糖尿病にも繋がるってホント?Q&Aで学ぶ「歯周病」
40代以上の大多数が罹るサイレント・ディジーズ。気づいたときは手遅れ…。恐ろしい歯周病に立ち向かうのは自分しかない。敵を知り、早めのケアを始めよう。
取材・文/石飛カノ イラストレーション/コルシカ 取材協力/佐藤聡(日本歯科大学新潟生命歯学部歯周病学講座教授)
初出『Tarzan』No.844・2022年10月20日発売
目次
Q. 歯周病が問題になっている理由はなんですか?
A. 歯を失う最大の原因だからです
ある意味、日本人の国民病と言ってもいい歯周病。厚生労働省の「歯科疾患実態調査」(2016年)では中等度以上の歯周病患者は過去最高。
歯周病はプラーク(歯垢)や歯石が溜まった場所で細菌が繁殖し、歯肉に炎症を起こし、徐々に歯槽骨という歯を支える骨が溶け、最終的にぽろりと歯が抜けてしまう病。
厄介なことに虫歯と違って自覚症状を感じにくいため、気づいたときには1本、また1本と歯を失う羽目に陥る。恐ろしや。
歯を失う理由
Q. 基本的なメカニズムを教えてください。
A. 歯周ポケットの炎症で最悪の場合は骨が溶けます
歯周病の進行は4ステージ。歯磨きが不十分だと細菌の塊、プラークが作られ歯と歯茎の境目に歯周病の原因菌が繁殖し、1~2mmの歯周ポケットができる。これがステージⅠ。
ポケットが3~4mmになるとステージⅡ。ポケットが5mm以上、さらにレントゲン検査で歯槽骨が全体の3分の1以上溶け、歯が抜け始めるのがステージⅢ以降。
歯周病のステージ
ステージⅠ | ステージⅡ | ステージⅢ | ステージⅣ | |
---|---|---|---|---|
歯周ポケットの深さ | 1~2mm | 3~4mm | 5mm以上 | |
骨吸収 | 全体の1/3未満 | 全体の1/3以上 | ||
歯の喪失 | 喪失なし | 4本以上喪失 | 5本以上喪失 |
Q. 歯周病を引き起こす原因菌は分かっているんですか?
A. レッドカードの極悪3兄弟菌が有名です
口の中にいる細菌はおよそ1000種類といわれている。でもこれらすべての細菌が歯周病を引き起こすかというと、さにあらず。特定の細菌が歯周病の発症に強く関係するということが1970年代後半になって明らかになった。
このうち、最も代表的で最も凶悪な歯周病菌はレッド・コンプレックスというグループに属する3つの菌。歯医者で歯茎の検査をするとき、歯周プローブという針のような器具で歯周ポケットの深さを測る。
炎症が重篤だとプローブがずぶずぶっと奥まで入る。このとき検出されることが多いのがレッド・コンプレックスだ。で、これらの歯周病菌は空気を嫌う嫌気性菌。歯磨きをサボること7日程度で口の中で増殖する。毎日の歯磨きはやはり大事。
歯肉縁下プラークの構成
歯磨きを中断すると…
Q. リスクを高める条件はありますか?
A. 喫煙、糖尿病などによって進行は早まります
先述した歯周病の進行の新分類は重症度を表したもの。これと同時に新たに提示された考え方が、「グレード」という進行度。
歯槽骨が溶けるという状態が5年以上なければグレードAで「遅い進行」、5年で歯槽骨の高さが2mm未満低くなれば「中等度の進行」、2mm以上なら「急速な進行」に分類される。
さらに進行度のリスクを高める条件は喫煙および糖尿病の重症度。ステージⅠでもタバコを1日10本以上吸う喫煙者は要注意。
歯周病の進行度
グレードA(遅い進行) | グレードB(中等度進行) | グレードC(急速な進行) | |
---|---|---|---|
喫煙 | 非喫煙者 | 1日10本未満の喫煙者 | 1日10本以上の喫煙者 |
糖尿病 | 糖尿病の診断なし | HbA1c7.0%未満の糖尿病患者 | HbA1c7.0%以上の糖尿病患者 |
Q. 早期発見のためのセルフチェックはありますか?
A. 朝起きたとき口の中がネバネバしたら要注意です
虫歯のような痛みがなく、歯肉に覆われている歯槽骨などの歯周組織は外から見えない。なので、多くの人は歯周病を放置しがち。歯茎から出血したり歯がグラグラしてから、「もしや」と思い当たるならまだいい方で、「まさかね」で済ませてしまう人も少なくない。
なので、この機会にぜひセルフチェックを行ってみてほしい。下の13項目の質問に1つでも当てはまるものがあったら迷うことなく歯科医院へ。
歯周病セルフチェック
1つでもチェックがついたら歯周病の可能性が…。
- 歯肉がときどき赤く腫れる。
- 歯肉がむずむずする。
- 歯が浮いた感じがする。
- 冷たいものがしみる。
- 歯を磨くと歯肉から出血する。
- 下の前歯の裏側がザラザラした感じがする。
- 朝起きたときに口の中がネバネバする。
- 口臭を指摘されたことがある。
- 「サ行」の音が発音しにくい。
- 歯と歯の間に食べ物が挟まりやすい。
- 歯を触るとぐらぐらする。
- 歯肉が下がり、歯が長くなった感じがする。
- 以前と歯並びが変わったような気がする。
Q. 歯科医院での検査について教えてください
A. 炎症の表面積を割り出して診断します
歯周ポケットの深さを計測するプロービング検査。現在ではこの検査結果を基にして、歯周炎症表面積(PISA)を割り出すシステムが導入されている。口の中でトータルでどれくらいの面積が炎症を起こしているかが一目瞭然。
全体の炎症が2500㎟だとすると指を除く掌の面積。適切な治療で指先の面積まで縮小させることが可能。この可視化が励みに。
歯周病治療前でのPISAの変化と考え方
Q. どんな治療を行うんですか?
A. プラークコントロールが治療の中心になります
この病のすべての発端はプラークだ。よって歯周病治療は基本的に歯磨きやデンタルフロス、歯間ブラシなどを使ったセルフケア。
そして残念ながらセルフケアで完全清掃は不可能なので、歯科医院でのスケーラーという器具による歯石の除去も必須。この両輪で定期的なプラークコントロールを地道に続けることに尽きる。
掌大だった口の中の炎症面積が指先大にまで減ったら、極力その状態を維持していくのだ。サボればプラークが再び溜まり、極悪歯周病菌の温床になる。歯周病治療と予防に終わりなし。
Q. 歯周病が全身の病気に繫がるって本当ですか?
A. 糖尿病や心筋梗塞などを引き起こすことが分かっています
歯を失うと咀嚼する力が低下したり特定の音を発音しにくくなったり顔立ちが変わったりと、かなりのデメリットがある。でも歯周病の恐ろしさは歯を失うことだけではない。歯周病菌が口の中から血管経由で体内に侵入し、全身疾患を引き起こすことが分かっている。
ざっと例を挙げてみても下のような疾患を引き起こす可能性があるのだ。
歯周病が引き金で引き起こされる病気
極悪3兄弟のレッド・コンプレックスをはじめ、歯周病菌はカラダの一部に毒素を備えている。その毒素に対してカラダが炎症反応を起こすことでさまざまな病気が引き起こされると考えられているのだ。
とくに糖尿病との関わりは深く、重篤な歯周病患者と糖尿病患者の数はほぼ一致するという話もある。詳しいメカニズムは未だ研究中だが、歯の健康が全身の健康に繫がることは間違いない。