人工股関節でも競技を続けられる? 我那覇昭子さんに聞いたカラダの連動の大切さ

股関節は日常生活を送るうえでも、スポーツにおいても動きの土台。では、何らかの理由で股関節が機能しなくなってしまったら? 20年にわたってマラソン、トライアスロンに取り組みながら「人工股関節置換手術」を経験した我那覇昭子さんに話を伺った。

取材・文/中野慧

初出『Tarzan』No.862・2023年8月3日発売

我那覇昭子さん(がなは・しょうこ)

もし股関節が機能を失ったら。5分と同じ姿勢が取れない

あらゆる動作の土台となる股関節だが、何らかの理由で股関節が機能しなくなってしまう人もいる。20年にわたってマラソン、トライアスロンに取り組み、数々のレースで優勝してきた我那覇昭子さんもその一人だ。

10年前からカラダのさまざまな場所が痛みだし、2021年頃から完全に歩けなくなった。病院を訪れると、すぐに変形性股関節症(生まれつき股関節が変形している症状)と診断。

骨盤側の形状が不完全で、動くことで軟骨がすり減り、骨にトゲや空洞ができていたのだ。

変形性股関節症の治療方法として、大腿骨上部を人工器具に取り替える「人工股関節置換手術」という手法が確立されている。

人工股関節とは?

人工股関節

主に金属製で、大腿骨の代わりに埋め込まれる。大腿骨が骨盤に接する「骨頭(こっとう)」は、マイクの集音部のような形状になっている。レントゲン写真を見ると、器具が元の骨の代わりに左大腿骨上部に埋め込まれていることが見てとれる。

国内外問わずこの手術を受けた人は数多くいるが、アスリートで競技復帰を果たした人は非常に少ない。我那覇さんは大好きな競技を続けたい一心で、手術せずに済む方法を1年間探った。しかし、その1年も耐え難い辛さだった。

「股関節が機能していない状態だと、痛みで5分と同じ姿勢をキープすることができないんです。寝られなかったのが一番辛かった…」

人工股関節になって気づいたカラダの連動の大切さ

1年間悩んだ結果、競技復帰を心に誓い手術を決断した。

「手術後、股関節の痛みは劇的になくなりました。だけど1年間ほぼ歩いておらず、痛めていない右脚ばかり使っていたせいでカラダの左右バランスが崩れていたんです」

手術後、半年後のレースに向けてリハビリを開始した我那覇さん。歩行訓練や痛めていた股関節の筋力を回復させるトレーニングを続け、復帰後初のレースで完走を果たした。

現在は筋力とフォーム両面から左右のバランスを調整中だという。我那覇さんは、連動の重要性を強調する。

「再び股関節に負担をかけないために、肩甲骨や腰椎周辺などの部位を単体で動かせるようにほぐして、その動きをつなげていくトレーニングを行いました。全身を連動させられるようになると、股関節への負担が軽減できるだけでなく、パワーも出しやすくなります」

連動を高めるトレーニング

我那覇昭子さん(がなは・しょうこ) トレーニング

下半身と上半身を連動させて動かすために、さまざまなトレーニングを行っている我那覇さん。肩甲骨への意識を感じさせるトレーニング(左)、ダンベルを上に挙げたままのランジ(右)は股関節を使いながら体幹を活かすトレーニングを想起させる。

我那覇さんが競技復帰まで至ったノウハウは、同じ手術を受ける人たちにも活かされていくはずだ。