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こんなパンを待っていた! 豆でつくられたグルテンフリーの《ZENB ブレッド》
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「明日の自分を変えるには今の自分を把握して前に進むしかないと思います」
力も覇気も失ったボクサーに対して“もう一人の自分”が浴びせる台詞が身につまされる。玉木宏さんが脚本と演出を手掛けたショートフィルム『COUNT 100』は挫折と再生の物語。
5人の俳優がショートフィルムを制作するWOWOWの人気プロジェクト第3弾。監督を務めるのは、高良健吾、玉木宏、土屋太鳳、中川大志、野村萬斎。玉木宏監督の作品『COUNT 100』は落ち目のボクサー・加護光輝(みつき)が不思議なチラシを受け取ったことから始まる光と影の物語。2月11日よりWOWOWにて放映・配信。
「人はやり直せます。同じ環境、同じカラダでも、中身、つまり気持ちが変われば、結果も変わる。成果が上がる。
ただし、弱さを克服するには、弱い自分を一度受け入れなくてはいけません。これは僕がいつも自分に言い聞かせていることです」
デビュー以来俳優という“プレイヤー”として作品にかかわっている玉木さん。しかし今作では“ディレクター”として現場の責任を担った。
「俳優の目で見ていて、やってみたかった話の展開、台詞、カメラのアングル、撮りたかった景色などがあります。そんなさまざまなアイデアを短い物語に反映させました」
ボクシングを素材に選んだのには、理由がある。玉木さん自身がジムで13年間トレーニングをしているのだ。そこで自分自身を鍛え上げ、拳闘に人生を懸ける選手たちをずっと目の当たりにしてきた。
「スポーツで成功を収める選手はひと握り。そして、ボクシングはもっとも厳しい競技の一つです。常に死と隣り合わせ。リベンジのチャンスがなかなか訪れない世界です」
危険度が高くて試合数を増やせないので、世界チャンピオンにならない限り、収入には限度がある。弱小ジム所属だと、自分でチケットを売って稼がなくてはならないことも。日本チャンピオンクラスでも、アルバイト生活を送るのが現状だ。
「勝ちが続くと周囲もちやほやしてくれます。ところが負けると、クモの子を散らすように人が離れていく。這い上がるには、強靱なメンタルが必要です。
しかも、ものすごくストイックな生活を強いられる。階級制なので、試合前は食欲を抑えています。摂取したタンパク質を無駄にできないので、性欲も抑えています。短い選手生命に、人生がぎゅっと凝縮されているのがボクシングです」
そんなボクサーを主人公にして、玉木さんは映画を撮った。
「ハイリスクな人生を選んだボクサーへのリスペクトも込めています」
主演の林遣都さんは以前もボクサー役を演じた経験があり、タイトルマッチのシーンは必見だ。脂肪を削ぎ落とし筋肉に包まれた林のカラダが躍動する。パンチを出し、引く。そのスピードに驚かされる。
「遣都君は僕の気持ちや意図を汲み取ってくれました。松浦慎一郎さんという名トレーナーについてもらい、しっかりとカラダをつくってきてくださったので、リアルな映像になりました」
人生はいいときばかりではない。砂を嚙むような悔しいとき、苦しいときにこそ、人としての真価が問われる。その現実を教えられる映画だ。
取材・文/神舘和典 撮影/中島慶子 スタイリスト/上野健太郎 ヘア&メイク/渡部幸也
初出『Tarzan』No.849・2023年1月26日発売