不眠症と睡眠時無呼吸症候群(SAS)。睡眠治療の最新事情
睡眠障害である不眠症と睡眠時無呼吸症候群(SAS)。自己判断は禁物で、どちらも治療には医師による適切な判断が必要となる。睡眠治療の最新事情を知っておこう。
取材・文/石飛カノ イラストレーション/浦上和久 編集/阿部優子
初出『Tarzan』No.845・2022年11月2日発売
教えてくれた人
中村真樹先生(なかむら・まさき)/東北大学病院精神科外来医長、睡眠総合ケアクリニック代々木の院長を経て、2017年に青山・表参道睡眠ストレスクリニックを開院。約90ある睡眠障害全般に対応する日本睡眠学会専門医。
不眠症を引き起こす3つの要因
「不眠と不眠症は別ものです。不眠は“寝つけない” “途中で何度も目が覚める” “いつもより早く目覚める” という眠りに関わる症状。これらの不眠の症状が原因で日中何らかの弊害が出た場合、はじめて病気としての “不眠症” と診断されます」
と言うのは、青山・表参道睡眠ストレスクリニック院長の中村真樹先生。
「日中の何らかの弊害」とは疲労や倦怠感、注意力や集中力の低下、イライラや抑うつ気分など。下の図のように前提条件となる不眠になりやすい体質がベースにあり、ストレスなどの促進条件が引き金で発症すると考えられている。
「たいていはストレスの軽減・解消とともに不眠は改善します。ただし眠れないことへの不安が強まったり、睡眠薬を自己判断で中止したり、飲酒で眠ろうとするといった永続要因が加わり慢性化することも」
睡眠薬を自己判断でやめてしまう背景には薬に対する依存への恐れがあるという。
「睡眠専門の病院では不眠による日中の影響や心身の不調の改善を目的に、多くは薬を処方して睡眠を確保します。
睡眠薬の主流はリラックス効果で眠らせるベンゾ系や非ベンゾ系。長い間服用し続けると依存のリスクが高まりますが、医師の指示で適切に服用すればリスクはかなり抑えられます」
睡眠薬開発の歴史
自己判断で睡眠薬を中止すると、悪循環に陥ることも
寝つきが悪いなら作用時間が短く寝つかせる作用が強い薬、寝つきはいいが途中目が覚めるなら作用は弱いが効く時間が長い薬と、症状によって異なる細やかな処方が日本睡眠学会専門医の強みだ。
「依存への不安から薬をやめたことで眠れず、さらに不安・緊張感が強まってますます眠れなくなる悪循環に陥ることもあります。そのため、安定して眠れるようになってから徐々に減らしていきます」
イギリスやフランスでは睡眠薬の処方期間の上限はおよそ1か月。アメリカでは睡眠の記録や生活習慣の改善、リラクセーションを行う認知行動療法が推奨されている。
「日本でも30分から1時間程度、みっちり時間をかけて認知行動療法を行う医療機関はありますが、決して多くありません。最近では医師の指示で利用できる認知行動療法の治療用アプリが開発され、厚生労働省に認可申請中です」
睡眠時無呼吸症候群、治療法の選択肢は?
一方、睡眠障害の中で最近耳にする睡眠時無呼吸症候群(SAS)。眠っているときの無呼吸状態が血圧の上昇や心臓への負担に繫がる病気で、潜在的な患者はかなり多い。
「一番の原因は肥満。舌や喉にも皮下脂肪がつき、眠っているときに舌や喉の筋肉の力が抜けて舌が落ちて気道が塞がれます。日本人は顎が小さいことが原因になる場合も」
治療法は基本的にCPAP(シーパップ)という医療器具の装着。加圧した空気を鼻から送り込み、舌を持ち上げるという仕組みの器具だ。
「自宅での簡易検査で無呼吸の回数が1時間に40回、病院での泊まりの精密検査で20回以上で保険適用となります。CPAP以外にマウスピースや外科手術、日本で今年認可された舌に電極を埋め込み、電気刺激で舌を収縮させる治療法などもありますが、電気刺激治療はあくまでも最終手段と考えてください」
睡眠時無呼吸症候群の治療
治療法 | 説明 |
---|---|
CPAP |
加圧した空気を鼻腔から送り込み、舌を押し上げる。 |
マウスピース |
舌と下顎を一緒に持ち上げ気道を拡大。 |
耳鼻科的手術 |
口蓋垂・軟口蓋の切除、扁桃腺の摘出など。 |
舌下神経電気刺激装置 |
頸部と胸部に装置を埋め込み、舌下神経を電気刺激して気道を確保する。 |
CPAPもマウスピースもカラダに装着する医療器具。医師の管理のもと適切な使用条件で使う必要がある。健康な睡眠を確保したいなら必ず日本睡眠学会専門医に相談を。
日本睡眠学会専門医一覧:https://jssr.jp/list