肩こり・腰痛改善の秘密兵器。基礎から学ぶ「ゆったり太極拳」
心にゆとりを持って、太極拳の動作を見よう見まねでやってみよう。カラダがじんわり温まり、血の巡りがよくなるのを感じるだろう。肩も腰も、いつのまにか楽になる!
取材・文/石飛カノ 撮影/山城健朗 監修・指導/市来崎大祐(TAI CHI STUDIO)
初出『Tarzan』No.803・2021年1月28日発売
動きながらツボを刺激できる。
朝の公園で高齢者たちが集って行う健康体操。そんなイメージが強い太極拳だが、その源流は武術。お馴染みの「ゆったり動作」は正確な動作をトレースする練習法で、現在普及しているのはさらに一般人向けに簡易化されたバージョンだ。
筋力やバランス能力、柔軟性が養えるといった効果は知られているが、それは太極拳の御利益のほんの一部。
「実は太極拳の動きの中でツボや経絡を刺激することができるんです」
と言うのは、武術太極拳元日本代表でタイチインストラクターの市来崎大祐さん。経絡とはざっくり言うとカラダの内外を通っているエネルギーライン、ツボは経絡上の要所にあるエネルギーの出入り口のこと。
「手首や足首を曲げたり、胸を開くことでツボや経絡を刺激することができます。たとえば中極というツボを刺激すれば腰、任脈という経絡を刺激すれば肩の不調の改善に役立ちます」
おお〜、さすが中国四千年の歴史! 動くと同時に肩こり腰痛改善のツボも刺激できるとは、奥が深い。
血流アップもポイント。
「また、太極拳の動きは陰陽のバランスです。開いて閉じる、伸ばして縮める、絞って緩めるというように常に一対の動きになります。とくに力みがちな現代人にとっては緩めるという動作が重要なポイント。呼吸を意識して行うので、より酸素がカラダに取り込まれ、その結果、血流が促されてリラックスや安眠にも繫がります」
実際、ほんの数分行うだけで血流が促されカラダが熱くなるという。
「さらに太極拳は3Dの円運動。一か所に負荷が集中しないのでケガをしづらいことも特徴です。着地をするときもドンと足をつくのではなく、筋肉を伸ばしながらそっと地面に足を下ろす。筋肉を伸ばしつつ力を発揮するエキセントリック運動なので、筋肥大の効果も期待できます」
すべての動きには理に適った背景がある。ならば、おじいちゃんおばあちゃんに独占させてなるものか。基本姿勢の立身中正から、早速トライしよう。
基本の姿勢「立身中正」
- 百会(ひゃくえ)というツボを意識する。百会にヒモが結ばれていて、上から吊るされているようなイメージで立つ。顎が上がらないよう注意。
- 肩と肘の力を抜いて下に下ろす。そのまま体内の意識を丹田に沈める。丹田は気の集まる部位でへそから数cm下の下腹部。
- 丹田にスポンジのようなものがあるとイメージする。そのスポンジが呼吸のたびに大きくなったり小さくなったりするつもりで。
- 左右の肩甲骨の間が開くことを意識して息を吸う。胸椎、腰椎、仙骨までが床に対してしっかり垂直になるよう意識する。
- 会陰部に注意を向ける。内臓を受け止めている小さな筋肉群、骨盤底筋群を意識して、これをすぼめるようにして立つ。
太極拳の動作特徴
- 3Dの動きで五臓六腑に効果のあるツボや経絡を刺激できる。
- 緩やかな体重移動で脚腰に適度な負荷がかかる。
- 力を抜く動きで筋肉が緩み、柔軟性が養える。
- 深い呼吸によって副交感神経が優位になる。
こんな健康効果が期待できる!
- バランス能力、柔軟性、筋力のボトムアップ。
- 敏捷性と耐久性の向上。
- 心肺機能の向上。
- 肩こりや腰痛などの慢性の痛みの改善。
- 不安や精神的ストレスの緩和。
- 睡眠の質の向上。
① 弓の動き
弓を引き絞って矢を放ち、深い呼吸を取り戻す。
弓を引き絞って矢を放つ動きをイメージする。弓を引き絞るとき、伸ばした腕の手首をしっかり立てることで、「手の太陰肺経」という呼吸機能に関係する「肺」の経絡を刺激する。悪姿勢で浅くなりがちな呼吸を深めて全身に気を巡らせることが目的だ。
腰をしっかり落として顔の向きと手の動き、呼吸を連動させて行う。左右各5回。しっかり行えば全身が熱くなり、終了後には呼吸も深くなっているはず。
- 両足を広めに開いて立ち、両手の掌を開いて両腕を斜め上に上げる。
- 息を吐きながら腰を落としつつ、両手をゆっくりクロス。
- 右手は軽く拳を握り、左手は親指と人差し指を伸ばして残りの指を握る。顔は左方向に向ける。
- 弓を引くようなイメージで左腕を伸ばし、右腕の肘を曲げて両腕を左右に開く。左の手首は90度曲げる。
- 息を吸いながら顔を正面に戻しつつ腰を引き上げる。次は顔と手のポジションを逆にして行う。
② 鳥の動き
羽ばたく鳥の動きで腰痛改善のツボを刺激する。
片脚立ちになって胸を反らすことで、下腹部にある「中極」というツボを刺激する。中極は腰に不調を感じたとき、何気なく手を当てる部位の反対側に位置するツボ。腰にトラブルがあると反対側のお腹周辺も硬くなりがち。まず、この状態をほぐすことが重要。
息を吐いて膝を緩め、息を吸いながら胸を伸ばして、陰陽のバランスを整えつつじっくり刺激を。肩甲骨も大きく動かすので肩こりにも対応。左右各5回。
- 両足を肩幅に開いて立ち、両手の掌を重ねて頭上へ。手を頭のてっぺんより後ろに引いて胸を開く。
- 息を吐きながら両手を肩の高さまで下ろす。同時に両膝を緩めて腰を落とす。
- 息を吸いながら左脚を後方へゆっくり蹴り出し片脚立ちに。同時に両腕を捻りながら後方へ伸ばし、胸を張る。
- 息を吐きながら左脚を元の位置に戻し、両手を前へ。再び膝を緩めて腰を落とす。
- 息を吸いながら両手を重ねつつ膝を伸ばし、元の姿勢に。次は軸脚を変えて行う。
③ 烏龍盤打(うーろんばんだー)
床を叩いて黒龍を鎮め、肩・腰の痛みを解消。
「烏龍」とはお茶ではなく、中国では縁起がよくないとされる黒龍を意味する。フィニッシュの動きで床をムチのように掌で叩くことで、黒龍を水底に鎮める。意味合い的にも縁起のいい太極拳の動作。
刺激するツボは脇腹にある「帯脈」。腰痛および肩こり改善にも有効なツボだ。カラダを捻りながら腕を大きく3回回して最後に深く腰を落として床を叩く。これを流れるような動きで左右各5回。
- 両足を大きく開いて立ち、両腕を左右に開く。指は揃えてまっすぐ伸ばす。
- 膝を緩めて上体を左方向に向けながら両腕を自然に下ろし、右腕を後方に大きく回転。
- 腕を回転させた流れで上体の向きを正面に戻す。
- 再び膝を緩めて上体を右方向に向けながら、左腕を耳に沿わせるようにして大きく回転。
- 右腕を後ろから前に回転させつつ上体の向きを正面に戻す。
- 最後に左膝を深く曲げて腰を落とし、右手で床を叩いたら、元の姿勢に戻る。次は逆側の動きで同様に。
④ 虎の動き
虎のように背骨を波立て、仕上げに万能ツボを刺激。
背骨を反らせて虎が獲物に飛びかかるように上体を深く屈め、腰椎、胸椎、頸椎と下から順番に背骨をウェーブさせてカラダを起こす。これだけでも肩や腰の凝りをほぐす効果は十分。
足をそっと1歩前に出す最後の動作で、脚の疲れやむくみ、腰痛、肩こり予防、体力増強など万能ツボと呼ばれる「足三里」を刺激する。足をそっと床につける動きはエキセントリックトレーニングにも繫がる。左右各5回。
- 両足を肩幅に開いて立ち、両手は腰の前、指を虎の爪のようにぐっと曲げる。
- 肘を曲げて胸を開きつつ、両手を頭上に高く上げる。
- 虎が前方目がけて飛び込むようなイメージで上体を前に倒し、両手を爪先に近づける。
- 骨盤、腰椎、胸椎、頸椎と下から順番に背骨をしならせるようにして、上体をゆっくり引き上げる。
- 肘を曲げて両手を引き上げ、頭上に上げると同時に右足を床から浮かせる。
- 背すじを伸ばして上体を前に倒しつつ、浮かせた脚を前方に伸ばしたら、足首を立てて踵をトンと床につける。元の姿勢に戻り、次は逆脚で行う。
⑤ 烏龍擺尾(うーろんばんびー)
龍が尾を振り回すように全身を使って回転する。
黒龍が長い尾を振り回すようなイメージの動き。最初は上体を使って大きくカラダを回転させる。写真では1回転だが、2回転繰り返す。その後、上体を固定して腰だけを1回転。
この動きに限ってはツボや経絡の刺激というより、全身の血流を促す有酸素運動的な効果を狙う。とくに股関節の血流が促されるので、腰痛改善が期待できる。呼吸は止めずにゆっくりとした自然呼吸で。左右各1回で終了。
- 両足をできるだけ大きく開いて立ち、膝を曲げて腰を落とす。両手は腰に。
- お腹と太腿を近づけるようにして上体を右に倒す。
- 上体で円を描きながら、床と平行になるように前方へ移動させる。
- 続いて左脚に重心を移し、お腹と太腿を近づける。
- そのまま胸とお腹を開き、上体を後ろに反らせて大きく円運動。
- しっかり回り切ったら、同様の動きでもう1回転させる。
- 2回転したら上体と頭を固定し、骨盤だけもう1回転させて、元の姿勢に戻る。