年間1600km移動する遊牧民、ネネツ族が歩き続ける理由
ウォーキングをする理由は十人十色。ダイエットや運動不足だけが目的じゃない。なぜ歩くのか? 歩くことに何かを見出しているという人たちにその理由や歩き方を聞いてみた。奥深さや楽しみを知れば、もっと長く、もっと頻繁にウォーキングに出かけたくなるはず。今回は写真家・遠藤励さんが追いかけたシベリアの遊牧民族「ネネツ族」にについて。
取材・文/石飛カノ 撮影/遠藤励
初出『Tarzan』No.866・2023年10月5日発売
写真家・遠藤励
えんどう・つとむ/スノーボードカルチャーと雪山を追う写真家。AL Tokyoにて10月27日から11月5日まで作品展『MIAGGOORTOQ』(ミアゴート)を開催。
もうじき消えてしまうかもしれない「雪の民」を追って
シベリアの雪原を年間1600km移動する遊牧民、ネネツ族。その生き方に興味を覚えた写真家は2021年、2週間の間、彼らの旅に同行した。
「僕の滞在した時期は3〜4日に一度、40kmくらい移動していました。チュムと呼ばれるトナカイの毛皮でできたテントと家財道具を一切合切ソリに積んで移動するんです。起伏があったりトナカイを誘導する場合は歩きます。全体の3分の1くらいの行程は歩いていたと思います」
彼らがソリや徒歩で歩く理由は、食糧であるトナカイのため。トナカイは雪原の下に生えている苔を常食とするが、食べ尽くす前に次のエリアへ移動する。それを繰り返すのだ。
「歩いている時に見た雪の淡い色合いや透き通った空気は感動的でした。でもチュムの移動や設営はかなりの重労働。子どもから大人まで全員が一丸となって働きます。よく食べてよく歩いてよく寝る、地球や宇宙のサイクルと直結した、無駄がなくて健康的な民族だなと思いました」
ネネツ族の雪靴はトナカイの毛皮でできた太腿の付け根くらいまであるブーツで、とても重い。
「僕はグリーンランドのイヌイットも追いかけているんですが、彼らの靴はアザラシの皮で作った短くて軽量なブーツ。というのもネネツ族は遊牧民、イヌイットは狩猟民だから。生きる手段で靴が違うんです」
春になるとソリでの移動距離が稼げる雪を求めて北上し、最北端で夏を過ごして再び南下。そんなネネツ族の生活も世界的な気候変動が問題になっている今、脅かされている。
「温暖化で冬場に雪ではなく雨が降ると、雪原に氷の膜が張ってトナカイたちが苔を食べられなくなります。
数年前は一度に5万頭のトナカイが餓死したことも。そうなってほしくないんですがネネツ族が近い将来消えていく可能性は高い。僕はそんな雪の民族を撮り続けたいから、来年またシベリアを訪れるつもりです」
そして雪の民との冒険は続く。
遠藤励さんの「北極圏遠征プロジェクト」。クラウドファウンディングを実施中です
2017年よりグリーンランド、シベリアで遠藤励さんが取り組み続ける、極北の先住民文化の記録。北極圏の希少な写真群でのアートブック制作と作品展開催、そしてシベリアに伝承が残る「祭壇」を目指す新たな遠征を含む複合プロジェクト。
5,000円からプロジェクトの応援ができ、金額に応じて、アートフォト印刷ポスターやステッカー、プリントなどのリターンがある。締め切りは2023年12月13日まで。