尻の垂れも下半身のむくみも「股関節まわりが硬い」から?
日常動作のほとんどに関与する股関節。本来は、安定性と稼働性どちらも兼ね備えた関節だが、運動不足だと容易に稼働性が低下する。痛みがないから気にしてないというなら、ちょっと待った! 股関節の動きが悪いことがあなたの悩みの原因かも?
取材・文/井上健二 イラストレーション/ニシワキタダシ 監修・取材協力/中野ジェームズ修一(フィジカルトレーナー)、宮森隆行(順天堂大学保健医療学部 理学療法士、医学博士)
初出『Tarzan』No.833・2022年5月12日発売
① 血液循環が滞り、下半身がむくむ
立っている姿勢では、血液のおよそ7割は心臓よりも下を巡っている。心臓には、血液を送り出すポンプ作用はあっても、血液を吸い上げる働きはない。心臓より上を巡る血液は重力に従い、心臓へ還流するが、心臓より下を巡る血液は、重力に逆らって戻ってくる必要がある。
そこで活躍するのが、下半身の筋肉。筋肉の伸縮で血管をリズミカルに刺激し、下から上へと血液を心臓へ押し戻す。これがミルキングアクション。「脚は第2の心臓」なのだ。
股関節がまともに働かないと、ミルキングアクションが十分機能しない。すると血液が下半身に溜まり、むくみが生じる。それが続くと下半身デブとなるばかりか、血流全体が滞り全身の代謝が落ちる恐れもある。
② カロリー消費が落ちて太る
立って行う動きのほとんどに、股関節は関わる。その股関節が衰えると、日々の活動量は自然と落ちる。
運動習慣がない人では、1日に消費するカロリーの約20%は、家事や通勤といった日常のアクティビティが占める。これを「NEAT(非運動性熱産生)」と呼ぶ。股関節がサビつくと、NEATがダウン。1日の消費カロリーは減ってくる。
太るか、痩せるかを決めるのは、食事からの摂取カロリーと、消費カロリーのバランス。摂取カロリーが変わらなくても、股関節が衰えたおかげでNEATが落ち、消費カロリーが減ると、エネルギー収支が黒字に。黒字分は体脂肪に変わり、太りやすくなる。痩せたいのなら、まずは股関節を動かして鍛えよう。
③ 足腰が衰えてお尻が垂れる
30代以降、筋肉は年約1%の割合で減る。なかでも衰えるのが、下半身。足腰から衰える理由は、股関節を動かさないから。すると、お尻の大臀筋と中臀筋から弱体化しやすい。
太腿の大腿四頭筋やハムストリングスなどは、股関節以外に膝関節の動きも担う。でも、お尻の筋肉が関わるのは、股関節のみ。ゆえに股関節が休眠すると、お尻は衰えやすい。
大臀筋が弱くなると、重力に負けてお尻が垂れ、脚が短く見える。
「さらに中臀筋が衰えると、歩くときに片脚立ちになるタイミングで、反対側のお尻が落ち、お尻を左右に振るモンローウォークに。それがクセになったタイプは、股関節の支持性が下がり、お尻の筋肉が弱体化している可能性大です」(順天堂大学保健医療学部の宮森隆行講師)
④ 厚底シューズでケガをしやすい
市民ランナーの間で大流行中なのが、厚底のランニングシューズ。反発力に優れたカーボンプレートを内蔵し、着地衝撃を効率的に推進力へスイッチ。走力を高めて、自己ベスト更新を強力に後押ししてくれる。
ところが、股関節まわりを強化しておかないと、厚底シューズの着用により、股関節周辺に痛みなどの故障が起こることがある。
「厚底だと、地面から素足までの距離が広がります。その分だけ、着地した脚は不安定になります。それを安定させる役目を担うのは、足首や膝関節よりも、股関節。厚底シューズで速く走ると、股関節まわりに加わるストレスが増えるため、事前に鍛えておかないと、そこにトラブルが生じやすいのです」(フィジカルトレーナーの中野ジェームズ修一さん)
⑤ 腰痛、坐骨神経痛が起こりやすい
股関節は、骨盤や腰椎と連携して働く。これを腰椎骨盤リズムという。
たとえば、お辞儀をするように上体を前傾させる際は、股関節の屈曲⇒骨盤の前傾⇒腰椎の屈曲が、順番に起こる。その姿勢を戻す際は、逆に腰椎の伸展⇒骨盤の後傾⇒股関節の伸展が、ドミノ倒し的に起こる。
股関節の動きが悪くなると、このリズムが乱れる。股関節がサボっている分、骨盤と腰椎の負担が増えるため、その周辺の筋肉のストレスに。それは、慢性的な腰痛の引き金だ。腰から脚へしびれや痛みが走る坐骨神経痛にも、股関節は一枚嚙む。
「お尻の奥にあり、股関節を外旋させる梨状筋が硬くなると、近くを通る末梢神経を圧迫。坐骨神経痛が起こるのです」(宮森先生)
⑥ スクワットで太腿だけが太くなる
スクワットやレッグプレスといった下半身の筋トレにせっせと励んだのに、太腿だけが太くなって困った経験はないだろうか? こうした不満の背景にも、股関節の不調がある。
「スクワットやレッグプレスは本来、股関節でリードしながら行うトレーニング。股関節が動きの軸になれば、太腿とお尻の筋肉がバランス良く発達します。ところが、股関節が固まって上手に使えないと、膝関節メインの運動となり、太腿ばかりに効きやすいのです」(中野さん)
下半身の筋肉を偏りなく肥大させたいなら、股関節をきちんと動かすことが大事。さらに、爪先ではなく、踵でしっかり荷重するように心掛けると、お尻にも刺激が入りやすい。