限界まで肉体を追い込んで臨んだ映画撮影
これまでコミカルな役からシリアスな役まで、幅広く演じてきた玉木宏さん。映画『極主夫道 ザ・シネマ』では、“元極道の主夫”という役柄に対して、変化球なし、全力のストレートを投げる気持ちで臨んだそうです。なかでも大切にしたのが、“お腹の底から笑えるか”でした。
「演じる作品がコメディであってもシリアスであっても、最初に考えなければいけないのは“何を伝えるか”だと思うんです。今回の作品に関しては、社会に閉塞感が漂っているなかで、日常から離れてとにかく純粋に笑っていただく。そこに大きな意味があると考えました」
ただ、役づくりに関しては苦労もあったとか。
「漫画原作の作品は、絵があることが役づくりのヒントになるのですが、一方で少しでもキャラクターに近づいていかないといけない難しさがあるんです。僕が演じた龍はカラダがバキバキなので、撮影に臨むまでの短期間でどれだけ準備できるかをすごく考えました」
実はドラマ化の際、スケジュールの都合もあって思うようなトレーニングができなかったとか。それだけに、今回は万全の状態で臨みたいという気持ちが強かったと玉木さんは話します。
体脂肪率は脅威の4.7%。そのトレーニング&食事内容は?
パーソナルトレーナーとしてエドワード加藤さんにトレーニングメニューの考案と食事管理をしてもらったそうです。
「朝は4時に起きて有酸素運動をして代謝を上げ、仕事が終わった後はジムで筋トレ。食事は、タンパク質をプロテイン抜きで1日210g摂ってほしいと言われていたので、鶏の胸肉を1日1kg食べ続ける生活を送りました。
野菜は何を食べてもよかったのですが、ドレッシングや塩分は摂れないので、茹でたものをそのまま口に入れるだけ。それで撮影が始まる直前には、カーボローディング*のためにお餅を1日1.2kg食べることを3日間。
最後の1週間はウォーターローディング*で6L、4L、3Lと徐々に水の摂取量を減らして撮影に臨みました」
こうした準備の結果、体脂肪は4.7%に。極限まで追い詰めたことで、筋骨隆々ながらしなやかさもあるカラダに。
「年齢を重ねるとともに代謝は衰えていくので、20代の頃と同じトレーニングをしてもカラダは変わっていかないんです。だから、その時々に応じて変えていくことは必要だと思います」
ブラジリアン柔術の動きを活かしたアクションへの挑戦
そんな玉木さん、スケジュールに余裕があるときは週に6〜7回、忙しいときでも2〜3回はブラジリアン柔術の道場に通っているそう。
ブラジリアン柔術とは、日本人柔道家がプロレスの技術を組み合わせ、それがブラジルに伝わったことで改編された、寝技を主体とした格闘技。初心者でも始めやすいと競技人口が増加しているそうです。なぜそれほどまでにハマっているのでしょうか。
「単純に面白いのがひとつ。柔術のスタイルは日々変化しているから10年前と今では学べることがまったく違うんですよ。だから、飽きることがない。あと、同じ時期にはじめた人たちに負けたくない気持ちも強くて。彼らが毎日のように練習しているので、僕も負けていられないと思うんです」
また、護身術の側面がある点も魅力だったとか。
「柔術をはじめる以前はボクシングを習っていたのですが、どちらかというと攻めの格闘技だと思うんです。体力も必要ですし。その点、柔術はテコの原理を利用していかに相手にダメージを加えないで締め倒すかにフォーカスしているから、年齢はあまり関係ないんです。道場には60歳くらいの方もいますし、長く続けていけると思いました」
このブラジリアン柔術で培った経験が、今回の映画にも活きています。それが随所で垣間見られるアクションシーン。玉木さんから監督に提案し、柔術っぽい動きをエッセンスとして取り入れたそうです。
「撮影中は毎日のようにアクションシーンの撮影があったのですが、怪我をしないことを前提に、できるかぎりスタントマンを使わずに自分で演じるようにしました。せっかく時間をかけてカラダをつくってきたからこそ、全力で取り組みたかったので。
柔術に関しては、本当はもっと技っぽい動きを取り入れたかったのですが、龍が経験者とは限らないので、なるべく動きが綺麗に見えないように荒さを残すことを心掛けました」
こうしたカラダを張ったアクションシーンに加えて、カーアクションにも果敢に挑戦しています。危険が伴う撮影だけに恐怖はなかったのでしょうか?
「今まで経験したことがなかったので、ちょっと怯むような怖さはありました。ただ、ドラマのときから一緒のスタッフがサポートに入ってくださっていたので、信頼して撮影に臨みました。映画らしいスケールの大きな、派手さのあるシーンになったと思います」
ちなみに本編終了後のエンドロールでは、監督の意向でNGシーンが挿入されているとか。
「監督がジャッキー・チェンのファンで。ジャッキー映画のエンドロールには、アクションシーンのNG集が収められているんです。それに倣ってこの映画でも、撮影時のNGシーンが盛り込まれています。そういう意味では、エンドロールも含めて、最後の最後まで笑える作品になっていると思います」
玉木宏、42歳。これからの年齢の重ね方
18歳でデビューした玉木さんも、気づけば42歳。時間の流れの早さに驚くと同時に、役者という仕事の難しさに直面することも増えたそうです。
「俳優の仕事は生涯現役と言われることが多いですが、年齢によっていただく役柄が変わってくるんです。僕は42歳ですが、これくらいの年齢になってくると若い頃のように勢いだけで乗り切ることも難しいし、きちんと説得力のある演技をしていかないといけないんです」
それだけに、今回の作品で共演した竹中直人さんと吉田鋼太郎さんの二人には、学ぶことも多いとか。
「お二人とは何度も共演してきましたが、いくつになっても止まることを知らないのかと恐ろしく感じることがあります。60歳を超えてもこんなに元気なのか、と。本当に大好きな先輩です。しかも、二人ともチャーミングなんです。そういう魅力は経験に基づく余裕や懐の深さがなければ出せるものではないと思うので、僕もいろんなことを学んでいく必要があると考えさせられます」
では、これからどのようにして年齢を重ねていきたいと考えているのでしょうか。
「あと18年で60歳になるのかと思うと感慨深いですが、これまでがあっという間だったので、それと同じように一瞬で過ぎていく気がするんです。だから、その都度できることを楽しみながら、いろいろな経験を積んで人間としての深みを増していければと思います」