日常的な腰痛の一因。「脊椎すべり症」の原因と対策
トレーニングをしていると耳にする「コンディショニング」という言葉を、詳しく紐解いていく「コンディショニングのひみつ」連載。第33回は、脊椎すべり症について。
取材・文/オカモトノブコ 漫画/コルシカ 監修/齊藤邦秀(ウェルネススポーツ代表)
初出『Tarzan』No.840・2022年8月25日発売
腰椎の力学的に弱い部分が前にズレることで発症する
これまで3回にわたって解説してきた腰痛対策のコンディショニング。
ラストの今回は「脊椎すべり症」について。症状名の“すべり”とはズレることを意味し、背骨(椎骨)の円柱部分をなす椎体が、おもに前方へすべるようにズレた状態を言う。
痛みが出やすいのは、立ちっぱなしや長時間のデスクワークなどで同じ姿勢をとり続けたとき。上半身の重みが、分離した椎弓やズレた椎間板などの力学的に弱い部分にかかり、腰痛が引き起こされるのだ。
脊椎すべり症は、先天性の「形成不全性すべり症」「分離すべり症」「変性すべり症」の大きく3つに分類され、うち日本人に起きやすいのは後者の2種類だ。ここからは、それぞれの要因について解説していく。
分離すべり症
前回のテーマ「腰椎分離症」から派生して起きるもの。
椎体の後方にある椎弓が疲労骨折により分離することで、椎体の前方へのすべり止めが利かなくなった結果として発症する。若いころに背骨を酷使するスポーツを行っていた人がなりやすく、体型が変化した中年期に日常的な腰痛となって表れることも多い。
変性すべり症
中年期以降の女性に多く、特に骨盤の真上にある第4・第5腰椎の間に好発する。加齢によって椎体をつなぐ椎間板の傷みが進行し、また椎弓の間にある椎間関節もすり減ることで、下にある椎骨を乗り越えるように前へズレてしまうのだ。
もともと女性には反り腰が多く、そのため体幹を支える腹圧がかかりにくい。さらにヒールを履く習慣などで背骨が不安定になりやすく、発症のリスクがより高まると考えられる。
症状が起きたときの対処法
さて、ここからは症状が起きたときの対処法について解説しよう。まず第一に、腹圧を高めること。腰痛対策において、腰椎に負担がかからない生理的彎曲を保つその重要性は、これまで再三、説いてきた通りだ。
また脊椎すべり症にとって、腰椎が前にズレる姿勢を助長する反り腰は大敵。そこでここでは、反り腰を予防・改善するエクササイズに重点を置いて紹介していこう。
① 前腿ストレッチ
骨盤が前傾した反り腰においては、骨盤から下肢をつなぐ太腿前面の大腿直筋が硬く縮んだ状態にある。ストレッチするうえでのポイントは、筋肉の付け根にあたる鼠蹊部を突き出すように前腿を伸ばすこと。これによって、硬直した大腿直筋を効果的に緩めることができる。
② ヒップリフト
反り腰の場合、尻にある大臀筋やハムストリングスの上部は伸び切った状態(=弱化筋)となる。ここを収縮させて鍛えることにより、反対側で拮抗した位置関係にある、硬く縮んだ大腿直筋(=短縮筋)は無理なく伸ばされるというわけだ。
大腿直筋は、座りっぱなしの姿勢を続けることでも硬直する。心当たりがある場合はぜひ実行して、反り腰や腰痛の予防と改善に努めたい。
復習クイズ
答え:反り腰