緊急時のためのロープワーク。まず覚えるべき「ふた結び」
連載「ジャングルブック」では、都市でも自然でも、いざという時の役に立つ“生き抜く力”にまつわる知恵を紹介。今回のテーマは「本当に役立つロープワーク」。
edit & text: Ryo Ishii illustration: Yoshifumi Takeda監修・取材協力/伊澤直人(週末冒険会代表)※最新著作『焚き火の教科書』(扶桑社)好評発売中。
初出『Tarzan』No.844・2022年10月20日発売
万能な「ふた結び」を覚えよう
ロープワークとは、何もないところに、あらゆるものを作り出す術である。家を建て、山を登り、船を操るため、人類は数千種類にも及ぶ多種多様なロープワークを生み出してきた。
では、その中から何百という種類を覚えなければ、“ターザンマン”とは言えないのだろうか? もちろん、そんなことはない。本当に役に立つロープワークとは、得てしてシンプルなもの。4種類も覚えておけば、非常時に一夜を明かすには十分だ。
最初に覚えるなら、万能な「ふた結び」がよい。
ふた結び(Two Half Hitches)
- 先端を元紐の下から巻くように通し、できた輪の内側へ上から通す(ひと結び)
- 先端を手前に引きながら、もう一度ひと結びを繰り返す
- 元紐と先端をそれぞれ引っ張り、結び目を締めれば完成
「ヒッチ」と呼ばれるロープワークのひとつで、ロープを木やカラビナなど他の対象物に縛り付ける結び方。
上記解説の手順①を「ひと結び」と言い、それを2度繰り返すから「ふた結び」。シンプルな構造だが緩みにくく、解くのも比較的簡単なのが特徴だ。最後のひと手間として、結び目を木の側へスライドさせ、しっかり引き締めるのがコツ。
ふた結びを活用するための2つのテク
① タープなどに結び付ける
ふた結びの代表的な使い方がこちら。初心者にとって、どうやってタープに紐を結ぶかは意外と難しいものだが、ふた結びなら簡単。
結び目はスライドして輪が引き締まるので、小石を包み、そこにふた結びを施せば、ハトメやループがない布でもタープとして活用できる。結び目から末端までの長さはロープ直径の10倍以上取ると解けにくい。
② 張り具合を調節する「自在結び」を作る
ひと結びを3回繰り返すだけで、簡易的な「自在結び」が作れる。摩擦抵抗が足りず、ロープが滑る場合には、B地点にひと結びを増やす。3回、4回と結ぶごとに抵抗が増し、強く張ることができる。
長さを短くするには…
- ○で囲んだ部分をそれぞれ左右の手で持ち、
- 元紐を奥へ、結び目側を手前に引き、
- A、Bを順に動かそう。
まずは「ふた結び」を極めよう
「ふた結び」は使い道が多いわりに簡単で、しっかり結べるところが最大のメリット。物をまとめて運んだり、立ち木の間に紐を張ったり、タープの端をペグダウンしたりする際などに最適だ。
また、簡単な応用で、ロープの張り具合を調節できる簡易的な「自在結び」を作ることも可能(上述)。ひとつ覚えるだけで、一石何鳥にもなる。
もちろん、似た機能を持ちながら、より強固な結び方や解きやすい結び方もある。しかし、ロープワークで大切なのは、何よりも確実性だ。たくさんの種類を覚えることよりも、まずはひとつを極めることが第一歩。
目をつむっていようが、酒に酔っていようが、間違えることなく結べるよう、何度も練習してカラダに刻み込む。気が動転するようなシチュエーションで本当に役に立つのは、そうやってカラダで覚えたものだけだ。
できれば日常生活に取り入れ、普段から使うようにするといい。捨てる段ボールをまとめたり、出張先で洗濯物を干すロープにしてみたり。どう使えるかを考えるのも、キミの力になるはずだ。