【棚橋弘至・連載】第17回:今、できることを頑張る。筋肉の育て方は人生に通ずる
新日本プロレス「100年に一人の逸材」棚橋弘至が綴る、大胸筋のように厚く、起立筋の溝のように深い筋肉コラム。第17回のテーマは「部位別の筋トレ」について。
今の自分が出来上がって早20年
ある程度筋肉が発達してしまうと、目に見える大きな変化が起きないことが、ままあります。筋肉のサイズはトレーニングによって大きくなりますが、それはやはり、日々の積み重ねによるものであり、例えるなら薄い和紙を丹念に貼り重ねていくような、趣のある変化なのです。
なので、昨日やって今日大きくなったなぁ、というような劇的な変化は、4年に1度くらいあるにせよ、稀なのです。
だいたい今の自分が出来上がって、早20年になります。20年同じ体型をキープすることも割と大変なことなのかなぁ、とも思いますが、毎分、毎秒、「大きくなれ!」という思いが続くのは、トレーニーの呪いなのかもしれません(笑)。
20年前と今のカラダの比較
さて、なかなか目に見える変化がないと言いましたが、お腹周りがタブついて来たことは周知の事実で、それは、これから先の課題としてひとまず置いておいて(←置いておくなよ)、筋肉の変化に絞って話を進めていきましょう。
出来ないことを嘆くより出来ることを頑張る
僕の筋肉で残念なのは、部分断裂してしまっている両腕の二頭筋と、同じく部分断裂してしまっている右大胸筋の下部。なので、二頭筋種目は高重量を扱うことは避け、高レップ(高回数)やゴムチューブに切り換えてやっています。
大胸筋の右下部は、見た目にはあまり分からないのですが、ベンチプレスの力が弱くなったことと、ディプスなどのアウトラインを作る種目でもパンプしにくい感じがあり、気持ちを切り換えて、広がりよりも厚みを意識してやっています。
と、日々を闘い抜いてくれている筋肉には感謝しかなく「ごめんなー」と、ときどき話しかけたりして、労を労っていたりします。
となると、筋肉で無事な部分は、背中、肩、三頭筋ということになります。ちなみに、下半身は膝の靭帯がなかったり、緩かったりするので、なかなか高重量が扱えません。ただ、ジャンプ力だけは落ちないようにと、リング下から、エプロンサイドに飛び乗ったりと、維持に努めています。
このように、出来ないことを嘆くより出来ることを頑張るというのは、コロナ禍で学んだ生き方でもあります。それは、トレーニングにも当てはまります。話を戻して、無事生き残っている筋肉達の成長がこれからの鍵になるとするならば、頑張ってもらうしかない。
どんな肩、背中、三頭筋を目指すか
三頭筋
まずは、三頭筋。三頭筋トレは好きな部類に入るので頑張れます。イメージとしては、プロレスラーだと小島聡選手や本間朋晃選手の三頭筋が大きいですね。昔のプロボディビルダーだと、フレックス・ウィラーやケビン・レブローニのような三頭筋になりたいですね。
ある日の腕トレメニュー
- ケーブルプレスダウン4セット
- ケーブルエクステンション4セット
- プッシュアップ20×4セット
- ダンベルカール3セット
- ダンベルハンマーカール3セット
- ダンベルリバースカール3セット
背中
背中は悪くはないと思っていますが、特に良くもない部分でもあります。特に脊柱起立筋などの背中の下部は、大幅に改善の余地があります。ベントオーバー系のローイング種目は好きでよくやりますが、デッドリフトに関しては、あまり高重量を扱って来なかったので、ここで少しテコ入れしようかと思っています。
背中の日の最初の種目は、チンニングから始めることが多いので、広がりに関しては良くなって来ていると思いたいのですが、もっとこう、ゴツゴツと起伏があり、広がりのある背中のを目指すのならば、どなたかに弟子入りして背中を鍛え直してもらう必要がありますね。
ある日の背中トレメニュー
- チンニング4セット
- ラットプルダウンパラレルバーで4セット
- スミスベントオーバーローイング4セット
- シーティッドロー4セット
- ケーブルプルオーバー4セット
「私だったら、棚橋の背中を改善できる」と思われる全国のトレーナーの皆さん、ぜひ『ターザン』さんまで、ご連絡下さいませ(真顔)。
肩
そして、無事生き残っている最後の部位は肩です。肩はイメージ的に1番ケガをしやすいように思われますが、幸運にも、今、僕の肩はとても良好です。
高校のとき、ピッチャーの練習で、ゴムチューブを壁に引っ掛けて、投球フォームを繰り返し練習していたら脱臼したことがあったし、若手の頃、コーナーからのミサイルキックで受け身を取った勢いで、よく右肩を脱臼したりしましたが、今は肩の日に、ローテーターカフと言われるインナーマッスルも、ちゃんとトレーニングするようになり、それ以来、脱臼はしなくなりました。
肩は本誌『ターザン』で連載していた時にも何度か書きましたが、キレイなアウトラインを作る上で、もっとも重要な部分です。それに、トレーニング内容により一番差が出るのが肩だという認識もあります。
ある日の肩・僧帽筋トレメニュー
- ケーブルアップライトロー4セット
- ショルダープレス4セット
- ダンベルサイドレイズ4セット
- シュラッグマシン4セット
一般のトレーニー。プロレスラー。フィジーカー。ボディービルダー。特に肩の発達が競技に必要なフィジーカーの皆さんの肩トレは参考になります。
今朝も、名古屋の〈ゴールドジム〉さんでトレーニングをしていたところ、丸みを帯びた肩が目立っているフィジーカーの方がいらっしゃったので、トレーニングの合間を狙って話しかけました。
「肩の後部は、どういうトレーニングをされていますか?」
突然の質問にも関わらず「ペックフライとケーブルアップライトローをフィニッシュでこっち方向に、こう入れてやってます」と丁寧に答えてくれました。肩後部は肩前部、肩横に比べて、一番差が出る部分でもあるので、しっかりやっておきます。
「プロレスラーで肩後部が一番発達しているのは棚橋でしょ!」と言われる未来が見えます。
と、このように得意な種目、部位、苦手な種目、部位は自然と出てきます。しかし、考え方によっては、苦手部位あるということ自体が伸び代ということなんですね。
キャリア23年にして伸び代を残している棚橋の恐ろしさは、これから、皆に体感してもらいます。
棚橋弘至
たなはし・ひろし/1976年生まれ。新日本プロレス所属。立命館大学法学部卒業後、1999年デビュー。低迷期にあった同団体をV字回復に導き、昨今のプロレスブームをリング内外の活動で支える。