【徹底解説】今夜、湯船に浸かるべき理由。+入り方3選
なんとなく浸かったほうがいいんだろうな、とは思っていたが、そのメリットたるや、タイトルのように声を大にして叫びたくなるほど。湯船が一般的な日本の住環境に感謝しつつ、さっそく沸かしてほしい。
取材・文/石飛カノ イラストレーション/死後くん 取材協力/早坂信哉(東京都市大学人間科学部教授)
初出『Tarzan』No.815・2021年7月21日発売
目次
理由①|入浴でしか得られない健康効果があるから。
トレレーニング後は即、風呂に直行してさっぱりしたい。でも、浴槽に湯を張るのが面倒くさいので、さっとシャワーを浴びて入浴完了。いや、それかなりもったいない。入浴の健康効果は湯船に浸かって初めて得られるもの。20年以上風呂と温泉について医学的な研究を重ねてきた早坂信哉さん(東京都市大学人間科学部教授)は言う。
「毎日、習慣的に湯船に浸かるのは世界中で日本人だけ。この習慣が長寿のひとつの原因である可能性は大いにあると思います」
入浴の効果はいくつもあるが、なかでも重要なのは温熱作用、静水圧作用、浮力作用、粘性・抵抗性の4つ。これらはすべて浴槽の湯に浸かることで得られるという。
「温熱作用や静水圧作用で血液循環が促され、体内の老廃物や炎症物質が排出されます。浮力作用で筋肉の緊張が取れてリラックスでき、粘性・抵抗性による重力以外の負荷が筋肉を適度に刺激します」
つまり、血液の循環がよくなることで疲労が軽減され、浮力や粘性・抵抗性による刺激がリラクセーションを促す。トレーニング後のケアとしてこれほど最適なものはない。シャワーだけとは実にもったいない話。
覚えておきたい「入浴の効果」4つ。
温熱作用/湯に浸かることでカラダが温まり、血管が広がって多くの血液が全身を巡る。酸素や栄養が必要な場所に運ばれ、老廃物は回収される。これが入浴最大の恩恵。
浮力作用/浮力の法則で浴槽の中では体重が陸上に比べて約10分の1になる。重力から解放されることにより関節や筋肉への緊張がゆるみ、リラクセーションが促される。
浸水圧作用/湯の水圧がかかることで全身がマッサージされたような状態になる。水圧と温熱作用によるダブル効果で血液循環が促されるという仕組み。とくに下半身のむくみに有効。
粘性・抵抗性/浴槽に浸かった状態で手足を動かすと水の抵抗が加わり、重力以外の負荷がかかる。粘性・抵抗性による負荷は陸上の3〜4倍。小さい動きで適度な負荷が得られる。
理由②|湯温40度の入浴は適度な体調を保てるから。
とはいえ、湯船に浸かりさえすればいいってものじゃない。入浴の健康効果を最大限に狙うなら、それなりの条件を満たす必要がある。ひとつは温度。最適の湯温はおよそ40度だという。
「血液の流れがよくなる温度が40度と考えられるからです。41度を越えると交感神経のスイッチが入って心臓への負荷が増えます。逆に38度では体温の上昇が見られず、温熱効果が得られません」
入浴の目的のひとつは全身をリラックスさせること。湯温が熱すぎるとこの目的が叶わず、湯温が低すぎると温熱による健康効果が得られない。よって、最適の温度は39〜40度と推定されるわけだ。
シャワー派の人にとっては、ちょっとぬるいんじゃね? と感じられるかもしれない。というのは、シャワーはヘッドから距離があり、湯に触れるカラダの面積が少ないため42度くらいを適温と感じるせい。全身を湯に沈めて温まるなら、40度が快適かつ有効なのだ。
理由③|十分な温熱効果が10分間で得られるから。
入浴の条件のふたつ目は時間。湯船に浸かる時間は10分間というのがセオリーだ。
「わずか10分の入浴で体温は0.5度くらい上がります。浴室の密閉度が高く、蒸気がこもっているなど条件によっては1度くらい上昇することもあります。0.5〜1度皮膚表面の体温が上昇すると血液循環が促され、深部体温も上がります。ところが、20分、30分と浸かり続けると体温が上がりすぎて入浴熱中症という“のぼせ”の状態に陥ることもあります」
入浴の4大効果のうち、温熱作用に関していえば、10分間で十分な効果を得ることができる。頑張って長く浸かってもかえって逆効果なのだ。入浴時間は長くても15分まで。逆にすぐのぼせてしまうという人は、無理して10分浸かる必要はない。鼻の頭に汗をかいたら体温が0.5度程度上がっている証拠。速やかに浴槽から出てよし。
理由④|毎日入浴することで将来の幸福度が上がるから。
早坂さんの研究チームが行った調査によると、毎日湯船に浸かる高齢者はその3年後に要介護になるリスクが29%も低いということが分かったという。湯船に浸かることはなんとなくカラダによさそう、という漠然としたイメージが“見える化”した衝撃的な報告だ。
「別の研究でも、毎日湯船に浸かる人は脳卒中や心筋梗塞のリスクがやはり3割程度減るという報告があります。もしかしたら入浴には血圧を下げる薬より遥かに高い効果が期待できるかもしれません」
日本人の長寿のひとつの原因が入浴にあるかもしれない、という可能性はこうした研究報告から導き出された。幸いなことに、多くの日本人はその気になれば毎日入浴できる住環境にいるはず。ならば、毎日の入浴で将来の幸福度アップに努めなきゃ損というもの。
いざ、実践! シーン別・入り方3選。
ではここから、入浴のすごい効果にあやかるための実践法をご紹介。と、その前に、まずは入浴のタイミングを心得ておこう。
入浴は夕食の1時間後、消化吸収をある程度済ませ、胃腸に負担をかけないタイミングで。入浴後、一度体温は上がるが約90分後に今度は急激に下がる。このタイミングでベッドに入ると深い睡眠が得られ、翌朝のスッキリした目覚めに繫がる。ざっくりとしたタイムスケジュールは下に示した通り。
肝心の入浴法は3種類。基本は40度10分浴だが、その日の目的や気分に合わせてバリエーションの入浴法を試してみる手もあり。さて、今日はどの入り方にしてみる?
① 毎日の入浴では…「基本の40℃ 10分浴」
理想的な湯温の目安40度で10分間の入浴。これが基本形。たった10分と思うなかれ。肩までしっかり湯に浸かる全身浴の場合、10分間で結構いっぱいいっぱいなはずだ。
みぞおちまで湯に浸かる半身浴でもいいかって? 否、全身浴の温熱効果を1とすると、半身浴のそれは0.5。およそ半分の効果しか得られない。どうしても半身浴じゃないとイヤという人は、浸かる時間を倍の20分にすること。
で、どうせ10分間湯に浸かるならせっかくの浮力作用と粘性・抵抗性を利用してストレッチなどの運動をしてみよう。なにせ体重は陸上の10分の1、温熱作用によって筋肉や靱帯などの柔軟性も増しているので、体操選手のようなアクロバティックなポーズも可能。2〜3分湯に浸かってから運動を行い、10分後に速やかに上がるべし。
COLUMN|浴槽の中ならこんな動きも!
浴槽内でできる体幹トレ。両手とお尻を浴槽の底につけて両脚を上下させる。陸上でこの動きはかなりハードだが、浮力の効果で楽にこなせる。さらに、脚を上下させるときに水の粘性・抵抗性によって、陸上ではかからない負荷を加えることもできる。
② 長風呂したい日なら…「38℃で20〜30分浴」
今日は長風呂したい気分。そんな日は湯温を若干低くして入浴を。38度程度の湯なら、20分でも30分でも入り続けられるはず。
でもそれじゃ体温上昇による温熱効果が得られない? おっしゃる通り。そこで利用したいのが炭酸系の入浴剤だ。炭酸の分子は皮膚から吸収されて血管に至る。血管の内皮細胞ではNO(一酸化窒素)が作られ、血管を拡張させたり柔らかくするのだが、炭酸の分子はこのNOの産生を促すことが分かっている。
血管が柔らかくなり拡張すれば、おのずと血流量が増す。つまり、体温は上昇せずとも酸素や栄養が全身に届けられ、老廃物や炎症物質は排出される。なので、ぬるめの湯にダラダラ浸かっていても入浴による健康効果が得られるというわけ。時間に余裕があるときや、長風呂派はぜひお試しあれ。
COLUMN|入浴剤を選ぶなら医薬部外品。
入浴剤を選ぶときは商品表示に注目。「医薬部外品」と明記されているものなら、まず間違いなし。効果効能がそれなりに期待できる。効果が多少マイルドになるのが「浴用化粧品」。何も明記されていない土産物の類いは、ほぼ雰囲気、効果はほとんど期待できない。
③ 週末リフレッシュするなら…「温冷交代浴」
「整った〜!」と法悦の表情でのたまうサウナー体験を自宅のお風呂でできないものか。そう考えている人は少なくないかもしれない。ええできますとも、サウナー体験。
その入浴法は温冷交替浴。まず42度程度の湯に約3分間浸かる。むろん全身浴でだ。次にザバッと湯船から出て、常温の水シャワーを約1分間浴びる。これを1セットとして3セット繰り返す。最後の水シャワーを終えたらフィニッシュは外気浴。ベランダなどに出て10分程度ゆったり休憩。高温浴と水シャワーで交感神経が、外気浴で副交感神経が優位になり、自律神経が劇的にスイッチすることによる「整った」体験ができるはず。
血流が巡ることによる身体的な疲労回復効果、外気浴で締めることによるメンタル的なリフレッシュが期待できる。週末にお試しを。
COLUMN|シャワーは30°Cで手足だけでもよし。
サウナの水風呂は実はかなり危険。血圧が上がり不整脈を起こすリスクもある。高温浴の直後の冷水シャワーは夏場なら25度程度だが結構冷たく感じるはず。全身シャワー浴が辛いという人は、温水プール並みの30度程度のぬるま湯を手足のみにかける手もある。