教えてくれた人
山田耕史さん(やまだ・こうじ)/1980年生まれ。フリーランスで活躍するファッションアナリスト。主著に『結局、男の服は普通がいい』(KADOKAWA)。Twitter @yamada0221
前野さちこさん(まえの・さちこ)/エディター、ライター。美容雑誌で経験を積み、フリーランスに。「脚の乾燥対策に〈オサジ〉の《コンフォート マルチクリーム》を。おすすめです」。
白戸拓也さん(しらと・たくや)/ 1963年生まれ。〈フージャース ウェルネス&スポーツ〉所属のトレーナー。大手フィットネスクラブに約30年在籍し、各種プログラムを開発。
目次
短パン=おじさんのものという衝撃
「短パンはオシャレ好きなオジサンが着るダサい服」。2023年2月某日、そんな内容の投稿がSNSを賑わした。
例に漏れず衝撃を受けた一人が、アラサーライター・ヤマナシだ。短パンって暑くなったら自動的に穿くものじゃないの? でも言われてみれば街ゆく若者は脚を出していない気がする…。というか、まだ“若者側”だと思っていたけど、もうおじさんなのか。
意識し始めると脚を出すのが急に気恥ずかしくなり、クローゼットの短パンもくすんで見えてきた。夏、何を穿けばいいの!? そんな喫緊の課題に向き合うべく、あらゆる分野の有識者に聞き込み調査を開始。これはその記録である。
あれって陽キャのアイテムでしょ
まず話を伺ったのはファッションアナリストの山田耕史さん。話題となったSNSの投稿主だ。
「とある方がブログで『会社の部下が“短パンはおじさんのもの”と言っていた』という内容の投稿をしまして。その話を裏付けるようにファッション業界誌で、某ブランドの短パンを買うのはほぼ30代以降というデータも発見。それに対する僕の考えをSNSとブログで書いたら大きな反響があったという流れです」
“若者の短パン離れ”の背景は?
「一つは、“短パン=おしゃれ”という認識の有無です。90年代はストリートスタイル、2010年代は“山ガール”などのアウトドアスタイルがブーム。その必需品こそ短パンです。その時代を体験した世代と、そうでない若者の間で断絶が生じたのかなと。もう一つは、最近の若者が大人しくて主張を好まないという傾向です。SNSで『短パンは“陽キャ”のもの』という投稿もありましたが、マッチョな印象が強い短パンに抵抗があるのかなと」
そもそもファッションアイテムになったのは?
となると、次に気になるのは短パンがどのような人に着用されてきたのかということ。日本の短パン史を山田さんに伺った。
「そもそもスポーツウェアがファッションアイテムとして認識されるようになったきっかけのひとつは50年代のテニスブームです。その後、70年代にはアメリカで人気だったジョギングやスケボー、サーフィンなどを日本の雑誌がスタイリッシュなものとして取り上げた流れで、徐々に短パンも“おしゃれな服”の仲間入り。
そして90年代に興ったNBAブームやヒップホップブーム、それらの影響を受けたストリートファッションが広がることで、短パン=ファッションアイテムの認識が定着。その後、2010年代にブームとなった、山・川用のハイスペックな服をあえて街中で着るアウトドアスタイルに繫がります」
短パンの流行の裏にスポーツの影響あり? そこで、次はトレーナーとして業界の第一線を走ってきた方に、当時の短パンとの関わりを聞くことにした。
スポーツの隆盛とともにあった流行
話を伺ったのはベテラントレーナーの白戸拓也さん。ほぼ毎日短パンを穿き、ウェアの監修も行うなど、短パンと縁の深い方だ。
「80年代はシュワちゃんのようなボディビルダーがロールモデルでした。でも、ファッション的な観点で注目されたのはその後。90年代頃、ワイドシルエットの短パンである“バギーショーツ”の登場がきっかけです。これも元を辿ると脚が太いボディビルダー用ですね。
そこからは、総合格闘技のブームで格闘家がファッションアイコンに。90年代後半には宇野薫選手が“裏原”ブランドを手がけ、2000年代には山本“KID”徳郁が膝下丈のファイトショーツを穿いて話題を呼びました。10年代以降はフィジーク選手の時代。ジムでも彼らが穿くサーフショーツをよく見ます」
ふむ、スポーツと短パンは切っても切り離せないよなと聞いていると、白戸さんから衝撃の一言。
「まぁ、どの時代もおじさんの短パン着用には注意が必要です」
おじさん短パンの注意点
「短パンって人を選ぶんです。まず、脚が白いと絶対似合わない。穿いているうちに自然と日焼けするのを待ちましょう。それと、特に年齢が出やすいのが“膝の上のシワ”。太腿を鍛えていないと、重力に負けて皮膚がたるんでいくんですよ」(白戸さん)
…自分の膝を見るのが怖い。でも、怯えていてはせっかくの短パンがお蔵入りになってしまう。白戸さん、どう対策すればいいでしょう?
「筋トレあるのみです。おすすめはスクワット。筋肉がつくことで肌に張りが生まれますよ。ついでに、ふくらはぎの上部にある腓腹筋も鍛えましょう。立った状態でカーフレイズをすればキュッと引き締まった足首が生まれます。
脚を見せるならぜひ鍛えておきたい、“短パン筋”といえる筋肉ですね。もう一つ目指したいのは逆三角体型。とはいえ、そこまで仕上げるのは至難の業ですから、オーバーサイズのTシャツを着て上半身をカバーし、短パンとのバランスをとるのも手です」
すね毛問題にも触れておこうか
自分のカラダに意識が向いたら、避けては通れない“すね毛の有無”。話を聞いたのは美容ライターの前野さちこさんだ。
「今はすね毛の過渡期といえる時期です。私の周りの30代以降の男性を例に挙げると、“ツルツル派”は“色気づいている”、“そのまま派”は“無頓着”と感じていて、どちらも自分の脚を恥ずかしがっているようです。
そんななかで20代は圧倒的“ツルツル派”。K-POPアイドルのようなフェミニンな男性像の影響でしょう。脱毛サロンの増加もそれに拍車をかけています」
女性目線ではどうですか?
「今は“ワイルドでかっこいい”から“不潔”までいろいろな意見が混在しています。ただ、将来的に“ツルツルがいい”派が主流になることは間違いありません」
しかし、前野さんはこうも付け加える。
「とはいえ、毛の有無の前に、気にすべきは保湿。脚を出すならカサカサは絶対NG! お風呂上がりのクリームを徹底しましょう」
結論|好きに穿いたらいいじゃない
今回の取材で印象に残ったのは、全員が異口同音に「でも結局、好きに穿いたらいい」と言っていたこと。そしてトレーナーの白戸さんは「短パンは動きやすくてテンションが上がる」とも。
短パンとは“どう見られたいか”ではなく、“自分のために”穿くものなのかもしれない。もちろん、脚の保湿は忘れずに。すね毛より保湿!