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「アスリートのうんち」から見える腸活の未来──福田真嗣×鈴木啓太

腸内環境の全容解明を目指す研究者の福田真嗣さんと、元アスリートで750人以上の一流選手の便を分析する取り組みを続ける鈴木啓太さん。二人が運動と腸を語り合った。

パフォーマンスの背後に腸内細菌

腸内細菌研究のトップランナー。 メタジェン代表取締役社長 CEO・福田真嗣さん
福田真嗣さん
福田真嗣(ふくだ・しんじ)/1977年生まれ。慶應義塾大学先端生命科学研究所特任教授。明治大学大学院博士課程を修了後、理化学研究所などを経て現職。2015年にメタジェンを設立。腸内フローラ研究の第一人者。専門は腸内環境制御学、統合オミクス科学。博士(農学)。
750人以上のアスリートの便を検査した。AuB CEO(元サッカー日本代表)・ 鈴木啓太さん
鈴木啓太さん
鈴木啓太(すずき・けいた)/1981年生まれ。元サッカー日本代表。2000〜15年、浦和レッドダイヤモンズでMFとして活躍。06〜08年日本代表に選出。現役引退を決断後、15年アスリートの腸から世界の健康を変えようとAuBを設立。社名はAthlete microbiome Bankから。

福田 アスリートの間でも、腸内細菌は話題になっていますか?

鈴木 6年前に僕らが便を集め始めた頃、多くの選手は「ウンチから何がわかるの?」という感じでしたが、現在ではアスリートにも腸内細菌に興味を持つ人が増えてきました。

合宿や寮生活などで同じ食事をしても、太る人もいれば痩せる人もいるし、同じトレーニングを重ねても、パフォーマンスに差が出ることもある。その背後に腸内細菌がいるかもと説明すると、選手も納得してくれます。

福田 私たちも駅伝選手の便を集めて分析しましたが、彼らもお腹の調子とコンディションがリンクすると気づいているようでした。

鈴木 どの菌を増やせば、運動能力が上がるかといった派手な話題に飛びつきがちですが、アスリートで何より大事なのは体調管理だと思う。選手が選手でいられるのは、スキルアップのための厳しい練習を繰り返し行えるから。

そのために、疲労をすぐ回復させ、コンディションを保つことが求められます。そこに腸が関わるらしいというのは、僕自身も現役時代から痛感していたので、食事には細心の注意を払っていました。

見つけるべきは、競技ごとの共通項

福田 アスリートは努力する才能があるとよく言いますね。その土台は疲労から素早く回復する能力なのかと思うのですが、それを支えるのは食事ですよ。一方、偏食でも強い選手がいるのも事実。

鈴木 肉しか食べない、野菜嫌い、チョコレートや清涼飲料水が大好きすぎる…。選手もいろいろです。

福田 腸内細菌のためには、偏りなく多様な食材を食べるのが最大公約数的な正解。私も普段からそうした食生活を心掛けていますが、それが全員に妥当な最適解とは限らない。

鈴木 チョコやコーラをエネルギーに変える特殊な腸内細菌の持ち主なら、ライバルを出し抜く成果が出せるかもしれない。ただ、限られた特殊な人を研究するより、検査数を増やし、パフォーマンスが高い人に共通して見られる腸内細菌と食の傾向を見出すことが重要だと思います。

福田 同意見ですね。たとえば、サッカー選手に共通する腸内細菌が見つかったら、そこにフィットした食事をすることで、偏食など好き勝手な食生活を送るより、競技特性に応じた運動機能が高まる可能性がある。

その後、それぞれの腸内細菌の個性を踏まえ、食事をオーダーメイドでオプティマイズ(最適化)すればいい。医薬品も、初めは大多数に効くものを処方し、効かない人には別の選択肢を提案するという順番です。

鈴木 クリスティアーノ・ロナウドと同じ食事をしたからといって、全員ロナウドになれるわけではない。

福田 競技ごとの特性を踏まえた理想の腸内細菌叢と、それをオプティマイズできる食事を、選手一人ひとりに提案できたら素晴らしいですね。

競技ごとに最適の腸内細菌のバランスとそれを育てる食事がある
競技ごとに最適の腸内細菌のバランスとそれを育てる食事がある。

同じ腸活を続けていると効果が落ちる

鈴木 運動、食事、休養という従来の3本柱に、腸活がプラスされる未来が来るのは、アスリート的にもウェルカム。ただ、いくら腸内細菌に良くても、いつも同じ食事では飽きますよね。“継続は力なり”は事実ですが、どう継続するかも重要。

運動も毎度同じやり方だとカラダが慣れてトレーニング効果が落ちるので、サッカー選手はオフ期にテニスや水泳などで違う刺激を入れています。

福田 腸内細菌の増殖や活動を促すプレバイオティクスの分野でも、同じ成分を摂り続けると、その効果が落ちる現象が知られています。

鈴木 アスリートの世界と同じだ!

福田 そこで、パータベーションといって、定常状態に少し波風が立つような適度な変化を加えながら、いい状態を保つことが求められます。夫婦関係がマンネリ化しないように、旦那さんが奥さんにサプライズで花束を渡す気遣いと同じですね。

鈴木 (爆笑)菌に花束を渡すわけにはいきませんが、どうしたら腸内細菌に良い刺激を入れられますか?

福田 実感が不明のヨーグルトなどを漫然と続けるのではなく、腸内細菌のバランスと彼らが作る代謝物質の内容を“見える化”して定期的にチェックし、その変化と体調を見ながら食事内容を見直すべきでしょう。

鈴木 そのためにも、体脂肪率を測るように、手軽に腸内環境をチェックできるサービスが求められますね。

福田 まさにそうしたものを開発したいと思っていますし、啓太さんたちとも協力して広めたいですね。

鈴木 健康診断や体力テストと同じノリで、腸内環境をチェックするのが当たり前の時代を作りたいです。

アスリートの資質は、母親を見ればわかる?

福田 将来的には、トップアスリートの原石を見つけるうえでも、腸内細菌の分析が役立つかもしれない。

鈴木 大谷翔平選手のように、アスリートの両親からトップアスリートが誕生することもありますが、そこには英才教育などの環境面に加えて、腸内細菌が関わることも考えられます。聞いた話では、サッカーのスカウトは選手の母親がどういう人かも、ちゃんと見ているそうです。

福田 それは面白い! 腸内細菌の大部分は、分娩時に母親から引き継ぎますからね。一緒に入浴することで父親の菌も多少は移りますが、母親の影響の方が大きいことが知られています。それに、運動に関わる細胞内のミトコンドリアの遺伝子は、お母さんからしか受け継ぎません。

アスリートの母親から腸内細菌と食生活を受け継ぐ子どもは有利?
アスリートの母親から腸内細菌と食生活を受け継ぐ子どもは有利?

鈴木 うちもそうでしたが、母親が食事を作る機会が多いと、菌を育てる食事が、おふくろの味として子どもへ継承されることもあり得る。

福田 「食の好みは、腸内細菌が決める」というのが私の持論。母親が自らの菌が求める食事を無意識に作っているうちに、意図せずして腸内細菌と食の好みがセットで子どもに移行し、運動能力のベースを左右することも考えられそうです。

鈴木 ですね。アスリートの腸内細菌の分析で得られた知見を、一般の方に役立つように還元したい。美味しく食べて腸が元気になり、それでスポーツがより楽しくなり、健康になる世界を実現するのが目標です。

福田 同感です。そのためにも今後、しっかり連携していきましょう!

取材・文/井上健二 イラストレーション/藤田翔

初出『Tarzan』No.817・2021年8月26日発売

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