“グルコース・トキシティ”の恐怖
糖質は、全身の細胞のエネルギー源。
私たちは、カロリーの約6割を糖質から摂る。糖質は、ご飯やパンといった主食の穀類に多い。摂った糖質は、血中に出て血糖となり、血糖値を上げる。細胞が安定的に利用できるように、血糖値は低すぎず高すぎない70〜110mg/dLに調整されている。
この調整がうまくいかず、血糖値が高い状態が続くのが高血糖。高血糖が診断基準を超えると、糖尿病となる。では、高血糖は、血流と血管にどのような悪さをするのだろうか。
「糖質はエネルギー源である反面、高血糖だと“糖毒(グルコース・トキシティ)”になり、血管の内側を覆う血管内皮細胞にダメージを与えます。膜で包まれた細胞の浸透圧を狂わせ、機能低下を招くのです」(東京医科大学病院の冨山博史教授)
血管内皮細胞の働きが落ちると、血栓という血の塊が生じやすく、血流が悪くなる。また、高血糖だと、血糖値を下げるインスリンというホルモンの効き目が落ち、より高血糖になりやすいという悪循環に。
糖尿病で怖いのは、網膜症、腎症、神経障害という3大合併症。いずれも糖毒で毛細血管が傷害されて生じる。網膜症で年間約3000人が失明するという。
真剣な予防を。
健康診断で合格でも高血糖? 食後高血糖に注意
健康診断で、糖尿病かどうかを判断する基準はおもに2つある。1つは空腹時血糖値、2つ目はヘモグロビンA1c(HbA1c)だ。HbA1cは、赤血球中で酸素を運ぶヘモグロビンにくっついている血糖の割合。過去1〜2か月の血糖値の平均を示す。
困ったことに、空腹時血糖値とHbA1cが合格でも、高血糖で血管が傷つけられているケースもある。それが食後高血糖。食後高血糖とは、食後2時間後の血糖値が140mg/dLを超えるもの。
食後高血糖が起こると、血糖値を下げるインスリンが出すぎて効きすぎるため、血糖値が急降下。一転、低血糖に陥る。これが反応性低血糖。食後、眠気や集中力低下があるなら、食後高血糖と反応性低血糖のダブルパンチに見舞われている恐れがある。
「内皮細胞をはじめとする血管の細胞は生きています。一日の寒暖差が大きくなると体調を崩すように、血糖値の乱高下はストレスとなり、血管に悪影響が及ぶのです」
糖尿病の基準
- 空腹時血糖値:126mg/dL以上
- OGTT2時間値:200mg/dL以上
- 随時血糖2時間値:200mg/dL以上
- HbA1c:6.5%以上
OGTT(経口糖負荷試験)は、10時間以上絶食後に糖質75g入りの液体を飲み、血糖値の推移を検査するもの。随時血糖値とは、食事のタイミングを問わずに採血して測った血糖値。上記の基準が2回確認されると糖尿病と診断される。
運動は1日6000歩から始める
運動不足は、心臓病や脳卒中といった脳心血管疾患の危険因子。逆に、適度な運動で、脳心血管疾患のリスクは下げられる。高血糖に関しては、運動は短期的にも、長期的にもメリットがある。
糖質を多く含む食事をした後、散歩などで軽くカラダを動かすと、そのエネルギー源として筋肉で血糖が消費されて、血糖値は上がりにくくなる。これが短期的なメリット。
さらに運動を続けると、血糖を取り込む輸送体(GLUT4)が増えたり、血糖値を下げるインスリンの効き目が良くなったりする。これが長期のメリットだ。
激しい運動は継続しにくいが、血流と血管を守る運動は軽めからスタートしてOK。
「高すぎる血糖値や血圧を下げるには、1日6000歩くらいのウォーキングでも、ある程度の効果が期待できます」
ウォーキングで運動習慣がついたら、ジョギングや筋トレなどにも挑んでみよう。
ウォーキングが血糖値を下げる効果
小腹を満たすならケーキより玄米おにぎり
高血糖や糖尿病が心配なら、まずは糖質の摂りすぎを控えよう。前述した日本人が糖質から摂るカロリーのうち、その3分の2をご飯やパン、麺類など穀類から摂っている。大盛り、ラーメン+ライスなどのダブル糖質を避けるのが、初めの一歩だ。
量を抑えたら、その質にも目を向ける。
スイーツや、バナナなどの甘い果物に入っている砂糖やブドウ糖といった糖質は、分子量が小さくて構造も簡単な単純糖質。スピーディに分解・吸収されるので、食後高血糖を起こしやすい。控えめにしよう。
穀類の糖質は、ブドウ糖を多数連ねたでんぷん。分子量が大きく構造も複雑な複合糖質で、単純糖質より血糖値を急に上げにくい。ただし、白米や食パンのような白っぽい穀類は、精製度が高くて食物繊維が少なく、単純糖質並みに血糖値を上げやすい。
穀類を選ぶなら、玄米や雑穀米、もち麦、全粒粉パンなど、精製度が低く食物繊維が多く、血糖値を上げにくいものをチョイス。
肉を食べるなら焼き肉よりしゃぶしゃぶ
糖質さえ控えれば、高血糖の弊害から逃れられるわけではない。糖質を抑えても、過食をすると、肥満へまっしぐら。太ると血圧は高くなりやすいし、インスリンの効き目が落ちて高血糖を招く。食べすぎは禁物だ。
太らないために、初めに脂質の摂りすぎをセーブ。
揚げ物をパスし、肉は脂質が少ない赤身部位を選ぶ。そして肉を食べるなら焼き肉よりしゃぶしゃぶなどの茹で肉で。余分な脂質が落ちてカロリー過多が避けられるし、悪玉物質の発生も未然に防げる。
その悪玉物質は、揚げ物やグリルなどの高温加熱で糖質とタンパク質が結びついて生じる“AGEs(終末糖化産物)”。
細胞には、AGEsをキャッチするRAGEという受容体がある。AGEsがRAGEと結合すると、有害な酸化を招く活性酸素の発生が盛んに。酸化で血管内皮細胞の機能が落ちると、動脈硬化リスクが上がる。AGEsは、食後高血糖でも体内で合成されるから要注意だ。