【MGC】極限の一発勝負で垣間見た、選手たちの喜怒哀楽
長年、さまざまな競技で取材を続けるスポーツフォトグラファー、岸本勉さん、中村博之さんが写真を通じて、“アスリートの素顔”に迫る。第七回は中村博之さんが捉えた【MGC】。
撮影・文/中村博之
ガチンコ勝負の熱量を現場でリアルに感じながら、選手たちの喜怒哀楽を写真に収めるのがMGCの醍醐味
一発勝負のMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)が2023年10月15日(日)に号砲。
降りしきる雨の中、東京の街をランナー達はパリオリンピックの出場権を懸けて駆け抜けた。レース前の緊張感や不安、レース後の勝者の歓喜、敗者の悔しさなど、選手たちのリアルな感情を現場でひしひしと感じた。
言い訳は一切なし、条件は同じで説明はいらない。1番速いランナーが日本一となり、上位2名が日本代表に内定するというとてもシンプルな大会だ。
マラソン大会の1番古い記憶は、僕が11歳の時に故郷で開催され、通学路がコースになった1987年福岡国際マラソン(1988年ソウルオリンピック代表選考会)。
父が今で言う市民ランナーで一般参加として福岡国際マラソンを目指していた。実家には『月刊陸上』や『ランナーズ』といった専門誌が転がっている環境で、当時は瀬古利彦選手と中山竹通選手のライバル関係が話題になっていた。
瀬古選手の怪我で直接対決は実現しなかったが、中山選手の鬼気迫る走りをテレビで観ていた。父が説明してくれたのは、ライバルの瀬古利彦選手が怪我で欠場をして直接対決ができず、怒りの力走だと。マラソン大会はガチンコの直接対決なんだと子供ながら思ったのを覚えている。
男子はマラソン130回目となった川内優輝選手がスタート直後からから独走状態で35km過ぎにようやく第2グループに吸収され勝負が始まった。
会場でゴールを待つ僕も慌ただしく撮影位置を決める。優勝した小山直選手は39km付近でスピードを上げて後続との差を広げそのまま会心のガッツポーでゴール。トラック勝負になった2位争いは赤崎暁選手が大迫傑選手を突き放しオリンピック内定を勝ちとった。
そして、序盤からレースを引っ張った川内選手は4位でフィニッシュ、表彰台に1歩届かなかった。
女子は20km過ぎまで有力選手による集団が続いていたが、一山麻緒選手と細田あい選手が飛び出した。
33km付近で一山選手が先頭に立ち後続との差を広げていくが、38km過ぎに初マラソンの鈴木優花選手が一山選手に追いつきそのままトップでスタジムに戻り、最高のスマイルでゴール。2位には東京オリンピックに続き2大会連続出場を決めた一山選手。レース後にチームスタッフと喜び合う姿が印象的だった。
一発勝負、そして直接対決はランナー達にとって相当なプレッシャーだろう。レース後に選手同士が讃え合う姿や勝者の喜び、内定を逃したランナー達の悔しさを感じつつも、戦い抜いてホッとしている表情がそれを物語っている。
子供の頃に感じたガチンコ勝負の熱量を今は現場でリアルに感じながら、選手たちの喜怒哀楽を写真に収めるのがMGCの醍醐味だ。パリオリンピックの出場枠は男女共に1つ残っている。まだ、勝負は続いていく。
フォトグラファー・中村博之
中村博之(なかむら・ひろゆき)/1977年生まれ、福岡県出身。1999年スポーツフォトエージェンシー『フォート・キシモト』に入社。2011年フリーランスとして活動を始める。オリンピックは夏季冬季合わせて10大会を取材。世界水泳選手権は2005年モントリオール大会から取材中。2015年FINA世界水泳選手権カザン大会より、世界水泳連盟のオフィシャルフォトグラファーを担当。国際スポーツプレス協会会員(A.I.P.S.)/日本スポーツプレス協会会員(A.J.P.S.)。
Instagram:@picsport_japan