2023年3月5日(日)に開催された〈東京マラソン2023〉。
約3万8千名が参加した国内最大のマラソン大会に、サブ4の目標を掲げて挑んだモデルの山下晃和さん。
結果は、4時間3分52秒。
4時間をわずかにオーバーするタイムで惜しくも目標達成はならなかった。
しかし、今までの山下さんのベストタイムは4時間29分51秒。そこから約26分もタイムを縮めたのだから大健闘である。
この記事では、パーソナルベストを縮めるために取り組んだ“準備と装備”。そして、あと一歩サブ4に届かなかったポイントについて振り返ってみたい。
走力を底上げした“履き分け”という発想
まずは、レース本番までの山下さんの練習を振り返ってみよう。
フルマラソンを4時間以内で走り切るには、1kmあたり5分41秒よりも早いペースで走る必要がある。そのためにはただ闇雲に練習するのではなく、肺、心臓、筋力の能力を高めて全身持久力をアップさせることが大きなカギとなる。
全身持久力はATペース(有酸素運動と無酸素運動の境界線あたりの負荷で走るペース)を基準に、それより速いラン、それより遅いランをバランスよく組み入れることで発達する。
つまり速さのメリハリをつけることが必要で、速く走る練習ではそれに合ったシューズを履けばスピードと“速く走るためのフォーム”を身に付けられ、逆にゆっくりめに走る時はサポート性の高いシューズを履くと、足に負荷をかけずに距離を重ねることができる。
サブ4を目指す山下さんは、スピードトレーニング用に《TARTHER RP 3》を使用。一方、ジョグペースで走るときは《NOVABLAST 3》を着用した。
異なるタイプの2足のシューズを履き分け、週3回のランを基本に準備期、スピード養成期、走り込み期と目的別の練習メニューを組んだ山下さん。
合間にレースのシミュレーションとして30km走にも挑み、順調に走力をアップさせていった。
練習についてコチラもチェック!:
ここに注意。レース直前の調整方法
フルマラソン直前の1~2週間はどんな練習を行い、食事などに気をつければいいのだろうか。山下さんのサブ4チャレンジを指導してきた「アシックスランニングクラブ」の小谷浩コーチに話を伺った。
慣れてないならカーボローディングに手を出さない
「食事に関しては、カーボローディングがいいからと言って、レース直前に急に炭水化物を摂ったりしないこと。今までやっていないことをやっても下痢や便秘などお腹を壊してしまいます。
カーボローディングするならば、レース3~4日前から普段の食事におにぎり1個をプラスする程度にして、体内にマラソンを走り切るためのエネルギーを貯めておくといいでしょう。
2日前からはウォーターローディングを心がけてください。レース本番では皆さんが思っている以上に水分が失われて、気候によっては正常な新陳代謝が行われず、脱水症状や脚が攣るなどのトラブルに見舞われる恐れがあります。
それを防ぐためにも2日前からは1日あたり1~1.5リットルの水を普段よりも多く摂り、カラダが水分をしっかり代謝できる状態を作っておきましょう。水はペットボトル等でこまめに飲むのがコツです」(小谷コーチ)
食事は内臓を労わるものに。練習量は徐々に落とそう
また、これまでの走り込みによって内臓には多くの負荷がかかっているため、直前に胃腸や肝臓の調子を整える意味でも1か月前からアルコールを控えたい。
2週間前からは生もの、1週間前からは揚げ物もNG。お酒好きな人も、せめて1週間前からは禁酒して万全の体調でレースに挑みたい。
さて、レース直前の練習内容については?
「十分走りこんで、30km走も済んでいるならば、本番2週前の週は、それまでで1番走りこんだ週の75%の走行距離、1週前の週は50%の距離、本番の週は25%の距離という感じで徐々に走る距離を減らしてください。
ただし、速度はレースの想定ペースにすること(サブ4目標の場合1km5分30秒〜5分40秒ペース)。既にフルマラソンを走るだけの脚力は備わっているので、距離を短くすることで直前のケガのリスクを減らし、レースペースで走る感覚をカラダで覚えてください」(小谷コーチ)
もうひとつ、ケアに関して。
本番直前にマッサージを受けたり、セルフマッサージを念入りにするケースもあると思うが、脚をあまり揉みすぎると揉み返しが起きたり、筋肉が緩みすぎて本番で脚力が発揮できない恐れがある。
脚はさする程度の最低限のマッサージで済ませるのが吉、と小谷さんからのアドバイスだ。上半身は念入りにマッサージしても問題ない。
フルマラソン本番1〜2週間前に気をつけたいこと
- 想定スピードは保ちつつ距離は徐々に減らしていく
- 今までやった事のない練習や食事法はやらない
- 胃腸に負担のかかる食事をしない
- 本番4日前から普段の食事プラスおにぎり1個
- 本番2日前からウォーターローディング(1日あたり普段の摂取量+水1〜1.5リットル程度)
サブ4を目指すランナーの当日の装備は?
レース当日はどんな装備をしていけばいいのだろう。
焦らないよう3パターンの装備を準備する
「前後に他のレースも多く、〈東京マラソン2023〉も開催された3月を例にすると、天気が安定せず、寒くなる可能性も暖かくなる可能性もあります。
直前の天気予報をチェックするのはもちろんですが、①普段走っているときに準じた装備をベースに、②寒かった場合の装備、③暖かくなった場合の装備の3パターンを想定しておいてください。
日によってはスタート時が寒くても次第に暖かくなるケースもありますし、逆のケースもある。もちろん、雨が降ることもあるので防水ウエアも想定しましょう」(小谷コーチ)
トップスは吸汗速乾性、保温性に優れたアンダーシャツをベースに半袖Tシャツやアウターを合わせる。ボトムスはハーフパンツかロングタイツ、または両者の組み合わせ。プラスαで帽子に手袋、予備でアームカバーやネックウォーマーを持参するのが基本となるだろう。
特に寒さ調節に役立つのがアームカバー。ウエア類に比べて走りながらの着脱が簡単だし、冷え込んできたときはしっかり保温できる。また、アウターは収納を考えるとポケット付きがおすすめ。好みもあるが、ウエストポーチを活用してもいい。
ちなみに意外な落とし穴が「装備の購入時期」。季節の変わり目だと商品の入れ替えの兼ね合いから、自分にフィットするサイズ、アイテムが見つからないこともある。直前に不安を抱えないよう、1か月前など、余裕を持って準備しておきたい。
自己ベスト更新を狙うなら、補給食は持参しよう
「必ず持参してほしいのがジェル。1食150kcal~180kcalの小さめのタイプの物を4、5個持参し、10キロまたは1時間に1個摂るようにしてエネルギーを補給しましょう。
ファンランであれば各マラソン大会のエイドで出されるご当地名物を楽しむのも、もちろんいいです。でも記録を狙うランナーであれば、ジェルの方が吸収が早く、すぐにエネルギーになってくれます」(小谷コーチ)
ジェルを使用する場合も、ぶっつけ本番は避けること。走り込み時期や30km走のタイミングなどで実際に走りながら補給してみて、カラダに慣れさせておこう。
またレース中の給水は喉が渇く前に摂るよう心掛けたい。
つまり、すべてのエイドで必ず水を摂るようにし、毎回1口だけでも飲むこと。先にも触れたが、レース本番では思っている以上に水分が失われるため、脱水症状でダウンしないよう十分補給しておく必要がある。
レースにはレース用のシューズで挑む
そしてサブ4を目指すのに肝心要なのがシューズである。
山下さんはスピード用と長い距離を走る用の2足を履き分けて練習を積んできたが、本番ではレースに適したシューズで挑みたい。もちろん、当日までにしっかりと履き慣らしておくことは大前提だ。
今回山下さんが本番用に選んだシューズはアシックスの新作《S4》。
フルマラソンでサブ4を目指すランナーに向けた一足で、Speed(スピード)、Stability(安定性)、Safety(安全性)、Sub4(サブ4)という4つの要素を備えていることからそう名付けられている。
最大の特徴はカーボンプレートをミッドソールの前部から後部にかけて搭載している点。つま先に向かって下がるよう傾斜を付けて配置されており、着地から蹴り出しの際の足の動きを安定させ、効果的にカラダを前へ進める構造となっている。
ミッドソールは2層構造で、着地と同時に変形、圧縮し、素早く元の形状に戻ることで、跳ね返るような感覚が得られ、ストライドを伸ばすことが可能となっている。
さらに靴底にはさまざまな路面コンディションで優れたグリップ力を発揮する素材を採用。接地面積を広くすることで安定した足運びをサポートするなど、サブ4ランナーに適したライド感を追求しているのだ。
《S4》についてコチラもチェック!:
サブ4まであと一歩…。走って分かったレースの振り返り
ここからは山下さんの〈東京マラソン2023〉を振り返ってみたい。
世界規模のマラソンは、やはり序盤のペース作りが難しい
結果としては4時間3分52秒だったが、記録を詳しく見ると35km地点で3時間17分28秒。1kmあたり平均5分36秒強で、このまま行けばサブ4を十分達成できるペースで順調に走っていた。
5kmごとのラップタイムも、スタートからここまですべて27~28分台。最初からきっちりイーブンペースを守り、後半に余力を残すレースプランに沿っていた。
「スタート直後はどうしても周りに大勢のランナーがいるので、ランナーを避けながら自分のペースを守るのが正直大変でした。なんとか5km28分ペースを守ったけど、非効率な走り方になったので、実のところ最初の5kmで体力を結構消耗したのかもしれません。
でもそれは、世界的規模の東京マラソンを走る上で避けては通れないこと。スタート前などに周りの外国人ランナーとコミュニケーションをとるのはすごくリラックスできたし、心の底から楽しかったです」(山下さん)
ランナーの波がばらけてきた10~15kmあたりからは、ようやく山下さんのペースで走れるように。
「ちょうど、僕とほぼ同じペースで走っている別のランナーがいて、しばらくの間はその人の後ろをきっちりついて走っていました。フルマラソンでタイムを狙う場合、そうしたペースメーカー的な存在を見つけられるとすごく楽なんです。
あまり時計を気にしなくてもいいので精神的な疲れも減らせますし、その分景色も眺められてレースを楽しめます」
その結果、20kmから30kmにかけては幾分ペースも早まった。
「あまり意識していなかったけど、そのあたりはカラダも温まってきたし、調子が良くて自然とペースが上がっていたんですね。脚は全然平気だったし、このまま4時間を切れるなと思いながら走っていました」
走り方を変えて終盤でペースUPも…、あと一歩届かず
しかし、思い通りにいかないのがフルマラソンである。
「30kmを過ぎたあたりから両脚が攣ったような感覚になりました。一度止まったらもう再び走り出せなくなると思って走り続けましたが、ペースは少しずつ落ちていきました。35kmから先が本当に長かったですね…」
「でも38kmあたりで、それまで脚をどんどん前に進める感覚だったのを、脚をやや高く上げて地面を叩きながら走るように切り替えてみたんです。
すると、ソールの反発力のおかげでカラダがスーッと前進していく。そのおかげでラスト3kmはややペースを盛り返してフィニッシュできたのですが、あの走り方が30km過ぎから出来ていれば、もしかしたら4時間を切れたかもしれませんね…。
非常に悔しい結果でしたが、自己ベストは大幅に更新できたので良しとしたいと思います。いつかまた、サブ4にチャレンジしたいですね」
今回の山下さんのレース展開について、小谷コーチからもコメントをいただいた。
「山下さんが振り返った通り、大規模なマラソン大会は前半の密集状態の中で走路とペースを保つのが大変で、他のランナーを避けては進み、また避けては進み…と、ジグザグ状態で走らざるを得ない。
結果的に、前半10kmあたりまではそれ以上の距離を走ってしまうのです。山下さんは、今回の練習を通じて、もう少しまっすぐ走れる状況であれば4時間を切れる走力が確実に身につきました。また練習を重ねて挑戦してもらいたいですね」
簡単じゃない目標だからこそ多くのランナーが「サブ4」にチャレンジしたくなる。その壁を越えられた時の喜びと達成感は、格別なものとなるはずだ。
サブ4にチャレンジしたくなったら…? フルマラソン〈Challenge 4〉が開催!
サブ4を達成することに特化したフルマラソン〈Challenge 4〉が2023年5月14日(日)淀川河川公園(大阪府大阪市)、5月27日(土)国立競技場(東京都新宿区)で開催される。
〈Challenge 4〉(税込12,000円)はRUNNETオンラインお申し込みサイトからエントリーできる。