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マラソンなど陸上長距離種目では、東アフリカ出身のランナーが世界を席巻している。彼らの強さの一つが、バネを活かした走り。ならば、バネを鍛える方法を探ってみよう。理論派・吉岡利貢コーチに伺いました。
吉岡利貢さん
よしおか・としつぐ/1978年、兵庫県生まれ。静岡大学卒業。筑波大学を経て、環太平洋大学体育学部教授、陸上競技部コーチ。中長距離ランナーの体力や練習法を研究。博士(体育科学)。
目次
改めて考えると、ランニングでいうバネとは、ふくらはぎの下腿三頭筋とアキレス腱が一体化して生み出すもの。着地時に地面を強く踏むと、同じだけの反力が得られる。そのエネルギーをタイミングよく解放して、爆発的な推進力を生み出すのだ。
「ランニングの燃費を意味するランニングエコノミーの大きな部分を、このバネの良し悪しが左右するといわれています」(環太平洋大学陸上競技部の吉岡利貢コーチ)
そのバネ力を引き出すのが、ランの着地時&蹴り出し時の「伸張・短縮サイクル運動(SSC)」を高めるプライオメトリック・トレーニング。着地時に引き伸ばされて弾性エネルギーを蓄える腱の働きと、それに続く脚の筋肉の収縮力を高めるトレーニング法である。ここでは、“バネトレ”と呼ぼう。
吉岡コーチは、以前からバネトレの効用に着目していた。その指導でバネトレを実践した環太平洋大学の源裕貴選手は、2021年7月に実に7年ぶりとなる男子800mの日本タイ記録(1分45秒75)を叩き出すなど、着実に成果を出している。
「少ない努力で速く走るための原理・原則は、中距離でも長距離でも基本的に同じ。800mのような中距離でのバネを活かした走りが、長距離でも行えたら、ランエコが改善するようになり、最後までバテないで走り続けることができます」(吉岡利貢コーチ)
今回は、源選手も日頃行っているバネトレを、本人実演で5つのステップで紹介する。高いところから着地すると衝撃が大きくなり、足腰のストレスも増えて故障が心配なので、芝や土などのソフトな地面で試そう。
これを週2〜3回ペースで行うとバネ力が高まり、ランエコが向上して軽やかに走れる。また練習やレース直前に行うとバネ力が呼び覚まされ、走りが効率化するという短期的な効能もある。一度試してほしい。
上下方向のバネを養う
両足を腰幅に開いて立ち、その場で繰り返し高くジャンプ。着地に合わせて腕を後ろから下に強く下ろし、短い接地時間でジャンプを繰り返す。
上下方向のバネをさらに強化
ボックスを2個置いて、その間に立つ。そこでリバウンドジャンプを行い、跳び上がったらボックスに着地してから、再び地面に着地する。高い位置から跳び下りるので、よりプライオメトリック・トレの効果が高くなる。
弾んだ力を股関節の動きに
膝の高さよりやや低いハードルを等間隔で4台並べる。両腕を後ろから前に振りながら、股関節だけを曲げて膝を引き付けて跳び上がる。ハードルを越えたら、スクワット時の沈み込んだ姿勢で太腿後ろ側のハムストリングスに効かせて着地する。
前進するようバネの力を伝える
フレックスジャンプのときよりも、ハードルを少し高くする(源選手は85cm)。腕を後ろから前に振りながら、両脚を揃えたままで、ハードルをリズミカルに跳び越えていく。1台目は、少し離れて軽く助走してから跳ぶ。
ランニングの動きにつなげる
スキップをするときは、誰でも無意識にバネを使っている。これまでのトレーニングでバネ力を引き出したタイミングで、スキップを行い、水平方向へバネを使って走る動きにつなげる。伸ばした両腕を前後に大きく振りながら、高く跳ぶよりも、前進することを意識。
源裕貴さん
みなもと・ひろき/1999年、山口県生まれ。地元の美祢青嶺高校に進み、陸上競技を始める。両親とも陸上選手で、父は全国高校駅伝に出場経験アリ。兄も水泳選手というアスリート一家。
高校で陸上を始めた源選手は、高校で競技生活を終える予定だった。
「ところが、ラストイヤーの国体で自己ベストが出た。ここでやめたら後悔すると思い、大学に進んで競技を続けることにしたのです」(源さん)
入学直後にバネトレを始めたが、最初は戸惑いもあったという。
「当初はうまくできなくて、正直懐疑的でした。でも、先輩にも教えてもらい、姿勢を意識して続けたら、記録が伸びた。一歩の力が上がり、ストライドも伸び“バネバネしい”走りができるようになりました」(源さん)
2022年に大学を卒業する源選手は実業団で競技を続ける。今年の世界陸上競技選手権大会では800m、パリ五輪では1500mでの出場が目標。バネバネしい走りに今後も大注目だ。
取材・文/井上健二 撮影/山城健朗
初出『Tarzan』No.820・2021年10月7日発売