万病の元である肥満防止は、食事制限でなく運動で。
世界的に見ると日本人に肥満は少ない。それでも日本の成人男性の3人に1人、成人女性の5人に1人は肥満。最近はコロナ太りも増えた。
かつては「風邪は万病の元」といわれていたが、現在は「肥満は万病の元」というのが定説。太っていると、高血圧、動脈硬化、脂肪肝、そして大腸がんや乳がんの誘因にもなる。肥満からの脱出は健康作りの一丁目一番地だが、ダイエット(食事制限)で痩せるのはNG。
「食事制限では体脂肪ばかりではなく、大事な筋肉も減る。肥満解消には運動で消費カロリーを増やすことが欠かせないのです」(筑波大学人間総合科学学術院の久野譜也教授)
そもそも運動不足だと、40代以降では年1%ずつ筋肉が減る。さらに、久野先生らの研究では、食事制限を3か月続けるだけで、3.5%も筋肉が減るという報告もある。筋肉は、じっと横になっているときでも消費する基礎代謝の約20%を占める。筋肉が減ると代謝が落ち、余計に太りやすくなるので逆効果なのだ。
平均的な摂取カロリーを見ると、日本人の大半は決して食べすぎているとは言えない。それなのに肥満者が多いのは、運動などによる消費カロリーが足りないからだろう。運動量を増やし、肥満をリセットしよう。
内臓脂肪型肥満とメタボを、有酸素運動で撃退する。
太ると溜まる体脂肪には、おもに皮下脂肪と内臓脂肪がある。肥満でもとくに気を付けたいのは、内臓脂肪の溜まりすぎにより、お腹が出てくる内臓脂肪型肥満。肥満の度合いを示すBMI(下コラム参照)が25以上であり、ヘソの高さで測る腹囲が男性で85cm、女性で90cmを超えると、内臓脂肪型肥満の疑いが濃厚となる。
内臓脂肪型肥満が怖いのは、生活習慣病のリスクを高めるから。
脂肪細胞は、単に体脂肪を溜めるだけではなく、筋肉の細胞と同じようにホルモンに似た物質を分泌している。これをアディポサイトカインという。アディポサイトカインには善玉と悪玉があり、内臓脂肪が溜まりすぎると悪玉が増えてくる。
このうち悪玉には、血圧や血糖値を上げたり、血栓という血の固まりを生じやすくしたりする働きがあり、高血圧や糖尿病といった生活習慣病のリスクを高める。そして内臓脂肪型肥満に、高血圧、高血糖、脂質異常症のうち2つが重なると、メタボリックシンドロームと診断される。
困った内臓脂肪を減らすのにも有効なのが、ウォーキングやジョグといった有酸素運動。有酸素では内臓脂肪から先に分解されやすいのだ。
BMIと体脂肪率をチェック!
肥満=体重が重たいことではない。正確には、無駄な体脂肪が溜まりすぎた状態。体重に占める体脂肪の重さの割合を示す体脂肪率が、一般的に男性で20%、女性で30%を超えると軽度肥満と考えられる。
体脂肪率は体組成計で測るが、体組成計がないときは、体重と身長から計算するBMIで肥満度を推定。BMIは体重(kg)を身長(m)の2乗で割ったもの。体脂肪率との相関性が高く、日本肥満学会はBMI25以上を肥満としている。
体重を目安に減量するなら、BMI22の体重を目指すべき。統計的にはBMI22前後がもっともヘルシーで死亡率が低いとされるからだ。この体重(理想体重)は、身長(m)の2乗×22で逆算できる。ただし、70代以降はBMI22以上で25未満の少しぽっちゃりの方が長生きするというデータもある。
「高齢者では肥満より低栄養の方が怖い。食欲があり、少し太れるくらい食べられる方が疾病リスクを減らせるのです」
異所性脂肪の恐怖から、筋肉と肝臓を守り抜け。
肥満者では、皮下脂肪と内臓脂肪以外に溜まる体脂肪がある。それが、異所性脂肪。「本来は溜まらない場所に溜まる脂肪」という意味だ。
異所性脂肪が真っ先に溜まりやすいのが、筋肉。筋肉は、前述のように筋細胞を束ねたもの。筋肉の異所性脂肪には、霜降り肉のように筋細胞の間に溜まるものと、筋細胞内に溜まるものがあり、いずれも筋肉の機能を妨げる。
たとえば、筋肉は血糖の最大の引き受け手だが、異所性脂肪が溜まると血糖を取り込む能力が落ち、高血糖、糖尿病を招く。
この他、肝臓にも異所性脂肪は溜まりやすい。それがいわゆる脂肪肝。脂肪肝はお酒の飲み過ぎで起こるという印象が強いけれど、甘いモノなどの過食などで脂肪肝になることもある。それを放置して非アルコール性脂肪肝炎(NASH)に進行すると、のちのち肝硬変や肝がんに至ることも。
異所性脂肪を退治するのに有効なのも、やはり有酸素運動。
「有酸素だと異所性脂肪は減りやすいのに、ダイエットのみだと異所性脂肪は減りにくいので要注意です」