コロナも影響? 男性更年期の基礎知識
女性のみならず、男性にも当然更年期は訪れる。やる気がでない、神経質でイライラする、寝つきが悪い。その悩みの原因、実はテストステロンの減少に伴う更年期障害かも。男性の更年期は女性と比べて期間が長いので、自分の状態を把握して、当てはまる項目があれば、適切に対処しよう!
取材・文/黒田創 取材協力/平澤精一(マイシティクリニック院長)
初出『Tarzan』No.836・2022年6月23日発売
教えてくれた先生
平澤精一さん/ひらさわ・せいいち 医学博士。日本メンズヘルス医学会所属。マイシティクリニック院長。テストステロン治療認定医として男性更年期障害治療を行う。著書に『60代からの最高の体調』(アスコム)など。
目次
男性の更年期を訴える人が増えている
男性の場合、男性ホルモン(テストステロン)が20代をピークに少しずつ減っていき、更年期障害につながる。
原因は言うまでもなく「加齢」だが、実のところ、社会性によっても値が左右されるという。
「テストステロンは他人と接したり、組織の中で切磋琢磨して活性化する社会性を帯びたホルモンです。
しかしコロナ禍で在宅ワークに移行する企業が増えた結果、かなりの数の男性のテストステロン値が下がったと推測されます。当院でもここ2年受診者が増えており、更年期障害と診断するケースも多くなっています」(マイシティクリニックの平澤精一先生)
男性更年期は40~59歳。女性に比べて期間が長いので注意
「女性の更年期症状は閉経前後5年に起こるエストロゲン値の低下に起因し、閉経後5年程度で落ち着くのが一般的。
しかし男性はテストステロンの減少による男性機能の低下や自律神経の乱れといった症状が40歳以降に出始め、そのまま50歳代後半まで続くケースも。男性更年期障害は40~59歳の患者が非常に多いのです」
テストステロン低下の病名は加齢性腺機能低下症(LOH症候群)。テストステロンの減少は他にも認知機能の低下や抑うつ症状、睡眠障害などを引き起こし、糖尿病やメタボなど生活習慣病にも関係するといわれている。
それらが合わさって、長きにわたり複雑な病態を示すのが男性更年期障害の特徴。決して甘く見ないように。
まずはAMSチェックを。27点以上ならば更年期外来へ
最近疲れやすいしヤル気も起こらない。お腹も出てきた…。もしかしてこれ、更年期? そんな気になる兆候が出てきたら、下のリストをチェックしてみてほしい。
「これはAMSスコアと呼ばれ、メンズクリニックでも男性更年期障害の有無を判定するために使っています。加齢による男性の肉体的、精神的症状17項目について、それぞれを1~5点で自己評価。合計点を算出するものです」
1点=症状なし。2点=軽い症状がある。3点=中等度の症状。4点=重い症状。5点=非常に重い症状。
合計が26点以内なら問題ないが、27点以上だと男性更年期障害の疑いが。日本メンズヘルス医学会のHPで専門医を検索、受診しよう。
男性更年期指数チェックリスト
- 総合的に調子が思わしくない(健康状態、本人自身の感じ方)
- 関節や筋肉の痛み
- ひどい発汗(思いがけず突然汗が出る。緊張や運動とは関係なくほてる)
- 睡眠の悩み(寝つきが悪い、ぐっすり眠れない、寝起きが早く疲れが取れない、浅い睡眠、眠れない)
- よく眠くなる、しばしば疲れを感じる
- いらいらする(当たり散らす、些細なことにすぐ腹を立てる、不機嫌になる)
- 神経質になった(緊張しやすい、精神的に落ち着かない、じっとしていられない)
- 不安感(パニック状態になる)
- カラダの疲労や行動力の減退(全般的な行動力の低下、活動の減少、余暇活動に興味がない、達成感がない、自分をせかさないと何もしない)
- 能力の低下
- 憂うつな気分(落ち込み、悲しみ、涙もろい、意欲が湧かない、気分のムラ、無用感)
- 「人生の山は通り過ぎた」と感じる
- 力尽きた、どん底にいると感じる
- ひげの伸びが遅くなった
- 性的能力の衰え
- 早朝勃起 (朝勃ち)の回数の減少
- 性欲の低下(セックスが楽しくない、性交の欲求が起きない)
朝勃ちの頻度が減ったら更年期のわかりやすいサインだ
上のAMSスコアにも項目があるが、早朝勃起、つまり朝勃ちの回数が著しく減ったと感じたら、男性更年期のわかりやすいサインと考えましょう、と平澤先生。
「テストステロンは性機能に関わっており、男性更年期障害を発症すると朝勃ちの減少という形で表出します。同時に性欲が減り、日常の勃起回数も減ったと感じたら、発症の可能性が高いです」
あとは、何事にもやる気が出ないような場合も男性更年期の検査を。先に挙げたようにテストステロンの減少がうつ症状につながる可能性もあるので、更年期に特化した治療のアプローチが必要となる。
いずれにせよ、早めに対処すれば回復も早くなる。ズルズル引きずらないのが肝心。
検査でテストステロン値が基準以下なら補充療法を
男性更年期の疑いアリ、でいざ泌尿器科やメンズクリニックへ。そこではどんな診察を?
「まずは問診を、次に血液検査を行います。ここでは総テストステロンではなく、加齢とともに有意な減少を示す遊離型テストステロンの血中濃度を調べるのですが、値が8.5pg/mLを下回るとLOH症候群と診断され、治療の対象となります」
減った分のテストステロンを補うには注射による補充が対症療法として効果的で、健康保険の適用も受けられる。
本来は定期的な注射が必要だが、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)や柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)といった、テストステロンの増加につながる漢方薬も併せて処方することで、体内の値を安定させることも可能だ。
抗酸化物質や亜鉛の摂取や適度な有酸素運動が効果的
日常生活でテストステロンを増やすには、まずは食生活から。
「牡蠣や牛肉に含まれる亜鉛、魚類や肉類、きのこ類に含まれるビタミンD、ニンニクや玉ネギ、ニラなどに含まれるアリシンをしっかり摂りましょう。
テストステロンを作る精巣は活性酸素による酸化に弱いので、抗酸化力が非常に強いアスタキサンチンも必須。サケの切り身に豊富です。中年以降は食が細くなりますが、牛肉や魚を意識的に摂ることがテストステロンを増やすための鍵です」
もちろん運動も大事。週数回の有酸素運動を基本に、時折筋トレも交えるよう心掛けたい。あとは睡眠不足や過度の飲酒を避けるのも肝心。生活習慣の改善は、男性更年期からの回復にもつながる。