高さ1.8mの水圧が1日10万回!
健康診断で「血圧高めですね。気を付けましょう」と医師からアドバイスされても、多くの人は何も手を打たない。血圧が多少高くても、痛くも痒くもないからだ。
だが、高血圧は、大事な血管に、静かに深刻なダメージを与え続ける。そもそも血圧とは、心臓から押し出された血液が、血管の内側の壁を押す力のこと。
「血圧の単位は、水銀柱をどのくらい押し上げるかが基準です。たとえば、血圧140mmHgは、水銀柱を14cm押し上げるという意味。これを水に置き換えると、約1.8mの高さまで噴き上げる圧力です」(東京医科大学病院の冨山博史教授)
心拍数が毎分70拍だとすると、24時間で約10万拍。1日約10万回も、水を1.8mも押し上げる力がかかり続けたら、血管に悪いのは当然。高い圧力に耐えるために血管は硬くなり、動脈硬化が進んでしまう。
まずは血圧測定を習慣に。家庭用の血圧計は6000円程度で買えるから、毎朝起きてトイレを済ませたら、血圧測定しよう。
「血圧はちょい高めでもOK」は間違い
血圧には、収縮期血圧(上の血圧)と拡張期血圧(下の血圧)がある。収縮期血圧は心臓が縮み、血液をドクンと拍出したときの血圧。拡張期血圧は、組織を巡った血液が戻り、心臓が広がったときの血圧だ。
日本高血圧学会が定めたもっとも望ましい血圧は、上が120mmHg未満かつ下が80mmHg未満。上が140mmHg、下が90mmHgを超えると、高血圧と診断される。この基準に照らすと日本人の高血圧患者は約4300万人。国民の3人に1人だ。
これだけ高血圧患者が多いのは、基準が厳しすぎるせいだという主張もある。血圧は加齢に応じて上がるから、上の血圧の基準は100+年齢でちょうどいいという声も聞くけれど、どちらが正しいのか。
「血圧は100+年齢でいいというのは、人生60年時代の話。人生100年時代は、昔より40年ほど血管を長持ちさせる必要がある。血管に加わる負担を少しでも減らすため、正常血圧を目指すのが正解なのです」
血圧の基準
正常血圧 | 収縮時血圧120mmHg未満かつ拡張時血圧80mmHg未満 |
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正常高値血圧 | 収縮時血圧120~129mmHgかつ拡張時血圧80mmHg未満 |
高値血圧 | 収縮時血圧130~139mmHgかつ/または拡張時血圧80~89mmHg |
Ⅰ度高血圧 | 収縮時血圧140~159mmHgかつ/または拡張時血圧90~99mmHg |
減塩は基本。加えて排塩にも配慮する
高血圧対策のキモは減塩。塩分を摂りすぎると、浸透圧を一定に保つため、血液中の水分量が増えて血圧が上がる。また過剰な塩分は、自律神経の交感神経を緊張させて血管を縮めるため、血圧は高くなる。
減塩で血圧が下がりにくい体質の人もいるが、おおむね血管を健全に保つ血管内皮細胞の機能は上がり、動脈硬化のリスクは下がる。
日本人は1日10g程度の塩分を摂る。これを6g未満にするのが理想。醤油や味噌は減塩タイプを選び、麺類のスープ、インスタント食品など塩分が多い食品を控えたい。
さらに大切なのは、塩分(ナトリウム)を排泄する働きがあるミネラルの摂取。高血圧の治療食・DASH食では、塩分排泄系のミネラルとしてカリウム、マグネシウム、カルシウムの摂取を薦める。カリウムは野菜や海藻、マグネシウムはナッツや海藻、カルシウムは牛乳・乳製品、小魚に豊富だ。
「いずれも塩分と同時摂取が有効。味噌汁に海藻を入れるのは理に適っています」
太ると血圧も上がる。まずは体重コントロール
高血圧は自覚ほぼゼロなのに、動脈硬化を進め、心臓病や脳卒中の危険度を高める。高血圧と診断され医師に指示されたら、血圧を下げる薬(降圧剤)を飲むことになる。
ただし、降圧剤で下がるのは10〜15mmHg程度。健常者も、興奮したり、カッカしたりするだけでも、血管が縮んで血圧は上がる。高血圧患者に限らず、血圧を下げる地道な努力は、怠らないようにしたい。
高すぎる血圧を下げるため、減塩や排塩と並んで取り組みたいのは、ダイエット。
「太っていると、交感神経が高ぶり、血管を縮めるため、血圧は上がります。また、交感神経が興奮すると、腎臓でナトリウムの排泄を抑えてしまうため、血圧はさらに上がりやすくなるのです」
3kg太ると血圧は10mmHg上がるとか。逆に言うなら、太った人が3kg痩せたら、血圧は10mmHgほど下がる。つまり減量には降圧剤に匹敵する効果があるのだ。身長と体重で求めるBMIを22前後に保とう。
【BMIの求め方】
BMI=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)
身長170cmで体重70kgなら、BMI=70÷1.7÷1.7≒24。BMI25以上が肥満で、BMI22が死亡率はもっとも低い。BMI18.5未満の痩せすぎも不健康なので、厚生労働省が定めるBMIの目標は18〜49歳が18.5〜24.9、50〜69歳が20.0〜24.9、70歳以上が21.5〜24.9である。