幅広い年代に見られる疾患「肉離れ」のメカニズム
トレーニングをしていると耳にする「コンディショニング」という言葉を、詳しく紐解いていく「コンディショニングのひみつ」連載。第24回は、中学生から高齢者にまで幅広く見られる疾患「肉離れ」について。
取材・文/黒澤祐美 漫画/コルシカ 監修/齊藤邦秀(ウェルネススポーツ代表)
初出『Tarzan』No.831・2022年4月7日発売
「肉離れ」にも種類がある
過去の回ではランナーに起こりがちなランニング障害の原因や治療について考えてきた。ここからはさらに分野を広げ、さまざまなスポーツやトレーニング中に起こりうる「スポーツ障害」のコンディショニングについて考えていくとしよう。
今回は、中学生から高齢者にまで幅広く見られる疾患「肉離れ」について。
肉離れとは、“スポーツ動作中に急に筋肉が切れたように実感するとともに痛みを感じ、運動の継続が困難となる状態”であると日本スポーツ協会で定義されている。肉離れは、いつ、どこで、どのように受傷したかによって「スプリント型」と「ストレッチ型」とに大きく分けられる。
スプリント型
スプリント型は、短距離走でダッシュをしたときやサッカーのシュート動作時、バスケットボールでステップを切ったときなど、筋肉が伸張されながら同時に強く収縮する伸張性(遠心性)収縮が働いて起こるもの。
ストレッチ型
一方ストレッチ型は、ベンチプレスなどの反動をつけた動作や格闘技中に相手に押し倒されて転倒するなど、外力によって強制的に筋肉が引き伸ばされることで生じるものを指す。
「肉離れ」いつ、どこで起こる?
発生率が高い競技は陸上競技、サッカー、ラグビー、体操、バスケットボールなどで、部位としてはハムストリングス、大腿四頭筋、ふくらはぎに多く見られる。
軽度の場合は自覚症状がなく、重症度によって「走っているときに痛みを感じる」「急に強い痛みを感じて歩くことが難しくなる」といった症状が表れる。
また肉離れは急激に筋肉が収縮する際に起きる断裂であることから、断裂した際に音が聞こえることもまれにある。確かな症状だけでなく、もしかすると肉離れかもしれないという違和感を覚えながらそのまま運動を続けると痛みが長引いてしまうため、早いうちに治療に移ることが大切だ。
「肉離れ」の治療と予防
肉離れであるかどうかの自己判断は難しいため、医療機関を受診することが望ましい。X線撮影やMRIを受けると、腱に損傷がなく筋肉内に出血が見られる「軽症型」、筋腱移行部の部分断裂が見られる「中等症型」、そして筋腱移行部の完全断裂または完全剝離の「重症型」と分類され、復帰までの目安が1〜2週間、4〜6週間、3か月以上といわれている。
肉離れを受傷した場合はまず安静を保ち、初期治療としてアイシングと圧迫で保存療法を行うのが基本。医療機関では松葉杖を用いて絶対安静を強いられる場合もある。
アイシングは1回15〜30分、1日3回程度とし、痛みのピークが過ぎたら血行促進のためのストレッチやエクササイズに移る。
なぜ血行促進か。それは、肉離れが柔軟性の低下や筋力の回復が十分でないことが原因の再発率が高い疾患であるため。患部の発熱や腫れなどの炎症期が過ぎたら、患部以外の部位から筋力トレーニングを取り入れることが重要となる。
下で紹介しているエクササイズは、特に肉離れが発症しやすいふくらはぎと大腿四頭筋のストレッチ。ただし症状を治すためのものではなく、予防のためのものである。
予防ストレッチ
運動前後に取り入れて筋肉本来のしなやかさを保持しておくことで、急激な筋肉の収縮にも耐えうる状態に整えよう。
復習テスト
答え:伸張性筋収縮