のパラリンピックも会場にいたいと思った。
この仕事を始めてから約20年だが、パラスポーツとは縁がなかった。
正直、選手との距離感と、どのような思いでシャッターを押すことが正解なのか、自分の中で答えが分からないまま足が遠のいていたが、長年パラスポーツの取材を続けている会社の知人から、東京パラリンピックを撮影する機会を頂いた。
終わってみれば、何も難しくなかった。アスリートとして勝負にこだわり、喜怒哀楽する姿を純粋にスポーツ写真として撮影することができた。それはいつもの僕の撮影の姿勢と変わらなかった。ただ、オリンピックよりパラリンピックの方が競技終了後にアスリートがお互いを称え合う姿が多く見られたような気がした。
東京パラリンピックの2年後、2023年10月22日から28日まで中国の杭州で開催されたアジアパラ競技大会の撮影をするチャンスがあった。
アジアパラ競技大会では、競技の魅力や選手の身体能力にさらに焦点を当て、それを撮影することができた。今回は特に印象に残った3種目についてコメントしたい。
初めて撮影をする競技がいくつかあったが、ブラインドサッカーには驚いた。アイマスクを着用して全くボールが見えない暗闇の状況で、仲間の声と音がするボールを頼りに視覚以外の感覚でプレーするのだが、サッカー競技として成り立っているし、純粋に面白い。
パワーリフティングは、下肢障害ある選手が上肢だけの力でペンチプレスを持ち上げる競技。健常者の競技でいえばウエイトリフティングになる。素人の僕でも上肢だけの筋力で重い物を持ち上げる事がどれだけ大変か理解できる。
最後に、競泳について。視力に障害のあるクラスの泳ぎが毎回自分のイメージ通りに撮影ができないと思っていたのだが、選手たちはコースロープに触りながら泳ぐ事で真っ直ぐ泳いでいると知人のフォトグラファーから聞いて目から鱗。だから息継ぎ後の腕の位置が毎回違のうか!と納得。
他の競技も含め、今回の撮影は感動ではなく人間が秘めている身体的な能力と研ぎ澄まされ五感に感心する事が多く、パラアスリートの魅力を深く知る事ができた。
パリパラリンピックは2024年8月28日から9月8日の期間に開催される。
フォトグラファー・中村博之
中村博之(なかむら・ひろゆき)/1977年生まれ、福岡県出身。1999年スポーツフォトエージェンシー『フォート・キシモト』に入社。2011年フリーランスとして活動を始める。オリンピックは夏季冬季合わせて10大会を取材。世界水泳選手権は2005年モントリオール大会から取材中。2015年FINA世界水泳選手権カザン大会より、世界水泳連盟のオフィシャルフォトグラファーを担当。国際スポーツプレス協会会員(A.I.P.S.)/日本スポーツプレス協会会員(A.J.P.S.)。
Instagram:@picsport_japan