ケースワークで学ぶ、間違いだらけの「健康飲料」
健康によかれと思って頑張っていても、その方向がとんちんかんだと、苦労は多いのに効果はさっぱり。どころか、むしろ悪化するばかり…、なんてことに。今回は、白湯やコーヒー、野菜ジュースなど、摂る量やタイミングに気をつけたい「健康飲料」について。
取材・文/廣松正浩 イラストレーション/安ヶ平正哉 取材協力/美才治真澄(管理栄養士、フードコーディネーター)
初出『Tarzan』No.799・2020年11月5日発売
目次
ケース・その1「デトックスのため、水たくさん摂ってます」
モーニングルーティンは沸かした白湯で大腸を温め、カラダを目覚めさせたら、瞑想もゆっくりと。水は1日に1.5Lは飲まないとね。デトックスのためにも水分補給は欠かせません。
「大腸から温めるとカラダが目覚めるという話にエビデンスはありません。まして白湯を飲んだからといってダイエット効果など期待できません」(管理栄養士の美才治真澄さん)
温めた白湯に何か特別な働きがあるわけではない。水分補給が目的なら、ただの水道水で十分だ。
「就寝中の発汗で失った水分を補給するため、というのなら正解です。けれど、それが白湯でなければならない理由は何もありません」
近ごろでは、水太りやむくみを気に病む女性にラズベリーリーフティーなどの“デトックスティー”が人気で、これをせっせと飲む流派も出現。
「こうしたドリンクには利尿作用の強いものもあるので、飲み過ぎるとかえって脱水症状が高じ、ドロドロ血から血栓を生じる危険性が生じます」
そもそもデトックスを目的に、何らかのドリンクを大量に飲み排尿、発汗を狙うのは効率がよくない。ヒトが排出する毒素の70%は便によって。尿はせいぜい20%で、汗からは3%にすぎないという報告がある。出してデトックスにつなげやすいのはむしろ便。排尿も発汗もデトックス効率は低い。
「末梢に水分が滞留しがちだから、利尿作用の強いドリンクが手放せないというなら、そうしなければならないような病態に陥っている可能性があります。心当たりのある方は、一度医師に相談する方がいいでしょう」
ちなみに水の飲み過ぎは低ナトリウム血症を招くこともある。これは対応を誤ると生命にも関わる重大疾患だ。たかが水ではないのだ。
ケース・その2「栄養補給のためにオーツミルク、健康効果のためにコーヒーを愛飲」
タピオカミルクティーの次はこれ。アーモンドやオーツのミルクなら、低エネルギーで栄養的にも優秀。 コーヒーも健康効果がすごいらしい から、毎日せっせと飲んでます。
「以前は飲み切りタイプの小さなパックで売られていましたが、いまは1Lクラスの製品がどーんと店頭に並んでいるのを見かけます。これを牛乳や豆乳の代替品として飲むのはいかがなものかと危惧しています」(美才治さん)
確かに多くのアーモンドミルクは低エネルギー。だが、大量の水で希釈しているだけの製品もあるとか。
「ビタミンEやマグネシウムの補給にはなるでしょうけど、食事で他の食品から摂れば十分です。オーツミルクもオーツ麦を水の中で攪拌した汁を搾ったもので、単に薄~いお粥のようなものだと思います」
いわゆるヘルシー志向の新しもの好きが飛びついているだけかもしれないが、実際に表示を見ると、栄養成分は種類も量も意外に少ないという。
「これでは牛乳、豆乳の代役は務まりません。栄養面で評価するなら牛乳、豆乳の方がはるかに上で、同列で考えるべきものではありません」
それでも売り場で幅を利かせているのは、種類の豊富さにもよるだろう。多くのフレーバーが存在するのは、多種多様な添加物の使用を暗示する。
「一時ブームになりかけたココナッツウォーターも、成分的にはすごく薄めたスポーツドリンクのようなもの。渇きを抑えるのが目的ならば、ただの水でまったく構いません」
また、近年ではカフェインの健康効果、ダイエット効果が声高に喧伝されるコーヒーだが、利尿作用が強いので、水代わりに飲むのは考えもの。
「気分転換に3~5杯程度を飲む人が、それに毎度たっぷりの牛乳や砂糖を加えるなら、そちらの方が問題でしょう」
ブラックコーヒーにとどめ、カフェイン中毒になるほどの大量摂取でなければ肥満のリスクは低い。ただし、エナジードリンクやカフェインのサプリとの同時摂取はタブーだ。乱用は思わぬ事故のもと。ほどほどにね。
ケース・その3「疲労回復やビタミン補給は、甘酒&野菜ジュースで完璧!」
甘酒は“飲む点滴”。砂糖の甘さではないのに、疲労からの回復にはもってこいのすぐれもの。あとはトマトジュースや野菜ジュースでビタミンもたっぷりです。
「これも最近1Lクラスの大容量タイプの商品が当たり前になりつつありますが、日々大量に飲むのは問題だと思います。“飲む点滴”の中身はブドウ糖。糖質の大量摂取と同じです」(美才治さん)
砂糖を加えていないから糖質ではないと言い張る人もいる。だが、そもそも水と白米、そして米麴を合わせ、発酵させて作る甘酒は、発酵過程で白米のデンプンが糖質に分解されているし、米麴自体半分以上は糖質だ。
「食物繊維量もごくわずかだから、血糖値の急上昇を招きかねず、多飲は危険な食習慣だと思います」
本格的な製品は米麴から作るから、美肌にいいと麴菌に期待する女性も少なくないようだが、市販の甘酒は出荷前に加熱殺菌しなければならず、麴菌はとっくの昔に死んでいる。
一方で野菜の調理は面倒だから、野菜ジュースに逃げ、1パックで2分の1日分の野菜補給をもくろむ人も。
「あれは原材料に2分の1日分の野菜を使用していることを意味しているだけです。2分の1日分の野菜を食べたことにはなりません」
しかも、トマトジュースやニンジンジュースなどには若干の甘みを感じる。それももちろん糖質だ。果物と混ぜていないストイックなトマトジュースでさえ100g当たりの炭水化物は4.0g(うち食物繊維は0.7g)。実は結構入っているのだ。
反対に食物繊維は意外に少ない。それはそうだ。ジュースを作る工程で濾過する際に、不溶性の食物繊維は取り除かれてしまうので、生より繊維量は少なくなる。
トマトジュースなら抗酸化物質、リコピンの補充にはなるが、他のビタミンが特に多いわけでもない。
「だからといってフルーツ系のジュースにサンドイッチを組み合わせたら、それはもう糖質+脂質と思った方がいいでしょう」