日々進歩する医療。現代の科学をもってすれば、血液検査で不定愁訴の原因究明や、がんの超早期発見まで叶う!? 一体、血液検査はどこまで進んでいるのか。先進医療に詳しい本間先生に聞いた。
一般的な血液検査は言ってみれば、代謝機能の低下や病気のリスクを洗い出すベースラインの方法。でもテクノロジーの発達によって、血液という検体からさらにさまざまな不調の原因や病気を見つけ出すことが可能になっている。
では、一般にはあまり知られていない血液検査の最新事情はどうなっているのか? 興味津々の赤血球クン、白血球サンがそれぞれリサーチに乗り出した。訪ねたのは多くの自由診療を手がける〈スクエアクリニック〉の本間龍介先生。ふたりの悩みの原因を最新の血液検査で解明できるか?
本間龍介先生
教えてくれた人
ほんま・りゅうすけ/〈スクエアクリニック〉副院長。一般的な内科の保険診療だけでなく、完全予約制のデトックス外来、アスリート外来、ダイエット外来などの自由診療を手がける。共著に『最新の遺伝子検査でわかった アトピーが消えるたった1つの方法』(青春出版社)などがある。
赤血球クン
話を聞いた人
知的好奇心旺盛で、どんなことにでも興味がある。そんななかでも、健康ネタは大好物。
白血球サン
話を聞いた人
あまり表には出さないが、家の本棚には健康本や医学書ぎっしり。かくれ健康オタク。
最新事情① 不定愁訴の原因究明
赤血球クン
台風がやってくるせいか、頭が痛いんです。これっていわゆる「気象病」ってヤツでしょうか?
本間先生
気象病というのは正式な病名ではありません。とくにこれという治療法がないですし。
赤血球クン
はぁ、そうですね。台風が来る前に頭痛薬とか漢方薬を飲むくらいです。
本間先生
ただ、私のクリニックでここ数年多用している血液検査でもっと具体的な他の原因が分かるかもしれませんよ。
本間先生
ライム病(※1)とHHV6(※2)というヒトヘルペス6型の検査です。ライム病はダニ感染で起こる病気、HHV6は人間を宿主にするヘルペスウイルスの一種です。これらがいろんな不調や疾患の原因になることがわかってきているんです。
本間先生
神経系、関節系、慢性疲労、慢性頭痛、多発性硬化症(※3)の原因になることもあります。
本間先生
可能性はありますね。原因不明のいわゆる不定愁訴を抱えている人は結構な割合でこれらの細菌やウイルスに感染しています。慢性的に免疫力を破壊してじわじわ悪さをするのがライム病やHHV6なんです。
赤血球クン
そういえばコロナ禍になってから頻繁にキャンプに行くようになったな〜。もしかしてそのときダニに嚙まれたのかも。先生、そのレモンとHなんとか?の検査、すぐにやりたいんですけど!
本間先生
残念ながら国内の検査機関は限られていて、5年ほど前からアメリカの検査機関で一般の人の検体を受け付けています。
赤血球クン
今すぐ僕の血を採って、アメリカに送ってください!
※1:ライム病/マダニに嚙まれることで、持っている細菌に感染し、さまざまな神経症状や炎症が起こる。ジャスティン・ビーバーがカミングアウトしたことで話題となった。
※2:HHV6/ヒトを宿主とするヒトヘルペスウイルスで6番目に発見されたもの。子供の頃に感染し、普段はあまり悪さをしないが、再活性化が起こって不調が表れることもある。
※3:多発性硬化症/脳や脊髄、視神経などの神経がむき出しになり、視覚や味覚、運動機能などが低下する病気。性機能や排尿障害、慢性疲労などの症状も。
最新事情② がんの超早期発見
白血球サン
血液1滴でがんが分かるっていう検査があると聞きました。
赤血球クン
僕、祖父と叔母ががんに罹っていて家系的に心配で。
本間先生
ああ、それならマイクロRNA(※4)の検査ですね。
白血球サン
マイクロRNA? 普通のRNAとは違うんですか?
本間先生
マイクロRNAは文字通り小さなRNAで、従来は細胞の中でなんの機能も持たないと思われていました。でも近年、多くの遺伝子の機能をコントロールしていることが分かったんです。しかもがんなどの病気によって血液中に分泌されるマイクロRNAの種類が異なるといわれています。
赤血球クン
なるほど〜。血液検査でそのマイクロRNAを洗い出すんですね!
白血球サン
よくあるがんの検査とは何が違うんですか?
本間先生
腫瘍マーカー検査(※5)よりずっと早期にリスクを割り出せることが特徴だと思います。がんの芽が出る前のステージ0以前の段階で早期発見ができると考えられています。
ステージ0以前にリスクがわかる?
一般的ながんの血液検査ではがんが進行したステージⅢ以降で発見されることが多いが、マイクロRNA検査ではステージ0段階でのリスク判定も可能。
本間先生
現状は膵臓がんと乳がんの検査で主に使われていますが、正直まだ発展途上といった印象です。とはいえ、がんになる前に食事を変えたり抗酸化に努めたりという健康意識を持つことは、すごくいいことです。マイクロRNAは今後のトレンドになっていくと思いますよ。
赤血球クン
じいちゃん膵臓がんだったんでこの検査、受けたいです!
本間先生
残念ながら私のクリニックでは検査は受け付けてないです。がんを作らないようにすることが私の仕事なので。
本間先生
国内に検査機関(※6)があるので、そちらで受けてみてください。
※4:マイクロRNA/RNAのようにDNAの情報をコピーしてタンパク質を作り出さないので、ゴミ扱いされていたが、近年遺伝子を制御していることが分かり、注目を集めている。
※5:腫瘍マーカー/血液や尿に含まれるがん特有のタンパク質を検出する検査。このタンパク質はがん細胞やがん細胞に反応した細胞によって作られるので、ある程度進行した状態で結果が出る。
※6:国内に検査機関/マイクロRNA検査はアンチエイジングクリニックや人間ドックの専門クリニックなどで受けることができる。ただし、保険は利かない。
最新事情③ 脳の機能を検証する
白血球サン
先生、血液検査で脳の機能低下のレベルってわかるんですか?
白血球サン
なんか最近、物忘れがひどくて心配になってしまって。
本間先生
脳神経系細胞自己抗体検査という血液検査があります。
本間先生
脳の神経細胞のどこに抗体があるかを調べる検査です。
白血球サン
抗体って免疫システムでできるものですよね。一体、何に対する抗体が?
本間先生
自分の免疫細胞が誤作動を起こして脳細胞を攻撃し、その結果抗体ができるんです。たとえば海馬がダメージを受ければ短期記憶の能力が低下します。
白血球サン
自分で自分の脳を攻撃するんですか? 怖〜い。
本間先生
脳だけでなく甲状腺の病気や関節リウマチなども免疫の誤作動ですよ。こうした誤作動は自分とは違うDNAの子供を身ごもって出産をする女性の方が圧倒的に多いんです。胎児を攻撃するわけにいかないので、女性は男性よりある意味免疫機構が緩やかにできているからです。
白血球サン
え〜っ、じゃあ脳の免疫の誤作動も女性の方が多いんですか?
白血球サン
赤血球クンじゃないけど、がーん…ショック。でも先生、これも日本の検査機関じゃ調べられないんですか?
本間先生
おっしゃる通り。これもアメリカの検査機関に検体を送ることになります。
白血球サン
もし抗体が見つかったらどんな対策をするんでしょう。
本間先生
免疫力を上げるビタミンを摂取したり、自己免疫疾患を改善するサプリメントを摂ったり。グルテンやカゼインフリー(※7)の食生活を導入するという方法もあります。
白血球サン
きちんと管理しようとすると、私の脳細胞がパンクしそう。
本間先生
でも逆に、やれることがたくさんある面白い時代だと思いますよ。
※7:グルテンやカゼインフリー/小麦や乳製品を使わない食生活のこと。こうした食事を取り入れることによって腸内環境が整い、脳の認知機能の低下が防げる、または認知機能が向上するという説もある。
取材・文/石飛カノ イラストレーション/イマイヤスフミ(記事内)、AdobeStock(TOP画像) 取材協力/本間龍介(スクエアクリニック副院長)
初出『Tarzan』No.834・2022年5月26日発売
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