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腹を割るのにフッキンは不要! シックスパックの常識

腹を割るのにフッキン運動は不要。シックスパックの基礎知識

腹を割りたいなら、やっぱりフッキンしなくちゃね。かつてトレーニーたちはその言葉を信じて地味な上体起こしに精を出してきた。でも、バキバキに割れている人ほど、「フッキン? やってないよ」と口にする。 一体どういうことなのか?

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腹筋は生まれたときから割れている

生まれたときから、すでに腹は割れている 身体の構造 人体図

C・ロナウドのようなバキバキの腹と、ウェストからハミってるあなたの腹。実は基本構造は変わらない

肋骨と恥骨を繫ぐ腹直筋があり、脇腹にはタスキ掛け形状の内・外腹斜筋がある。長い腹直筋には縦一直線に“白線”、横方向には複数の“腱画”と呼ばれる腱があって、個人差はあるが多くは6つに仕切られている。ゆえにシックスパックというわけだ。

胎児のときからこの腹の構造は完成していて、オギャーと生まれるとき人はシックスパックでこの世にデビューする。なのにロナウドと自分のこの差は何かって? もちろん脂肪量の差。シックスパックは脂肪の下に埋もれているだけなのだ。

腹筋の表面は脂肪と筋膜でカバーされている

ちょっと失礼して、あなたのお腹の脂肪をめくらせてもらおう。ご覧の通り、そこそこ割れた腹直筋がご登場。一見、腹直筋の上にダイレクトに脂肪が乗っているようだが、脂肪と筋肉の間にはもうワンクッション存在する。それが、腹直筋鞘と呼ばれる膜だ。

筋の上に筋膜、皮下脂肪の層がある 腹内部を横から見たときの超音波画像

腹筋の上に筋膜・皮下脂肪の層がある/腹内部を横から見たときの超音波画像。一番下の黒い部分は腹直筋。その上の白っぽい層が腹直筋鞘という筋膜。その上に皮下脂肪の層がある。資料提供/川上泰雄

筋肉は筋膜、骨は骨膜というように全身のあらゆる組織は膜によって包まれている。腹直筋もまた、腹直筋鞘という筋膜によって表面をカバーされているのだ。

で、この腹直筋鞘の上に皮下脂肪が乗っかって、皮膚が全体を包み込む。筋膜のカバーは結構強靱。なので、筋肉の厚みがそこそこないと筋腹の隆起が見えづらい可能性もある。

腱画の上のポケットに皮下脂肪が溜まる

下の超音波画像はちょうど腱画のある部分を横から見たもの。

腱画上部の三角ポケットに脂肪は溜まる 超音波画像

腱画上部の三角ポケットに脂肪は溜まる/皮下脂肪には組成的に結合組織が多いものと脂肪組織が多いものの2種類がある。腱画近くのポケットに溜まりやすいのは後者だという。資料提供/川上泰雄

皮膚、皮下脂肪、腹直筋鞘の順番で層になっていて、腹直筋鞘が「V」字形に陥没しているところが腱画だ。腱画の部分には筋肉がほとんどないので、このように陥没する。

ところが、腱画の上にはぽっかり空いた三角形のスペースが。このポケットのようなスペースに皮下脂肪が溜まりやすいという。たとえば高齢の女性の場合、皮下脂肪の厚みは大体3cm程度。加えて、このポケットにも容赦なく脂肪は溜まる。

こうなると腱画のV字形状は外からまったく見えなくなる。全体的に体脂肪が減れば、ポケットの脂肪も減り、隆起が顔を出すはずだ。

腹割りの近道はやはり体脂肪減なのだ

筋肉の厚みがそこそこないと、腱膜越しに隆起は見えにくい。とはいえ、どれほど強烈なトレーニングをしてもへそ横の筋肉の厚みは2cm程度。水泳のオリンピック選手で2.2cm、健康的な大学生で1.5cm、高齢の女性で1cm以下だそう。

学生ボディビルダーの例を見てみよう。筋肉の厚みはオリンピック選手並みの2.2cmとマックス。さらに大会前、4か月かけて徹底的に体脂肪を絞る。

インカレ上位入賞の大学生ボディビルダー。筋肉の厚みはほとんど変わっていないが、体脂肪を絞ったことで筋肉の輪郭がより鮮明になっている

インカレ上位入賞の大学生ボディビルダー。筋肉の厚みはほとんど変わっていないが、体脂肪を絞ったことで筋肉の輪郭がより鮮明になっている。資料提供/川上泰雄

上段が絞る前で皮下脂肪の厚みは3mm。下段が4か月後で皮下脂肪厚は2mm。このレベルになると体脂肪減は至難の業だが、ボディメイクの熟練者も最終仕上げは体脂肪量を調節することを目指す。やはり体脂肪減が腹割りの肝だ。

米軍の体力テストでシットアップは時代遅れ

米軍の体力テストでシットアップは時代遅れ イラスト

腹筋運動の代表格といえば、クランチやシットアップ。なので腹割り志望者はみなせっせと上体起こしに励んできた。なにせ、かつて米軍では体幹の強さを証明するための体力測定テストにシットアップを採用していたのだから間違いない。

ところが、2015年頃から潮目が変わった。従来の腹筋運動は腰や背中を痛めるリスクが高く、しかもリアルな軍の作業と関連性が低いのでは? という論調が高まり、2022年春の新たなテストではシットアップに代わってプランク懸垂が導入されたという話。

「シットアップ=時代遅れ」論には未だ賛否両論あるが、「シットアップ=テッパン」時代は過去になりつつある?

インナーユニットの働きで腹筋の存在感が増す

手で触れる表層の筋肉をアウターマッスル、その下にある深層の筋肉をインナーマッスルという。腹の正面付近ならアウターの筋肉は腹直筋、インナーの筋肉は腹横筋だ。前者の働きが背骨の屈曲だとすると、後者のそれは腹圧を保つこと。

腹横筋は上部にある横隔膜、背後にある多裂筋、下部にある骨盤底筋群とユニットを組んで腹圧を保っている。

インナーユニット 人体図 イラスト

インナーユニット/腹部をハラマキのようにぐるりと覆っている腹横筋、背骨に沿って走る細かい多裂筋、肋骨の下にあるドーム状の横隔膜、そして骨盤の底を支える骨盤底筋群がインナーユニットを構成。

ビルダーのポージングは腹圧をかけて腹を思い切り凹ませつつ、腹直筋を下支えしている状態。こうした腹圧なしに、鍛えた腹筋を目立たせることはできないのだ。つまり、腹直筋の厚みがそこそこあってもインナーの筋肉がへなちょこでは、宝の持ち腐れということ。

フッキンより全身運動の方が有効

シットアップやクランチは、いってみればとってもローカルな運動。腰椎を屈曲させるために腹直筋のみを収縮させるだけなので、エネルギー消費はほとんど見込めない

一方、動員される筋肉の体積が大きく、数が多いほどエネルギー消費は増す。たとえばスクワット。インナーとアウターの腹筋を協調させて体幹を固定しながら下半身の大筋群を動員するので、全身の連動性の鍛錬とエネルギー消費が見込める。つまり、グローバルな全身運動では体脂肪減と同時にパフォーマンスを向上させる適度な腹筋が手に入る。

脂肪は少なく筋肉はそこそこに。これぞ令和の“腹割り道”。

下腹に溜まりやすいのは、重心があるせい

腹割りの経過を観察すると、多くの場合、腹直筋上部からその存在の主張が始まる。下腹が割れ始めるのは後半で、最終コーナーで「セクシー筋」と呼ばれる腹斜筋の境界が現れ、理想の腹が出来上がる。

ではなぜ、下腹に行くほど脂肪が溜まりやすいのか? 考えられる可能性のひとつは、下腹には全身の重心が存在しているから

安静時の全身の重心の在り処を示すイラスト

安静時の重心の在り処/安静時の全身の重心の在り処は、へそからおよそ指3本分下の奥にある。すべての動作の基点となる部分だけに、最後まで脂肪が残りやすいと考えられる。

重りである脂肪はカラダの中心の重心近くに据えて、末端をできるだけ軽くしておくと手足は動かしやすい。すべての動作の中心は下っ腹に存在する。ならば動きが少ないフッキンよりも重心から離れた部分をたくさん動かす全身運動の方が、下腹の脂肪も落ちるしパフォーマンスも維持できる。

日常生活で腹筋はほとんど使われていない

一般的な生活を送ってると、実は腹筋はほとんど使われていない。下日中の活動時の筋電図だが、腹筋は終始ほぼフラット状態。

筋肉の活動を計測した筋電図

筋肉の活動を計測した筋電図。広背筋や、腓腹筋、ヒラメ筋といったふくらはぎの筋肉は比較的収縮しているが、腹直筋や大腿直筋はほとんど収縮していない。縦軸はフルスケールで100%。川上泰雄未発表資料より抜粋

ついでに言うと、太腿の大腿直筋も同様にほぼフラット。意外なようだが、走ったり階段を使わない限り太腿の筋肉はウンともスンとも言わないのだ。

こんな日常生活を送りながら一日数分シットアップだけせっせと行っても、焼け石に水。繰り返しになるが、それよりもスクワットランジなどの複合的な運動で腹筋を含む多くの筋肉を動員させる方が、断然効率的と言えそうだ。

さて諸君、それでも頑なに腹筋運動ひと筋で腹割りを目指しますか?

取材・文/石飛カノ イラストレーション/泰間敬視 取材協力/川上泰雄(早稲田大学スポーツ科学学術院教授)

初出『Tarzan』No.832・2022年4月21日発売

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