心を落ち着かせる1/fゆらぎ。「ピンクノイズ」を生活に取り入れよう
疲れない空間作りのためにできることは何だろう。キーワードは「ピンクノイズ」。6つのケースから和める環境を整える方法を学ぼう!
取材・文/井上健二 イラストレーション/藤田翔 取材協力/菅原洋平(ユークロニア代表、作業療法士)
初出『Tarzan』No.831・2022年4月7日発売
目次
ゆらぎのある環境が心を落ち着かせる
疲れているときでも、海や山で自然に触れたりすると、不思議と癒やされて何となく気分が楽になる。それは山の神や海の神の恵みでもなければ、マイナスイオンの御利益でもない。ピンクノイズのおかげなのだ。
ピンクノイズとは、一定の規則性に、ちょっとした不規則性を含むノイズ(不要な情報)のこと。いわゆる“1/fゆらぎ”を持っている。打ち寄せる波音、木漏れ日、小鳥のさえずりなど、自然界はピンクノイズで満ちている。
「ヒトも自然の一部。心拍や呼吸、神経細胞の活動などもピンクノイズでリズムを刻んでいます。自然に間近で触れると、自身のリズムとシンクロするので、疲れが癒やされるのです」(作業療法士の菅原洋平さん)
近代的なオフィスのように、照明も空調もインテリアも人工的な空間は、ピンクノイズに乏しい。こうしたオフィスで長時間過ごすと、シンクロできない脳のストレスとなり、疲労が溜まる。自席でじっと坐りっぱなしでも、夕方になると疲れを感じるのは、ゆらぎの少ない環境にずっと置かれているせいなのだ。
ピンクノイズに乏しい空間が招く「環境疲れ」を避けるには、休みの日にキャンプや小旅行で自然に触れるのがいちばん。だが、毎週のように出かけるわけにもいかないだろう。そこでピンクノイズを導入し、疲れにくい環境作りをするためのヒントをケース別に紹介しよう。
「どのゆらぎ成分が合うかは個人差も大きい。環境を言われた通り整えて終わりではなく、自分が同期できて癒やされる環境を能動的(アクティブ)に作るようにしてください」
ピンクノイズとホワイトノイズの違い
ほどほどに雑然としている空間 VS 何もない空間
ゴミ屋敷のように、足の踏み場もないほどモノで溢れ返り、雑然としすぎる空間はノイズが多すぎて落ち着かないもの。情報量がトゥーマッチで脳が疲れてしまう。だからといって、断捨離しすぎたミニマリストの部屋のように生活感ゼロでガランとした空間も、ゆらぎがなさすぎて脳は疲弊する。
「トータルでは秩序を保ちつつも、家具の配置を少しズラしたり、あえて不要なモノを置くなどして、さりげない崩しをプラスするのが正解です」。
焚き火をする VS ユーチューブで焚き火動画を見る
ロウソクの炎や焚き火はゆらぎが豊かなピンクノイズの好例。動画投稿サイトにはリラックス用に焚き火動画が多数上がっている。その視聴も悪くないが、やはり実際に焚き火をする方が効果的。
「焚き火には動画で味わえる視覚と聴覚情報以外に、熱や香りの変化、空気の対流といったピンクノイズを含みます。五官からの入力ルートが多いほど脳は現状把握できて安心するので、リラックスします」。
より手軽にキャンドルを灯すのもいいだろう。
外界の自然な音と風が入る環境 VS 窓が開かない空調の効いた環境
ゆらぎが欲しくても、オフィスを勝手に改装するわけにはいかない。でも在宅勤務が当たり前になった今なら、自宅のワークスペースをピンクノイズで満たすことは可能。それで仕事の疲れも癒やされるに違いない。
意識したいのは、太陽光や風といったゆらぎ成分を取り入れやすい環境作り。換気を兼ねて窓を開け放ち、開放的な空間で刻々と移ろう地球の息吹を感じよう。事情が許すなら、テレカンには近所の緑豊かな公園からの参加もアリ。
造形物を置く VS ポスターを貼っておく
無味乾燥で殺風景な部屋より、インテリアのアクセントとなるようなアートが飾られている空間の方が、ゆらぎ度はアップする。どうせ飾るなら、ポスターのような2次元モノがいいのか、それとも彫刻のような3次元モノがいいのか。
「3次元モノだと、光の当たり具合で陰影が生まれて変化しますから、2次元モノよりゆらぎ成分は多いといえます」。アート作品に限らず、雑貨や観葉植物などの立体物を置くのも、ゆらぎ度がアップして◎。
紙の本の読書 VS 電子書籍での読書
読書は緊張をほぐす副交感神経を優位にするとか。電子書籍で読書する人も増えたが、疲労回避を優先するなら紙の本で読んだ方がいい。
「デジタル媒体を見るだけでエネルギー消耗が激しく、脳は想像以上に緊張を強いられる。本を読むなら、紙の本を選ぶ方が疲労は溜まりにくい」
ちなみにパソコンやスマホに表示される文字より、手書き文字の方がゆらぎ成分は多い。たまには手紙や葉書を手書きしてみるのも疲労回復につながりそうだ。
作家モノの食器 VS 大量生産の食器
天然モノに直線はないといわれる。自然が作る造形は画一的ではなく、ゆらぎ成分に満ちている。丁寧な手仕事で作られる作家モノの器も、原材料の土の質や窯での焼き入れ具合などで変化するから、自然とのコラボで生まれるようなもの。
一つひとつ違った表情があり、ピンクノイズに富む。工場で機械が作るゆらぎのない安価な大量生産品よりも、多少高くても自らの波長に合うお気に入りの作家モノの器を選び、身近に置いて愛用しよう。